超伝導加速器を使った逆コンプトン散乱によるX線生成実験に成功

 


超伝導加速器(右側)とその出力電子ビームを細く絞るビームラインと4枚鏡共振器とを組み合わせて構成されたX線生成装置(左側)のイラスト図 ©Rey.Hori

KEKの超伝導リニアック試験施設(STF)で実施されている、小型高輝度光子ビーム発生装置の逆コンプトン散乱※1によるX線生成実験で、3月15日(金)、逆コンプトン散乱によるX線と確認できる信号を捉える事に成功しました。

小型高輝度光子ビーム発生装置は、超伝導加速によって加速した電子ビームを、4枚ミラー光共振器※2に蓄積されたレーザーパルスと正面衝突させることにより、逆コンプトン散乱を起こし、輝度の高いX線を生成します。この技術を超伝導加速器に応用し、X線の生成に成功したのは世界初となります。


STFに設置されている高輝度光子ビームの発生装置
私たちの生活は、量子力学の法則に則った量子エレクトロニクス※3という性質が使われることで、様々な恩恵を受けています。この性質を「ビーム」として利用することで、ポストゲノム、ナノテク、原子レベルでの構造解析等、研究の飛躍的な発展が期待できます。それを創薬や微量分析、電池の開発等へ応用することによる生活向上へつなげるための、実用的な装置開発に向けた開発研究を行うことが、今回の実験の目的です。

装置開発における重要な課題が「高いエネルギー効率で、高品質・大強度(大電流)の電子ビームを実現すること」でした。この電子ビームの実現に最も有効な手段が超伝導高周波加速器です。また、この技術は加速器の大幅な小型化にも寄与します。 KEKは、長年のリニアコライダー研究において、高度な超伝導加速技術が蓄積されています。今回の成果は、その超伝導加速技術の実用化に向けたスピンオフの一例と言うことができ、装置の実用化に向けて大きく前進したと言うことができます。

本成果は、電子ビームとレーザーパルスの衝突による高輝度X線の発生とその応用を目指す文部科学省量子ビーム基盤技術開発プログラムの委託研究「超伝導加速による次世代小型高輝度光子ビーム源の開発」により得られたものです。

【用語解説】

※1 逆コンプトン散乱
光子が自由電子に衝突して自由電子にエネルギーを与える現象を「コンプトン散乱」と呼ぶ。一方で、相対論的な速度で運動している電子と赤外線や可視光の波長の光子が衝突したときは、 電子のエネルギーが光子のエネルギーよりはるかに大きくなるため、電子が光子にエネルギーを与える。この現象を「逆コンプトン散乱」と呼ぶ。


4枚鏡共振器にレーザー光路(青線)を重ねて描いたイラスト図。電子ビームは右から左に進行し(桃色線)、レーザーと重なった所で正面衝突して、左方向にX線(緑線)を生成する。 ©Rey.Hori
※2 
4枚ミラー光共振器
4枚の鏡を組み合わせてその光路が中央でクロスするようなリング共振器を構成すると、外から入射されたレーザーパルスを蓄積する事が容易になる。2枚鏡の共振器にくらべて、電子ビームとの衝突点のレーザーサイズを絞った時でも非常に高い安定度をもって大きなパワーのレーザーを蓄積できる特徴をもつ。4枚鏡共振器は電子ビームとの正面衝突(ヘッドオン衝突)に応用すると、安定度と蓄積できるパワーとで大きな輝度のX線生成が期待できる特徴をもつ。

※3 量子エレクトロニクス
原子、分子、イオンなどの量子力学的現象を積極的に制御して通信、計測、情報処理などに利用する科学技術の総称。1954年のメーザーの発明以来注目され始め、レーザーの発明によって飛躍的に発達した。

関連サイト

小型高輝度光子ビーム発生装置
超伝導RF試験施設 STF

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