2014年秋の公開講座を開催

 


KEK小林ホールでの講演に聞き入る参加者の方々

2014年11月29日(土)、今年度2回目の開催となる公開講座を小林ホールにて開催し、100名を超える方々にお越しいただきました。

今回のテーマは「謎の素粒子ミュオン-その意外な素顔-」。KEK物質構造科学研究所の門野良典教授と、KEK素粒子原子核研究所の齊藤直人教授が講演を行いました。

ミュオン(ミュー粒子)は、電子の約200倍の質量を持ち、有限な寿命を持つ不安定な素粒子ですが、この2点を除いては電子と全く同じ性質を持ちます。更に宇宙から降りそそぐ宇宙線のうち、地上に届く粒子の主成分でもあります。なぜこのような「重い電子」がこの世に存在しているのかの本当の理由はまだわかっていません。しかし、ミュオンの性質は明らかになってきており、KEKではその利用や、その存在の理由に迫る研究が進められています。

まず、門野氏は、「ミュオンが拓く物質科学」という題で講演を行い、ミュオンの性質を紹介するとともに、物質内部を原子スケールで探る「探針」としてミュオンを利用する研究が、J-PARCで進められていることを説明しました。ミュオンも電子のように自転する性質「スピン」を持っており、研究対象である物質の内部にミュオンを注入し、停止させ、そのスピンの様子を観察することでミュオンの周りの原子の情報を得ることができます。ミュオンが陽電子を放出して崩壊するときの方向から、ミュオンのスピンの向きを特定する「ミュオンスピン回転法」と、その手法を用いた超伝導物質中の電子状態についての最新の研究が紹介されました。

次に、齊藤氏が「素粒子ミュオンに刻まれた宇宙の歴史」と題した講演を行いました。まず、138億年前に誕生した宇宙が、インフレーションにより急激に膨張し、熱い火の玉宇宙「ビッグバン」となり、その後宇宙が冷えていったことで、現在の宇宙があるという歴史を紹介。一方、宇宙の歴史の解明に挑んできた人類が到達した物質観は、標準理論としてまとめられてきたものの、未だ多くの疑問が残されており、「我々がどこから来たのか?」という根源的な問いへの挑戦が続いている状況を解説しました。そして、「磁気モーメント」と呼ばれるミュオンの棒磁石のような性質を示す量の精密な測定値が、標準理論からずれている可能性を指摘し、現在J-PARCで新しい測定の準備が始まっていることを紹介しました。


ミュオンスピン回転法を用いた超伝導物質中の電子状態についての研究を紹介する門野氏


ミュオンの磁気モーメントを精密測定する新しい実験を紹介する齊藤氏

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