公開講座、講師インタビュー<2> 宇野彰二教授

 

6月18日に行われた公開講座で、「BelleⅡ実験で探索する素粒子物理の世界」と題した講義を行ったのは、KEK素粒子原子核研究所の宇野彰二教授です。宇野氏は素粒子研究のための粒子検出装置の研究、開発に携わってきました。1987年に名古屋大学大学院物理学研究所の博士課程からKEKの前身である高エネルギー物理学研究所に入り、日本で初めての加速器を使った衝突型実験で、トップクォークの発見を目的とした「トリスタン実験」に携わりました。その後、KEKBプロジェクト、Belle実験に携わり、日本の高エネルギー物理学研究の歴史とともに、最先端の研究の道を歩んできました。講演に合わせ、宇野氏にこの分野に興味を持ったきっかけなどについてインタビューしました。


公開講座でBelleⅡ測定器について講演する宇野彰二教授

―KEKB加速器とBelle測定器のアップグレード計画である「SuperKEKBプロジェクト」の中で、宇野先生が携わっているのはBelleⅡ測定器の部分ということですね。BelleⅡ測定器はこれまでのBelle測定器とは何が違うのでしょうか?
「SuperKEKB加速器は、電子ビームと陽電子ビームを衝突させてB中間子とその反粒子の対を作り出す加速器です。そのB中間子対の崩壊反応をBelleⅡ測定器で測定、解析することで、素粒子物理学の世界を探索するわけです。衝突の頻度を表す『ルミノシティ』がKEKBの時より大きく上がるので、それに対応できる検出器の電子回路を用意しなくてはなりません。Belle測定器の時は1秒間に500回データを収集していたのが、BelleⅡ測定器では最大で1秒間に3万回になります」

―それはすごいですね。対応するために具体的にはどのような部分の技術が進化したのでしょう?
「例えば、加速器ではルミノシティを上げるためにはビームのサイズを小さくするのですが、小さく絞ろうとすると本来観察したいはずの崩壊反応とは関係のない無駄な信号がたくさん増えてしまいます。それを区別できるように、信号を受け取る検出器の読み出しサイズを小さくしたり、時間的な波形の違いを比べたりといった技術を使います」

―30年間検出器の分野に携わられているということですが、この分野に進もうと思われたのはなぜですか?
「物理を専攻していた大学3年生の時に、天文や物性などいろいろな分野の実験をやるわけですが、その中でも素粒子を1個1個数えていく『カウンター実験』が一番面白いと思ったのです。起こる現象それぞれに説明がつく。白黒はっきりする。ほかの科学の分野ではなかなか説明のつかない事象がありますからね。それで4年生の時に素粒子の研究室に入りました」


BelleⅡ実験について語る宇野彰二教授

―当時の日本の素粒子物理学の状況はどのような様子だったのですか?
「KEKBプロジェクトの前身、トリスタン実験の計画遂行が認められたのは大学3年の時でしたね。演習の授業をやっていたのがトリスタン実験を主導的に進めようとされていた岩田正義先生で、興奮しながら説明してくれたのを覚えています。建設が始まり、大学院生の時にトリスタン実験に携わるようになりました。86年に加速器が動き出し、87年にKEKに来て、つきっきりで測定していました。日本で初めての大型実験だったので、みんな右往左往です。現場で一から作り上げていきました。外国の研究者の中には、日本で(大型加速器が)動くとは思っていなかった人もたくさんいましたからね」

―その後KEKBプロジェクトにも携わられたのですね。
「KEKBプロジェクトでは、ルミノシティがトリスタン実験の500倍くらいになり、世界一になりました。うまく行き過ぎたので、SuperKEKBの目標とする40倍のルミノシティは簡単に達成できると思われているのですが、そう簡単にはいかないかもしれません」

―どのようなところが難しいのでしょう?
「加速器の中に入るビームの数(バンチ数)を上げればルミノシティは上がりますが、今のKEKB加速器の状態が限界で、ずっと増やせるわけではない。さらに上げるには特別のアイディアが必要となります。SuperKEKB加速器では、これまでビームをほぼ正面から衝突させていたのを、斜めに交差させる『ナノビームオプション』という方法を導入します。イタリアのパンタレオ・ライモンディという研究者が考えた斬新なアイディアで、世界でもどこにもまだ取り入れているところはありません。世界でも初めての試みですから、必ずしもうまくいくという保証はないわけです」

―しかし30年の間にここまできたというのはすごいですね。うまくいけばまた新しい発見につながりますね。
「2017年の秋ごろには最初のデータ収集が始まると見込んでいますが、改良をしながら何年か先に目標の成果が出せればいいですね」

―貴重なお話をありがとうございました。



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