【KEKのひと #9】「経験しないと分からないこと」体感したい 楊叶(ヤン・イェー)さん

 
KEKには、高エネルギー加速器について学ぶ国内の学生や、各国からの留学生なども集まります。加速器の実験には、強い磁場でビームを曲げるための、超伝導磁石技術が必要です。この超伝導磁石研究に携わる中国からの留学生で、九州大学の博士課程に所属する楊叶さんにインタビューしました。

中国からの留学生で、超伝導磁石研究に携わる楊叶さん(撮影:高橋将太)

―ご出身は?

「中国の上海出身です。修士課程から九州大エネルギー量子工学専攻に入り、今は博士課程の3年です。修士2年の時から2年間、東海村に住みJ-PARCでの実験に携わりました。その後KEKに来ました」

―日本に来たきっかけは?

「学部時代は上海の大学で、レンズなどの光学システムについて勉強していました。学部4年の時、欧州合同原子核研究機関(CERN)で、7 TeVの陽子衝突を初めて成功させたニュースを見て、ビームをどう加速するかなどに興味がわき、『加速器をやりたい』と思いました。そこで加速器の研究ができる九州大の研究室に進学しました」

―KEKでは何を研究していますか

「ミューオンという素粒子の珍しい崩壊を観測するCOMET実験に携わっています。ミューオンビームを大強度化するため、超伝導磁石は放射線の環境下で運転しなければいけません。私は超伝導低温工学センターで、どうすれば放射線による超伝導磁石の劣化を低減できるのか、どう設計すれば放射線の環境下で磁石をマイナス269度の極低温に保つかなど、低温や超伝導技術に関する研究をしています」

―研究のおもしろいところは

「大学の研究室ではできない大電流や極低温や放射線などを取り扱うので、その装置の設計から経験できるのはおもしろいです。教科書通りにつくっても、実際は、うまくいかないこともあります。冷凍機を用いた試験では、温度を測るセンサーの配線の太さや距離の違いで、きちんと冷やせないことも。いろいろな論文を調べて修正しました。これは経験しないと分からないことで、おもしろいです」

―日本の印象はどうですか

「自然が近くて好きです。上海は、自然が少ない。こちらでは、登山やスノーボードによくでかけます。趣味では最近、合気道がおもしろいです。昨年から始めて、毎週練習に行っています」

合気道の稽古に励む楊さん(右)

―合気道はどこがおもしろいですか

「技をかけるのに、絶対に無理だろうと思ったら、なぜか簡単に投げられたりするのが不思議で。物理にも関連していて、簡単な力学と人体の構造を知っていると、それが合理的に説明できます。その上で、人と人との駆け引きです。相手がいないとできない。有段者と稽古するとつかまれた瞬間『この人は自分よりできる』とわかります。とても勉強になります」

―今後の目標は

「研究の方では、COMETの磁石を完成させること。その先は、すごいものをつくれる技術者になりたいです。合気道は練習を重ねて、初段の黒帯を取りたいです。それと日本百名山の制覇と。いろいろありますね!」

―がんばってください!

(聞き手 広報室・牧野佐千子)

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