「ストライプ照射」だと放射線の影響は軽減される- 放射線の当たり方が一様でない場合、従来の単純な予測は当てはまらない-

 
  • 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
  • Queen’s University Belfast
  • 公立大学法人横浜市立大学
  • 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構

概要

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 量子生命科学領域の神長輝一博士研究員、横谷明徳量子細胞システム研究グループリーダー及び英国Queen’s University Belfastの福永久典博士課程大学院生(現:医療法人沖縄徳洲会湘南鎌倉総合病院放射線科)、Kevin M. Prise教授らは、公立大学法人横浜市立大学の小川毅彦教授、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の宇佐美徳子講師らとともに、放射光X線マイクロビーム技術とマウス精巣器官培養法を組み合わせて、空間的に不均一に放射線を当てた場合には組織機能の回復が生じ、放射線量から単純に予測されるよりも影響が軽減されること、さらにそのメカニズムとして放射線の直接当たらなかった細胞の移動が起きていることを実験的に証明しました。

従来、生体器官への放射線の影響は、放射線の量(線量)に応じてその度合いが大きくなるというモデルで説明されてきました。そこには「器官全体が一様に影響を受ける」という暗黙の前提がありますが、医療放射線も含め私たちが日常浴びる放射線は、地面に落ちた雨粒の跡と同様に、身体の中に当たる細胞と当たらない細胞が混在しているのが普通で、それほど単純ではないはずです。そこで本研究では、高度な量子ビーム制御技術により微細なストライプ状にしたX線を、細胞の生死や成熟の様子が蛍光観察できるようにしたマウス精巣に照射し、顕微鏡下でその影響を解析しました。その結果、X線が当たっていない微細な領域の細胞が移動し、組織全体の能力をカバーする現象が起きていることを発見しました。 この結果は、従来の「用量(線量)―反応モデル」の限界を示すもので、今後、より精緻な放射線影響の予測法の確立に貢献し、将来的には放射線治療における副作用の低減などにもつながることが期待されます。

この研究成果は、生物学・医療分野でインパクトの大きい論文が数多く発表されている英国の総合科学誌「Scientific Reports」2019年10月1日号に掲載されました。

研究成果のポイント

  • ◇マウス精巣に対してX線を微細なストライプ状に照射すると、均一に照射した場合では起こらない組織機能の回復が生じ、放射線影響が軽減されることを発見した。
  • ◇そのメカニズムとして、X線が直接当たらなかった精子形成細胞が移動することによって、組織全体としての機能がカバーされることをイメージング実験によって示した。
  • ◇本研究により、空間的に不均一に放射線が当たる場合には、「生体器官のダメージは線量に応じて増加する」という従来のモデルが当てはまらないことを実験的に証明した。

詳しくは プレスリリース をご参照ください。

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