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2024.5.23


天の川銀河中心部に集まるダークマターの構造を見つける方法を提案

天の川銀河のバルジ領域は、肉眼で見ることができませんが、正体不明の物質・ダークマターが多量に存在しています。この物質は宇宙に広がっていて、宇宙の基本構造や進化を解明する鍵を握っています。天文学者は長い間、この謎に光を当てる新しい方法を模索してきました。理論的には、ダークマターは未知の物質でできた地球程度の質量の天体の形で存在する可能性も言われています。

最近Astrophysical Journal Lettersに掲載された研究で、米国カリフォルニア大学サンタクルーズ校の博士研究員のWilliam DeRocco博士、大学院生のNolan Smyth氏、高エネルギー加速器研究機構(KEK)量子場計測システム国際拠点(WPI-QUP)のVolodymyr Takhistov主任研究員(兼理論センター特任准教授)からなる国際チームが、2027年に打ち上げが予定されているNASAのナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡での銀河バルジ領域のマイクロレンズ探査により、ダークマター天体の構造についての知見がどのように得られるかを示しました。ダークマター天体の中には空間的な広がりを持つものもあり得ることがさまざまな理論で予測されています。その一つが未知のボソン量子場を持つ未知の粒子からなり,宇宙の初期に作られたボソン星です。


図:NASAのローマン宇宙望遠鏡のイラスト©QUP/NASA

マイクロレンズは、宇宙における拡大鏡ともいえる、強力な観測技術です。恒星のような大きな質量を持つ物体が観測者と遠方の光源との間を通過すると、その物体の重力で背景の光源からの光が曲がり、さまざまな経路からくる光が重なることで,一時的に背景の光源が明るく見えます。
「マイクロレンズは、地球程度の低質量の暗黒天体を検出する最も有効な方法の1つであると、長い間知られてきました。我々は今、まさにマイクロレンズの新時代を迎えようとしています。マイクロレンズで何を発見できるかを考え始めるのは非常にエキサイティングです。」と、DeRocco氏は指摘します。

研究チームは、ローマン望遠鏡の前例のない高い感度を活用することで、ダークマター天体の内部構造を、既存の手法よりも4桁高い感度で観測できることを示しました。

「暗黒物質に興味がある人にとって、今は非常にエキサイティングな時期です。今こそ、これから出る膨大な量の新しいデータを最大限に活用する方法を考える、絶好の機会です」と、Smyth氏は期待します。

このプロジェクトは、昨年DeRocco博士が、国際共同研究促進のためにQUPが始めたインターンシップ・プログラム“QUPIP”に参加するために、KEKのQUPを訪れたことから始まりました。QUPは日本のKEKを拠点とするWPIの研究センターで、さまざまな「新しい眼」を開発し、ダークマターの実体の可能性がある量子場の発見を目指しています。また、進行中のLiteBIRD計画で主導的な役割を果たしているとともに、最近JAXAが打ち上げたXRISM宇宙望遠鏡ミッションによる観測にも積極的に参加しています。

論文情報
掲載誌:Journal: Astrophysical Journal Letters, 965 L3 (2024)
タイトル: New Light on Dark Extended Lenses with the Roman Space Telescope
著者: William DeRocco, Nolan Smyth, Volodymyr Takhistov


問い合わせ先
QUP 戦略室
Email: qup_pr-at-kek.jp
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