NEWS
Topics
2024.9.10
とても軽い質量のダークマターを探して
ダークマター(暗黒物質)は、通常の物質とほとんど相互作用しないので、我々が見ることも触れることもできません。これまで直接検出することはできていませんが、宇宙にたくさんあることだけがわかっている不思議な物質です。超ひも理論によって予言されているアクシオン様粒子(ALP)が、ボソニック超軽量ダークマターである可能性があります。特に、それが10-22eV程度の質量を持つ場合は、標準の冷たいダークマターモデル(CDM)のちょっとした問題点を説明できる可能性があるため、特に興味が持たれています。
WPI-QUPの研究者も解析を主導している POLARBEAR実験は、天体からのマイクロ波の偏光情報の測定から、この可能性を探査しました。その結果が、2024年9月9日にPhysical Review D 紙に掲載されました。
天体から発したマイクロ波がダークマターであるALPを通過すると、ALPは複屈折物質として働くので、地球で観測する天体からのマイクロ波の直接偏光の偏光角に時間振動が観測されます。
チリ北部のアタカマ砂漠の高度5200メートルに設置されたPOLARBEAR実験でカニ星雲からのマイクロ波の偏光を測定し、その時間変化がないことにより、研究グループはALPと光の結合の大きさに関しての制限(上限値)を、ALPの質量が9.9x10-23eVから7.7x10-19eVの広い領域で設定しました。この観測の上限値は、これまで偏光角振動の測定から得られた最も厳しい値になります。さらに、研究グループは、そのなかで、ALPの質量が7.8x10-22eVと9.2x10-22eVを想定したときに一番大きな時間振動になることも発表し、ダークマターシグナルのヒントかもしれないと伝えています。
POLARBEAR実験のメンバーであり、QUPのシニア・サイエンティストの茅根裕司特任准教授は、期待を込めて次のようにコメントしています。「私たちが観測したかに星雲からの偏光のずれはまだ微弱で、統計的な揺らぎである可能性があります。しかし、サイモンズ・アレイと呼ばれる後継実験による今後の測定で、より多くのデータが得られれば、より決定的な解釈が得られると期待しています。」
ポーラーベア実験は、約20機関から約100名の研究者が参加するCMB実験の国際共同研究です。ポーラーベア実験はQUP主任研究員の一人であるエイドリアン・リーが発明した超高感度の超伝導センサーを使用しており、彼が実験のリーダーを務めています。
実験の詳細はこちら(https://cmb.kek.jp/polarbear/overview.html)を参照ください。
POLARBEAR実験によって観測された、(a) 95%C.L.におけるALP-光子結合の上限値、
(b)かに星雲の偏光マップ、 及び (c) かに星雲の偏光角の振動のデータ