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シリーズ 大学共同利用のススメ【第2回】東京理科大学 長嶋研究室

物構研ハイライト
2012年12月11日

大学共同利用機関の"強み"とは?

前回、大学共同利用機関は"大学の研究者のための共同利用施設"であることをお伝えしましたが、それ以外にも研究者コミュニティを形成する場としての側面があります。KEKでは、年間でおよそ900件の共同利用実験が行われ、延べ8万人(実人数7500人)に利用して頂いており、大学や研究室間の交流も盛んに行われています。

共同研究者受入数(平成23年度)

放射光、陽電子、ミュオンの施設をマルチに活用

今回お話を伺ったのは東京理科大学の長嶋泰之教授。放射光科学研究施設(フォトンファクトリー)低速陽電子実験施設物質・生命科学実験施設など、KEKの様々な施設を利用されています。

― 主な研究内容を教えてください。

エネルギー可変なポジトロニウムビームの開発やそのしくみなどを研究しています。
ポジトロニウムは、電子と陽電子が1個ずつペアになったもので、通常、加速などの制御ができません。低速陽電子実験施設の陽子ビームからポジトロニウム負イオン(ポジトロニウム+電子1個)を作り、レーザー光を照射し、電子1個を分離、ポジトロニウムを作ります(図1)。
同様の原理を使い、物質・生命科学実験施設で、ミュオンと電子が一個ずつペアになったミュオニウムを効率よく作る研究を行っています。
この秋からは、陽電子ビームを使って、物質表面から放出されるイオンをとらえる実験を始めています。

長嶋教授(写真右)と研究室のメンバー
図1 ポジトロニウム負イオンの光脱離の模式図
ポジトロニウム負イオンにレーザー光を照射すると、ポジトロニウムと電子に分かれる(画像提供:長嶋研究室)

― KEKには、つくばキャンパスに電子加速器から作られる放射光を利用するフォトンファクトリーと陽電子を利用する低速陽電子実験施設、東海キャンパスに陽子加速器から作られる中性子・ミュオンを利用する物質・生命科学実験施設が設置されていますが、その両方をお使い頂いているんですね。
ところで、KEKの共同利用はいつ頃から行っているのでしょうか?

大学院修士課程の時からKEKで実験を行っていました。当時の実験は、かにパルサーからやってくる重力波の検出です。1990年にはKEKのフォトンファクトリーでコンプトン散乱を、1996年からは陽電子を用いた実験を始めました。ミュオニウムの実験を始めるようになったのは2010年度からです。
KEKで実験をするようになって27年になりますが、特に「共同利用」と意識せず、大学院時代からKEKで実験するのは当然のことのように思っていました。

図2 KEKの実験施設で扱っているビームの一部。それぞれの特徴を生かして、主に物質の構造解明のツールとして用いられています。

― そうでしたか。確かに、KEKは研究者の皆さんに使って頂くことを目的にしていますので、施設利用の申請はさほど意識せずに行えるようになっているかと思います。それでは、これまでどのような研究成果があったのでしょうか。

大学の研究室で得られた結果をステップアップさせるためにKEKの施設を利用してきました。
特に、ポジトロニウム負イオンの大量生成は、東京理科大学の研究室で成功しましたが、次のステップに進むためには、高強度パルスレーザーと同期して低速陽電子ビームが必要でした。KEKにはその両方が揃っていて、大変好都合でした。おかげさまで、当初予定していたよりも速いペースでポジトロニウム負イオンの光脱離実験に成功し、ポジトロニウムビームを作ることができました。
KEKでは、大学の研究室を超えた様々な研究が可能です。また、多くの研究者の方々と知り合いになることができたことも、私にとって大変有り難いことでした。

KEKの放射光科学研究施設フォトンファクトリー。今年稼働30年を迎え、これまでの共同利用件数はKEKの施設の内トップ。
低速陽電子実験施設、Ps-(ポジトロニウム負イオン)実験装置

― 実験施設だけではなく、研究者どうしの交流の場を提供できるのは、大学共同利用機関の強みかもしれません。人との出会いが良い研究成果を生むこともあるかもしれませんね。それでは最後に、今後の研究の予定と学生の皆さんへ一言お願いします。

今後も、ポジトロニウムやポジトロニウム負イオン、ミュオニウムに関する研究を続けていくつもりです。学生の皆さんには、是非KEKでよい研究成果を挙げて、将来につなげてほしいと思います。

― ありがとうございました。これからの研究も楽しみにしています。

関連サイト

大学共同利用機関とは
大学共同利用機関シンポジウム
東京理科大 長嶋研究室
低速陽電子実験施設
物質・生命科学実験施設
放射光科学研究施設 フォトンファクトリー

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