東北大学多元物質科学研究所の山﨑優一(やまざき まさかず)氏が、第7回(2013年)日本物理学会若手奨励賞を受賞しました。この賞は将来の物理学を担う優秀な若手研究者の研究を奨励し、物理学会をより活性化するため設けられたもので、3月26日から29日にかけ広島大学で開催される日本物理学会第67回年次大会で、授与式および受賞記念講演が行われました。
光電離の二つの異なる遷移について、実験から求めたH2O分子の内殻光電子波の角度分布。BL-2Cからの直線偏光軟X線により酸素原子上に光電子波が生成し、H2O分子内の二つの水素原子によって散乱される。直接波と散乱波の干渉が、配向したH2O単分子からの光電子角度分布として観測される。各図の下部にある赤線および青線は、それぞれ直接波および散乱波の波面を表す。
受賞対象となった研究は「多次元電子分光による電子波動関数の立体特性に関する研究」です。山崎氏はこれまで、原子、光、および電子を励起源とした多次元電子分光の新しい実験あるいは理論的計測法を開発し、電子の束縛・連続状態波動関数の立体的な性質の理解に取り組んできました。この研究の一部は、柳下 明 KEK物構研教授の研究グループと共同で、KEKフォトンファクトリーのビームラインBL-2Cの同時計測画像観測分光装置を用いて行われました。これにより、一個の水分子内で、酸素原子から発した光電子波が二つの水素原子によって回折される現象の可視化に成功しました。
これは、現在、固体光電子回折で計測されている現象の側面を、気体分子でも観測可能にした成果で、気体光電子分光と固体光電子回折を結ぶのみならず、過渡系の分子・電子構造の新しい計測法として光電子分光が展開可能であることを示すものです。また、X線自由電子レーザー(XFEL)などを用いた高速光電子回折法へ繋がる研究など、各種先端実験計画の科学的基礎の一つにもなっています。
なお、当該受賞論文は、学術論文誌Journal of Physics B.の2009年の年間ハイライト記事に選出されました。研究成果の詳細については2009年4月16日のNews@KEKでも紹介されています。