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人工タンパク質ナノブロックにより、自己組織化ナノ構造の創出に成功

物構研トピックス
2015年9月16日

信州大学の新井亮一助教および大学院生の小林直也氏、横浜市立大学の雲財悟助教らの研究グループは、独自の人工タンパク質を用いた「タンパク質ナノブロック」を開発し、複数種類の超分子ナノ構造複合体を自己組織化によって創り出すことに世界で初めて成功しました。

タンパク質は、自己組織化により複雑な立体構造を自発的に創り出し、さまざまな生命現象を担うナノマシンです。タンパク質を自在にデザインして望みの機能を実現することができれば、タンパク質工学だけでなく、広くわたしたちの生活を豊かにする材料開発にもつながります。研究グループは、以前にPFを利用したX線結晶構造解析法およびX線小角散乱法により、新規人工設計タンパク質WA20の立体構造を解明しました。今回、このWA20の特徴的な「クロスヌンチャク型二量体」構造と、タンパク質の自己組織化能力を活かし、ひとりでに組み上がる「タンパク質ナノブロック (Protein Nanobuilding Block: PN-Block)」を設計しました。PN-Blockは、おもちゃのブロックのように、単純な基本構造から多種多様な構造を創り出すことができると期待されます。

今回設計したPN-Blockは、二量体を形成するWA20と三量体を形成するファージタンパク質を遺伝子工学的に融合することにより作成されました(図左)。このPN-Blockが過不足なく組み合わさるためには、2と3の公倍数である6の倍数量体の形成が予測されます。研究グループは、PN-Blockが設計どおりに、自己組織化により複数の多量体構造を形成することを明らかにしました。このうち、分子量測定により6量体および12量体と判明したものについては、X線小角散乱法により構造解析を行ないました。その結果、幾何学的対称性により予測される樽型および四面体型構造をそれぞれ形成していることがわかりました(図中央および右)。

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人工タンパク質ナノブロック(PN-Block)による自己組織化ナノ構造複合体の創出
画像提供:信州大学 新井亮一

研究グループは、今後もさまざまな有用PN-Blockの設計開発を進めており、これらを自在に組み合わせることにより、天然タンパク質では実現できないような多様な構造と機能を持つ人工タンパク質を創成することを目指しています。

本研究成果は、米国化学会誌 Journal of the American Chemical Societyに9月9日付けで掲載され、特に注目の論文としてJACS Spotlightsに選ばれました。本研究のコンセプトを表現した美しいアートデザインがこの号の表紙を飾っています。

研究グループの新井亮一氏は、人工タンパク質WA20の設計と立体構造の解明および本研究の成果である「タンパク質ナノブロック」の開発とナノ構造構築の一連の研究により、平成26年度酵素工学奨励賞を受賞しています。平成27年4月24日に大阪府立大学で開催された酵素工学研究会第73回講演会において、授賞式および記念講演が行われました。

詳しくは、信州大学のプレスリリースをご覧ください。

論文情報
Title : Self-Assembling Nano-Architectures Created from a Protein Nano-Building Block Using an Intermolecularly Folded Dimeric de Novo Protein[ DOI: 10.1021/jacs.5b03593 ]
Authors : Naoya Kobayashi, Keiichi Yanase, Takaaki Sato, Satoru Unzai, Michael H. Hecht, and Ryoichi Arai


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