冨澤 正人氏が西川賞を受賞
左から高エネルギー加速器奨励会代表理事の幅 淳二(はば・じゅんじ)氏と受賞した冨澤 正人氏
KEK加速器研究施設の冨澤 正人(とみざわ・まさひと)名誉教授が、(財)高エネルギー加速器科学研究奨励会の西川賞を受賞しました。本賞は、高エネルギー加速器に関する実験的あるいは理論的な基礎研究ならびに応用研究において、独創性に優れ国際的にも評価の高い業績をあげた研究者および技術者に授与されます。
冨澤氏は、J-PARC 主リング(メインリング)におけるビームの「遅い取り出し」の責任者として、プロジェクトの計画段階から実用運転に至るまで、一貫して開発を主導してきました。今回、99.6%という世界最高性能の取り出し効率の実現、低ビームロス・ハイパワー運転の実現、ビーム品質の大幅な性能向上などが評価され受賞に至りました。
リングを周回するビームをかんなで削るように少しずつ取り出す「遅い取り出し」は、さまざまな素粒子・原子核実験のために重要です。冨澤氏は、かんなの刃にあたる静電セプタムの開発において、タングステン-レニウム合金製リボンを用いることでセプタム電極の実効厚さを約60 μmに抑えることに成功。さらにビームの取り出し中にバンプ軌道を徐々に変化させ取り出しビームの角度広がりを低減するダイナミックバンプ手法の考案と実証により、世界最高性能のビーム取り出し効率を達成しました。これに加えて、デバンチ時に生じるビーム不安定性の抑制手法の確立を成し遂げ、低ビームロス・ハイパワー運転(81 kW)を実現しました。また実験成果に直結するビーム品質の一つである、取り出しビームの時間構造の一様性の面でも、速い四極磁石を用いたフィードバックシステムと、ストリップラインキッカーによる横方向RFキックの導入により、大幅な性能向上を達成しています。さらに、J-PARC COMET実験(ミュー粒子を使って新しい物理法則の発見を目指す国際共同実験)におけるユーザーからの非常に高い要求(空バンチのビーム含有率 < 1×10-10)に応えるなど、さまざまな素粒子・原子核物理学実験に大きく貢献しています。これらの顕著な業績が評価されました。
<受賞した冨澤氏のコメント>
今回の受賞は、遅い取り出しグループの長年にわたる頑張り、メインリングを中心とした加速器関係者、ハドロンビームライングループのサポートに支えられたものです。皆様に感謝を申し上げます。