加速器の技術職員が令和7年度KEK技術賞を受賞

加速器研究施設・加速器第五研究系 設樂 暁(したら・さとる)技術員、加速器第六研究系 塩澤 真未(しおざわ・まみ)准技師、田中 窓香(たなか・まどか)技師が令和7年度KEK技術賞を受賞しました。1月7日に表彰式、1月28日に受賞発表会が開催されました。受賞タイトルは、「放射線量測定フィルムの加速器分野への応用と測定支援」です。放射線量測定は加速器を安全に運転するために重要な技術です。受賞者らは、市販の製品の特性評価から手軽な測定の確立、さらに複数の加速器においての測定支援まで幅広く継続的に実施した点などが評価されました。今後のお三方のご活躍にも期待しています。

賞状を持つ3人。左から田中氏、塩澤氏、設樂氏
賞状を持つ3人。左から田中氏、塩澤氏、設樂氏

 
受賞者を代表して表彰式で登壇した塩澤氏
受賞者を代表して表彰式で登壇した塩澤氏

 
発表会の様子
発表会の様子

 
発表する塩澤氏
発表する塩澤氏

 
発表する田中氏
発表する田中氏

 
発表する設樂氏
発表する設樂氏

 

受賞者のコメント

受賞について
歴史ある賞を受賞でき、とても嬉しいです。我々3人だけでは成し得なかったと思うので、放射線科学センターの岩瀬広准教授や加速器研究施設の帯名崇教授をはじめ、多くの方々に改めて感謝申し上げたいです。

苦労したこと
解析手法を確立するために、さまざまな方法を試行錯誤しました。そのエッセンスを整理し、誰でも簡単に使える解析ソフトとしてまとめ上げるまでには、想像以上に時間がかかりました。また、フィルムが蛍光灯の光に反応していることに気づくまで原因が分からず、
悩みながら進めたことや、較正曲線検証では時間がかかる割に確実に有効なデータを手に入れられるわけではなく、手探りで地道な作業を要し苦労しました。

今後の抱負
手軽に放射線を測定できるので、KEKに限らず他の施設への展開も目指しています。加速器の安定的な運転に貢献できるよう、さらに技術を磨いていきたいです。

 

研究の概要

運転中の加速器室内では、加速された電子ビームが真空中の残留ガスや真空容器の壁面に衝突することにより放射線が発生し、周辺の線量レベルが上昇します。KEKでは、放射線量を適切に管理して人員の安全を確保するとともに、放射線による機器損傷を低減するため、さまざまな測定手法による評価を行い、適切な防護策を講じています。

本受賞テーマで用いられたラジオクロミックフィルムは、放射線に曝露されることで色調が変化し、その変化量から線量を評価できる測定フィルムです。医療分野のがん治療用加速器などでは広く利用されており、加速器分野においても部分的な応用例はありましたが、受賞者らは本フィルムについて、基礎特性の評価から解析手法の確立、さらに複数の加速器および高周波加速管で発生する放射線に対して、「誰でも」「手軽に」「安価に」利用可能な測定手法として体系化しました。加えて、測定から解析に至るまでの環境整備や測定支援を継続的かつ広範に実施してきた点も高く評価され、本受賞に至りました。

ラジオクロミックフィルムには、市販の製品(Ashland社製ガフクロミックフィルム:透過型および反射型)を使用し、まずフィルムの波長特性を詳細に調査することで、解析に適した波長を決定しました。解析波長を限定することで、高価な専用解析装置を用いずとも、一般的な複合機による読み取りで十分な解析が可能であることを示しました。また、医療用途向けの専用ソフトウェアは操作性の面で加速器室内の分布測定には不向きな場合がありましたが、PythonやLabVIEWなど汎用性の高いソフトウェアを活用することで、短時間に大量のフィルムデータを解析する手法を確立しました。

次に、Co-60ガンマ線を用いた較正照射実験を行い、吸光度から線量を算出する較正曲線を作成しました。低線量から高線量までを網羅するため、実験はKEK照射棟および量子科学技術研究開発機構 高崎量子技術基盤研究所にて実施しました。これらの結果を踏まえ、加速器室内での測定においては、感度の異なる複数種のフィルムを組み合わせて使用することで、広い線量レンジに対応した測定を実現しています。さらに、この較正曲線が実機加速器においても適用可能であることを検証するため、電子エネルギーやビーム繰り返し条件の大きく異なるLinac、SuperKEKB、PFにおいて、OSLバッジなど他の測定手法と同時比較を行いました。その結果、測定誤差の範囲内で良好に一致することを初めて実証しました。
本手法の大きな特徴は、フィルムを適切なサイズに裁断して多数設置することで、放射線の「空間分布」と「絶対線量」を同時に測定できる点にあります。これにより、Linac冷却水流量計周辺の放射線シールド配置の最適化に活用されました。そのほかにも、Linac加速管の暗電流に起因する放射線レベル評価、cERLにおける運転パターンの違いによるビームロス分布の比較、PFリング全体の放射線分布測定など、さまざまな測定および運転最適化に応用され、複数の加速器の安定運用に大きく貢献しています。さらに、PHITSなどの粒子輸送シミュレーションによる放射線発生計算結果との比較検証を通じて、将来の加速器構造設計への貢献も期待されます。

以上のように、受賞者らは優れた技術開発を行っただけでなく、その技術を実運用に適用し、部署を超えてKEK内外へと展開・普及させてきた点が高く評価されました。本成果は加速器学会や技術交流会等でも発表されており、KEKにとどまらず、他の加速器施設への技術提供にもつながっています。

主な分担
設樂:ソフト開発、リアルタイム測定開発
塩澤:較正測定、ソフト開発、環境整備
田中:較正測定、照射治具製作、加速器室内での検証、環境整備

図1: 放射線によるビームモニターのCCDダメージの例
図1: 放射線によるビームモニターのCCDダメージの例

 
図2: 作成した解析ツール(python, LabView)
図2: 作成した解析ツール(python, LabView)

 
図3: Co-60ガンマ線較正照射および加速器室内での測定値比較
図3: Co-60ガンマ線較正照射および加速器室内での測定値比較

 
図4: 加速器トンネル内での測定例(PFリングでの約2ヵ月積算)。数値解析をする前の段階でも直観的に線量分布を知ることが出来る。また、自作した較正曲線から絶対値の見積りも可能である。このように簡易測定から精密測定まで幅広く活用できる。
図4: 加速器トンネル内での測定例(PFリングでの約2ヵ月積算)。数値解析をする前の段階でも直観的に線量分布を知ることが出来る。また、自作した較正曲線から絶対値の見積りも可能である。このように簡易測定から精密測定まで幅広く活用できる。

 
[関連サイト]
・令和3年度技術研究会「ガフクロミックフィルムによる放射線評価」(塩澤)
第19回日本加速器学会年会(2022年) 「ガフクロミックフィルムによるビームロス評価」(塩澤)
・第14回加速器研究施設技術交流会(2022年度)「ガフクロミックフィルムによる放射線量分布測定」(塩澤)
・第5回 SR 加速器情報交換会(2023年) 「ガフクロミックフィルムによるビームロス評価」(塩澤)
第20回日本加速器学会年会(2023年) 「PF の超伝導ウィグラー下流における線量分布測定」(塩澤)
第21回日本加速器学会年会(2024年)「ガフクロミックフィルムを用いたKEK 加速器放射線影響評価のための調査」(田中・塩澤)