エレクトロニクスシステムグループの職務内容

 素粒子原子核研究所では主に高エネルギー実験分野の物理を研究している。この分野で 求められるエレクトロニクス技術は特殊なものがあるのでこれに対応した技術を説明する。 Belle実験やATLAS実験などの高エネルギー実験は新しい物理の発見が目的である。そのため 粒子の挙動を測定するために巨大な検出器を必要とする。それはビーム衝突によって得られ る粒子などのエネルギー・運動量・速度・軌跡等を測定するための検出器の複合体である。 これら検出器からの信号をデータに変換し、PC(計算機)上でモニタ、制御、ストレージに 集積することが実験では必要とされている。ここで一般の物理実験と大きく違うところは 検出器が数百万chのセンサーを持ち、かつ高密度になり、必要なデータが高速かつ大量に 出てくることである。しかも実験は数年に渡り行われるので、データをすべて保存する訳に はいかず必要なデータだけをリアルタイムに選択して保存することが求められている。これ を実現しようとすると、ほとんどは自ら開発しなければならない。なぜなら、市販のエレク トロニクス機器は汎用性を優先して開発されているからである。  素粒子原子核研究所の実験サポートグループの一つであるエレクトロニクスシステムグルー プは高エネルギー実験に必要なエレクトロニクス関連の技術サポートを任務として実験グ ループと共同で実験装置の研究開発を行っている。 エレクトロニクスシステムグループでは「新しい現象を見るための目」となる さまざまな技術を応用したセンサー・低雑音・多チャンネル・高速信号処理・ 分散データ処理制御システムの開発・維持を行っており、つくば・東海両キャンパスに 拠点を持ち活動しています。技術は半導体プロセス・エレクトロニクス・ソフトウェア技術を 基盤とし、高強度・高輝度加速器科学に必要な研究開発とそれらを基盤としてKEK及び 関連コミュニティーの推進するプロジェクトに貢献しています。更に国内外の科学・ 工学分野の研究者と連携ネットワーク(Open-It)を通し、研究開発だけでなく若手教育・ 産学連携による社会への技術展開も行っています。

人員:教員6名、技術職員9名     

http://www.kek.jp/ja/Research/IPNS/ElectronicsSystems/
http://openit.kek.jp/what-is-openit/

技術職員に必要な技術


下記の3つの技術を一通りマスターしてもらい、更に高度な技術を自ら開拓し、 グループやコミュニティに還元していくことを期待します。

ASIC設計にかかわる技術

 最近の物理実験に要求される高密度、多ch、低消費電力、耐放射線等を満たすためにASIC(特定用途向けIC)が必要とされています。 これを作成するためにCADを駆使して回路設計、シミュレーション、レイアウト設計をして製作したICチップをテストし、 要求を満たしたものを作りあげる技術が必要とされています。

電子回路基板設計(FPGAを含む)技術

 高エネルギー物理実験等で使われる検出器・測定器に組み込みデータ収集用の電子回路基板を作成する技術が必要とされています。 これは検出器からの微小なアナログ信号を増幅・整形し、デジタル信号に変換してネットワーク等を通じてコンピューターにデータを渡す ところまでの回路を設計し、それを実装した電子回路基板を作成する技術が必要とされています。

データ収集(DAQ)ソフトウェア開発技術

 高エネルギー物理実験に特有の大量の実験データをASICや電子回路基板を使用した検出器・測定器を用いて高速にコンピューターへ 転送し、オンライン上でモニター・制御・解析・ストレージを行うソフトウェア技術が必要とされています。


先輩職員の声@

 エレクトロニクスシステムグループに所属して4年目の職員です。私は実験で使用する電子回路や データ収集用ソフトウェアの開発などを行っています。写真左下に複数枚ある電子回路はJ-PARC COMET実験で 使用される回路です。ストロー飛跡検出器からの信号を受け取り、デジタルデータに変換してデータ収集用 コンピュータへ送ります。仕事は実験室で開発を進めていくだけでなく、ビーム試験や放射線耐性試験への 参加などで出張することがあります。また、研究会や学会に参加するために出張することもあります。 もちろん、「思ったような信号が見えない」、「プログラムが途中で止まってしまった」といったような 困難がたくさんあります。しかし、それらを乗り越えて自分が作ったものを完成させ、実験で思い通りに 動作したときには大きな喜びを味わうことができます。
 私は回路のことは何も知らずに入所しましたが、周りの先輩方に教えていただき、少しずつですが理解 できるようになってきました。また、KEKだけでなく、国内外の大学、研究所の研究者や学生たちと一緒に 仕事をする機会がたくさんあり、彼らと様々なことをついて情報共有することもできています。
 素粒子・原子核の世界は私たちの日常とは大きくかけ離れた世界のように聞こえますが、私たち技術職員の 技術は、その世界を現実に見えるようにし、詳しく調べていくことにつながっていきます。素粒子・原子核の 世界に興味がある方にとって、大きなやりがいを感じることができる仕事だと思います。

先輩職員の声A

 エレクトロニクスシステムグループ(E-sys*1)に所属する若手職員です。 2012年の入所以来、私の仕事は検出システムの開発がメインです。 素粒子原子核研究所では様々な実験プロジェクトが行われています。それぞれの実験には、目的とする物理現象を観測するために様々な放射線検出器と信号読み出し回路が使われています。 私は実験で使われる信号読み出し回路(読み出しエレキ)の設計と開発、研究を行っています。様々な実験で要求される読み出しエレキの機能・性能は違っていることがほとんどです。読み出しエレキには高機能・高性能が求められるため、既製品にはないものばかりです。E-sysには既製品にない高機能・高性能読み出しエレキを開発するチャンスがあります。チャンスと同時に難しい課題にチャレンジすることになりますが、苦労をして開発した装置が素晴らしい結果を生んだときには感動的で、とてもやりがいを感じることができます。
 KEKの技術職員に興味を持った方で、これまで電子回路設計・開発の経験がない方がいるかと思います。E-sysには頼りになる先輩職員の方々がいるので、設計・開発・研究に関して技術的なことを教えてもらえます。 教育に関してはOJT(On the Job Training)やOpen-It*2の各技術のトレーニングコース、セミナーがあるのでそこで電子回路について基本を学ぶ機会があります。OJTではOpen-Itプロジェクトや実験グループの人たちと協力して読み出しエレキの開発を行いながら現場で力を磨くことができます。
 私自身も、Belle II実験*3、J-PARC g-2/EDM精密測定実験*4に参加しています。またその他にもいくつかのOpen-Itプロジェクトに参加して多くの人と関わりながら、日々、読み出しエレキの開発を行っています。 最後になりますが、エレキ開発に興味がある・新しい最先端の装置を作ってみたい・実験グループなどいろんな人と一緒に研究がしたいと思っている方、大歓迎です!一緒に新しい物理の世界を見る目(=高性能検出システム)を開発しましょう!
(*1 E-sys)
(*2 Open-It)
(*3 Belle II実験)
(*4 J-PARC g-2/EDM精密測定実験)

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