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Belle IIグループの谷川 輝さんが第9回測定器開発優秀修士論文賞を受賞

Belle IIグループの谷川 輝さん(東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 博士課程1年)が、第9回測定器開発優秀修士論文賞を受賞しました。本賞は、修士論文の完成度、背景技術の理解度、開発・研究の意義とその理解などを審査し、優秀と認められた関連修士論文に贈られます。

 

受賞に際し、2019年9月に行われた日本物理学会の2019年秋季大会において授賞式と企画講演が行われました。谷川さんは、「Belle IIシリコン崩壊点位置検出器の受けるSuperKEKBからのビームバックグラウンドの研究」というタイトルで講演しました。谷川さんは、Belle II実験の「フェイズ3」(注1)において、荷電粒子の飛跡を精度よく検出する「シリコン崩壊点位置検出器(SVD)」を投入できるか検討することを目的として、「フェイズ2」(注1)の段階でバックグラウンド(注2)の量を実測しました。そこからフェイズ3初期でのバックグラウンドの量を予想しました。計算の結果、フェイズ3初年度ではバックグラウンドの量は許容範囲内であり、SVDをフェイズ3に投入可能と谷川さん達のチームは判断しました。一方で、今後はコリメータというビームの幅を狭める装置を追加して軌道を大きく外れたごく少数の粒子を除いたり、ビームパイプ内の残留ガス(注3)と電子・陽電子ビームとの反応を防ぐために真空度を改善するなどして、バックグラウンドを軽減する必要があると結論付けました。

受賞された谷川さんにお話を伺いました。

―受賞した感想を聞かせてください。

●谷川さん 自分の修士論文が評価され、色々な人の目に触れることになり、嬉しいという気持ちが一番です。

―なぜBelle II実験に興味を持ったのですか?

●谷川さん Belle II実験は立ち上げ段階(注1)であり整備されていない点が多いのですが、その分自分が関わることのできる点が多いと考えました。そのため、今しか経験できない事が多く、将来役立つ経験も多くできそうだと考えました。加えて、Belle II実験は日本で行われている実験なので、まだ経験の少ない修士課程の段階でも内情を理解しやすいとも思い、Belle II実験を選びました。もちろん、実験テーマが面白そうという理由も大きいです。

―今回の研究で一番難しかった点や苦労した点は?

●谷川さん Belle II実験ではSuperKEKB加速器という周長約3kmの大きな加速器を用いているので、パラメータも無数にあり、それぞれの意味を理解するのが大変でした。研究対象へのイメージを掴むために、加速器のコントロール室に足を運び、実際の運用を目で見て勉強しました。研究する上ではなるべくシンプルに考察できるように、使用するパラメータは少ない方が好ましいのですが、加速器やパラメータの理解を深めた結果、少ないパラメータで振る舞いを記述できるよう調整できました。

―最後に、今後の目標を教えてください。

●谷川さん 博士号を取得後も研究の道に進みたいです。そのために、他の実験との関係の中で自分達の実験はどのような意味を持っているか把握できる大局観を今から身に付けたいです。

 

用語解説

注1:谷川さんが修士課程に進学した2017年は、SuperKEKB加速器にBelle II 測定器を組み込み、加速器や測定器の性能を評価すると共にビームバックグラウンドを研究した「フェイズ2」への移行期間でした。「フェイズ2」開始は2018年3月、Belle II測定器に崩壊点検出器(VXD)を組み込み、本格的な物理解析のための衝突データを蓄積する「フェイズ3」を開始したのは2019年3月です。

注2:バックグラウンド
観測対象とは別の反応による粒子や電気的な雑音など、本来の測定を妨げる現象。測定精度を低下させたり検出器を損傷させることがあります。今回谷川さんは、Belle II実験で特に影響が考えられる、電子・陽電子ビームから生じるバックグラウンド(ビームバックグラウンド)を研究しました。

注3:残留ガス
電子・陽電子ビームの通り道であるSuperKEKB加速器の主リングのビームパイプ内部は、ビームと気体分子の散乱を防ぐために、中に入っていた大気を除去して真空にします。ですが、ごく僅かに気体分子が残ってしまいます。これを残留ガスと呼びます。

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