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last update:04/09/09  

   image リニアコライダーの加速技術を決定    2004.9.9
 
        〜 将来加速器国際委員会の決断 〜
 
 
  素粒子物理学の分野では、高エネルギー物理学国際会議(ICHEP)という大きな国際会議が2年に一度、開かれています。第32回目となる今年は、8月16日から22日まで北京で開催されました。

将来加速器国際委員会(ICFA)は、この会議で、将来の加速器として有望視されているリニアコライダーの実現に向けての重要な一歩となる「技術選択」を行いました。

高エネルギー物理学の課題

素粒子物理学の分野では、常に人類がこれまで達成したことのないエネルギー領域で、素粒子がどのような振る舞いを示すかを詳しく調べることによって大きな発展を遂げてきました。

現在の素粒子物理学の標準理論の枠組みで唯一未発見となっているヒッグス粒子は、その他のいろいろな粒子の振る舞いを詳しく調べることで、エネルギーの高い加速器を建設すれば発見されるだろうとの見通しがなされています。ヒッグス粒子が発見される可能性が高いのは、スイス・ジュネーブ郊外に建設中で2007年に完成予定のLHC加速器であろう、と言われています。

また、以前の記事でもご紹介した超対称性粒子も「TeV(テブ)」と呼ばれるエネルギー領域でその姿を見せるのではないか、と考えられています。

これらのヒッグス粒子や超対称性粒子(図1)が見つかった場合、その詳しい性質を調べるための最有力の加速器として世界中の素粒子物理学の研究者が有望視しているのが今回ご紹介する「リニアコライダー」です(図2)。

リニアコライダーとは

加速器で粒子の束(ビーム)を加速する時の方式には大きくわけて、ビームの軌道を磁場を使って曲げて同じ粒子を何度も加速する「円形加速器」と、加速空洞をいくつも並べて粒子を一度だけ加速する「線形加速器」の二種類があります。

加速される粒子のエネルギーがある程度になるまでは、円形加速器のほうが効率が良いのですが、電気を帯びた粒子の軌道を磁場で曲げると、シンクロトロン放射という光を出して、エネルギーを失ってしまいます。このため、もっと高いエネルギーまで粒子を加速するには線形加速器のほうが有利、という状況が生まれてきます。

シンクロトロン放射の影響は、粒子の質量が軽いほど大きいので、質量が軽い電子や陽電子をTeV領域まで加速するには、線形加速器のほうが効率が良くなります。

リニアコライダーとは、電子と、その反粒子である陽電子をそれぞれ0.5 TeV程度(KEKB加速器の約100倍)まで加速し、正面衝突させることで、TeV領域で起きるヒッグス粒子や超対称性粒子などの反応を詳しく調べるための巨大な加速器のことです。全長40kmほどの加速空洞を地下100メートルのトンネルに設置する、という案が有力です。

「冷たい」技術と「温かい」技術

リニアコライダーをどこに建設するか、については、まだ決まったわけではありませんが、世界各地の研究所が最先端の技術開発について、しのぎを削っています。

リニアコライダーを建設するとした場合、加速器の性能を左右する最も重要な部品の一つが加速空洞と呼ばれるものです。加速空洞とは、金属でできた空洞に高周波を注入して、加速される粒子がその中でちょうど波乗りをするように高周波からエネルギーを受け取るものです(図3)。

この加速空洞には、日本のKEKとアメリカのSLAC研究所が中心になって研究開発を進めてきたXバンド(11.4 GHz)の高周波を使う常伝導方式と、ドイツのDESY研究所が中心になって進めているLバンド(1.3 GHz)の高周波を使い、かつ、加速空洞を液体ヘリウムで冷却する超伝導方式の二つが有望視され、長い間、様々な性能試験が繰り返されてきました。この二つは超伝導を使わないという意味の「温かい技術」、使うという意味の「冷たい技術」というニックネームでそれぞれ呼ばれています。

世界で一つの超巨大加速器へ

全長約40kmの加速器、といえば、基礎科学の研究の中でも類を見ない、巨大な実験装置です。その建設には巨額な費用が必要になるため、世界の中で一つだけ、国際的な協力のもとで建設を進める、というのが研究者の間での合意事項になっています。

「冷たい」技術も、「温かい」技術も、それぞれ詳細な技術検討が続けられてきたので、今後の開発はこれらの技術をどちらか一つに選択した上で、改めて国際協力の枠組みを作り上げることが提唱されています。

8月に北京で開かれた高エネルギー国際会議(ICHEP'04)では、将来加速器国際委員会(ICFA)がこの重要な技術選択を行いました。将来加速器国際委員会のもとに設置された国際技術推奨委員会(ITRP)が下した、「超伝導による加速方式を今後のリニアコライダー計画で採用する」という決定を採用したのです(図4)。

過去、20年近くにわたってリニアコライダーのための基礎的な研究開発を積み重ねてきた研究者にとって、この決定は、計画の具体化に向けた極めて大きなステップです(図5)。

素粒子物理学の将来の大発見を左右するともいえるリニアコライダー。その実現に向けた研究者の真剣な取り組みに今後も目が離せません。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→将来加速器国際委員会(ICFA)プレスリリース
  http://www.kek.jp/ja/news/topics/2004/LC.html
→将来加速器国際委員会(ICFA)のwebページ(英語)
  http://www.fnal.gov/directorate/icfa/
→リニアコライダーのwebページ(英語)
  http://www.interactions.org/linearcollider/
→GLCのwebページ(英語)
  http://lcdev.kek.jp/
→2004年1月30日 OECDコミュニケ(英語)
  http://www.oecd.org/document/15/0,2340,en_2649
      _34487_25998799_1_1_1_1,00.html

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[図1]
素粒子の標準模型(上)と超対称性理論(下)
拡大図(42KB)
拡大図(66KB)
 
 
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[図2]imageShigemi Numazawa
リニアコライダーの完成イメージ図。全長約40km、地下100メートルのトンネルの内部に超伝導加速空洞が設置される。
拡大図(42KB)
 
 
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[図3]
加速空洞の原理
拡大図(392KB)
 
 
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[図4]
第32回高エネルギー物理学国際会議(ICHEP'04)の会場で、リニアコライダーの技術決定を伝える将来加速器国際委員会(ICFA)委員長のJonathan Dorfan氏。
拡大図(23KB)
拡大図(20KB)
 
 
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[図5]
リニアコライダーの技術決定の記者会見に出席した世界の研究所の所長ら。前列左からGiorgio Bellettini氏(INFN)、Jonathan Dorfan氏(SLAC)、Hesheng Chen氏(IHEP)、Albrecht Wagner氏(DESY)、Maury Tigner氏(Cornell大)。後列左からMichael Witherell氏(Fermilab)、Robert Aymar氏(CERN)、戸塚洋二氏(KEK)、Won Namkung氏(PAL)、Brian Foster氏(Oxford大)。
拡大図(64KB)
 
 
 
 

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