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KEKから見る南極老人星 2005.2.10 |
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〜 カノープスと冬の星空 〜 |
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南極老人星をご存知でしょうか。冬の夜空、南の地平線ギリギリにほんの少し顔をのぞかせる星、カノープスのことです。中国では昔、「この星が見えると長生きができる」といって、喜ばれていました。 カノープスを見ることのできる計算上の北限は日本では福島県と新潟県の北部です。KEKのある茨城県つくば市では、地平線から1.5度の高さに見えることになりますが、見晴らしの良い場所を探さないとなかなか見ることはできません。 KEKの天文好きの職員が敷地の中で撮影したカノープスと、冬の夜空のお話をご紹介しましょう。 カノープスとは 高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、茨城県つくば市にあります。関東平野の真ん中にあり、北と東には、筑波山とこれに連なる小高い山地がありますが、南と西の方向は、はるか彼方まで山らしい山はありません。空気の澄んだ冬晴れの日には、敷地から富士山を見ることもできます。 今日は、KEKから南の空低く見える星の話をしましょう。その星は「カノープス」といいます。この星は、冬の星座「りゅうこつ座」にあって恒星の中で2番目に明るいものです。最も明るい恒星である「おおいぬ座」の「シリウス」(マイナス1.5等)が、冬の夜の南の空に高くなる頃に、マイナス0.7等のカノープスも、南の空のずっと低いところに顔を出します。 星座の「りゅうこつ」(竜骨)というのは、ギリシア神話に出てくる神々の乗る大型船「アルゴ号」の船底の構造をさしています。カノープスというのは水先案内人の名だということです。古代中国では、「南極老人星」と呼ばれていて、七福神の一神「寿老人」と同一視され、この星が見られると長生きができてめでたいといわれていました。 カノープスが見える北限 カノープスは、天の南極に比較的近いところにあるので、日本からは、南の地平線ぎりぎりにしか見ることができません。計算上は福島県、新潟県、石川県あたりが見られる北限となりますが、周辺の地理条件に左右され、高い山から見下ろすともっと北でも見られる可能性もあるとあって、どこまで北に行って見られるかについて、熱心な天文愛好家の挑戦の対象となっています。 図1は、カノープスの探し方です。おおいぬ座の星々で見当をつけるのがよく行われている方法です。可能性のある観測地が近くにある方は挑戦してみてください。もちろん、カノープスは星座早見盤に載っていますので、星座早見盤も参考になるでしょう。カノープスは、関東地方では2月中頃には夜8時半頃に南中します。関西付近ではこれより15〜20分くらい遅れて南中します。1日ごとに4分ずつ南中時刻は早くなります。 図2は、カノープスが見える北限付近の地図です。カノープスの計算上の南中高度も書き入れてあります。ここでは、大気の屈折による星の像の「浮き上がり」(大気差)の効果も考慮しました。また、表1に日本のおもな都市から観測した場合のカノープスの南中高度をまとめました。南関東、東海地方や紀伊半島、山陽、四国、九州の南側沿岸では、場所を選べば比較的簡単に見ることができます。一方、茨城県となると内陸から見るのはかなり難しく、観測地の選択と天候のチャンスに恵まれることが必要です。 KEKで見えるカノープス 図3と図4の写真は、KEK構内からカノープスを撮影したものです。日光実験棟の近くからPF-AR(フォトンファクトリー蓄積リング)北実験棟の方向に(もちろんほぼ真南に当たります)この星を見ることができました。横に伸びた線状に写っているのは、星が地球の自転のために東から西に移動しているためです(日周運動といいます)。もともとは白い色の星なのですが、低空の大気を通り抜けてくるためにオレンジ色に写っています。特に建物の上層階に行かなくてもカノープスが十分見られるくらいKEK周辺は南の地平線付近が開けているわけです。 さまざまな和名 一方、日本の千葉県や茨城県では「めらぼし」、「上総(かずさ)のおしょうぼし」などと呼ばれていました。これらの名は、実在の地名や人物に関わる伝承に由来しているようですが、まだ完全に解明はされていません。このようなカノープスの和名が、見られる北限に近い茨城県北部にまで伝わっていたことは驚くべきことです。また、山陽地方や四国地方では、南の空に短時間しか見えないことから、「おうちゃくぼし」(横着星、仕事の手を抜くなまけものの星のこと)という面白い名がつけられていました。 近年、KEKの周辺の宅地・商業地の開発が進み、星はかつてほどはよく見えなくなりました。KEKでは直接的に天体望遠鏡を使って星の研究をしているわけではありませんが、宇宙とそこにある物質の構造について様々な角度から研究をすすめています。仕事のあとで夜空の星をながめながら宇宙の彼方に思いを馳せるのもまた、心安まるひとときです。
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