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last update:05/07/28  

   image 低コストに挑む    2005.7.28
 
        〜 ニュートリノ用複合磁場型磁石 〜
 
 
  高エネルギー加速器研究機構では電子や陽子などを高いエネルギーまで加速して色々な物理実験を行っています。加速された荷電粒子を必要な場所に輸送するためには非常に高い精度の磁石が必要です。この磁石は粒子のエネルギーが高くなればなるほど強い磁場を必要とします。このため加速器や粒子を輸送するビームラインでは超伝導電磁石がしばしば利用されます。

現在、茨城県の東海村で建設中のJ-PARC加速器でも、東海村から295km離れた飛騨市神岡町のスーパカミオカンデに向けてニュートリノビームを入射する「T2K(ティーツーケィ)」と呼ばれる実験のためのビームラインにも超伝導電磁石を用いることになっています。この超伝導電磁石の開発についてお話しましょう。

ビームラインに必要な磁石

加速器から加速された粒子を粒子を取り出したり別の場所に輸送するための経路を「ビームライン」とよびます。

T2K実験でニュートリノを発生させるためのビームラインでは、28台の超伝導電磁石を使って500億電子ボルト(50GeV)という高いエネルギーを持った陽子のたばを半径約100mの円弧状のビームラインに沿って約80度(150m)曲げて導きます(図1)。

ビームラインでは、粒子ビームを目的地に向けて曲げる役目をする2極(偏向)磁石と、ビームが拡散してしまわないように適度に収束させる4極(収束)磁石の2種類の磁石が必要です。T2Kの超伝導ビームラインでは2極/4極複合磁場型の超伝導電磁石を開発することで1台の磁石で2種類の磁石の役割を持たせることにしました(図2)。

超伝導電磁石は高磁場を作り出すことができるので、粒子をより小さな半径で曲げられる利点があり、トンネルの建設コストを低減できます。一方、1台あたりの超伝導電磁石は常伝導電磁石よりも高価になります。

T2Kの超伝導ビームラインでは、2極/4極複合磁場型超伝導電磁石を採用することによって台数を40台から28台に減らし、製造のコストを克服します。完成した後の超伝導電磁石システムは、常伝導のシステムより電力消費量が少なく、より経済的になります。

2極/4極複合磁場型超伝導電磁石の開発

せっかく磁石の数を減らしても1台の磁石が複雑で高価なものになってしまっては経済性が損なわれてしまいます。図2にこの2極/4極複合磁場型超伝導電磁石の断面図を示します。磁石は左右非対称な上下2つのコイル(図3)を使って2極/4極複合磁場を作ります。

このような超伝導電磁石は世界でも初めての試みです。要求される磁場性能を実現できるコイル形状の設計は、学生も含めたスタッフのがんばりでビーム運転に十分に耐えうるものができました。また機械構造的にも左右比対称であることから様々な困難が想定されました。このため製作技術の開発を機構内で研究者と技術者が一体となって行い、試作機を自作しました。

また経済性を向上させるためにこれまで国内の加速器用超伝導電磁石には使われたことのなかった圧縮成型によるフェノールプラスチック部品を採用しました。図4は磁石の組立を行っているところですが、超伝導コイルと鉄芯の間にはそのフェノールプラスチックのスペーサーが用いられています。

磁石本体はこの鉄心にヘリウム容器となるステンレスのシェルを被せて完成です。磁石の構造は極限まで合理化されていてシステムの経済性に貢献しています。完成した磁石はいったん縦型のクライオスタットに入れられてその性能試験が行われます(図5)。これまでに試作機を含めて2台の磁石が作られて試験されています。2台とも要求を満たす性能を持つことが確認されています。

冷却システム

超伝導電磁石は強磁場を出せ且つ電気抵抗がないため電源の電力が小さくてすむ一方、摂氏マイナス270度近い非常に低い温度に冷やしてやらなければなりません。このため磁石はクライオスタットと呼ばれる魔法瓶のような真空容器の中に入れられた上で大型のヘリウム冷凍機から供給される極低温ヘリウムによって冷却されます(図6)。

磁石は150メートルのビームライン全長にわたって直列に並べて冷却されます。このためビームライントンネルの中には直径1メートルで長さ150メートルの長大な真空容器が設置されます。また真空容器の性能が悪いと冷凍機にかかる付加が増えて必要以上に電力が冷凍機に必要となってしまいます。真空容器はヨーロッパのCERNで建設中の超大型加速器LHC で使われた最先端の技術を使って断熱性能を向上させています。

建設計画

J-PARCニュートリノ(T2K)の超伝導電磁石システムは現在建設が進行中で、今年度には磁石2台が入った最初のビームライン用クライオスタットが完成します。2006年度からは本格的に量産体制に入り、2008年度秋までにはJ-PARCのサイトにすべての磁石が設置され試運転が始まる予定です。

今回の開発に関して、携わったKEK超伝導低温工学センターの荻津透氏は次のように述べています。

「2極/4極複合磁場型超伝導電磁石の開発の大きなテーマは、いかに経済性を高めるかということでした。この超伝導ビームラインの必然性が、土地や施設の制約から生じたという状況がまずあっての開発でしたので、低コストで要求を満たす性能を追求したのです。この複合磁場型超伝導電磁石がJ-PARCで実績を上げれば、今後、まず、ビームラインのような比較的複雑な制御を要求されないところで需要が出てくると思います。加速器本体で言えば、FFAG(Fixed-Field Alternating Gradient)加速器のような本質的に複合磁場が必要な加速器が研究の現場に採用されるようになれば、さらに応用は広がるでしょう。また、加速器用の電磁石は、常に経済性が要求されるものですので、ビーム計算の進化にともない、採用されるケースもだんだん出てくるのではないかと、期待を抱いています。」



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→T2Kのwebページ
  http://www-nu.kek.jp/jhfnu/index.html
→K2K のweb ページ
  http://neutrino.kek.jp/index-j.html
→J-PARCのwebページ
  http://j-parc.jp/
→キッズサイエンティスト:FFAGのページ
  http://www.kek.jp/kids/closeup/ffag/

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[図1]
J-PARCニュートリノビームラインの全容。図面右上の50GeVリングビーム射出部から50GeV、0.75kWの陽子ビームがニュートリノビームラインに入射されます。陽子ビームは常伝導電磁石で構成される準備セクション、超伝導電磁石で構成される曲線部、最終収束部を順番に通ってターゲットに当てられます。ターゲットで生成されるパイ中間子が崩壊してニュートリノが作られます。。ニュートリノの飛ぶ方向は陽子がターゲットにあたる方向で決まるので、陽子をあらかじめ必要な方向に向けておく必要があります。50GeVリングの射出部は北を向いていたため、飛騨市神岡町のある西方向に向けて約80度ビームを曲げる必要があります。
拡大図(37KB)
 
 
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[図2]
2極/4極複合磁場型超伝導電磁石の概念。ビームを輸送するためには均一磁場によってビームを曲げる役目を持つ2極(偏向)磁場と、傾きを持った磁場によってビームを収束させる4極(収束)磁場とが必要になります。2極/4極複合磁場型超伝導電磁石は左右非対称な構造によって2極磁場用超伝導電磁石と同程度のコストで2極/4極複合磁場を実現します。
拡大図(99KB)
 
 
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[図3]
2極/4極複合磁場型超伝導電磁石用コイル。上コイルと下コイルを内径側を上に並べている所です。コイルは左右比対称でなおかつ上コイルと下コイルは鏡対象になっています。
拡大図(83KB)
 
 
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[図4]
2極/4極複合磁場型超伝導電磁石の組み立て。コイルは鉄芯によって構造的に支えられます。鉄芯とコイルの間には絶縁材と磁場性能向上のためのスペーサーをかねる圧縮成型によって作られたフェノールプラスチック製のスペーサーが入っています。
拡大図(69KB)
 
 
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[図5]
試験準備中の2極/4極複合磁場型超伝導電磁石。縦型クライオスタットでの低温試験の為に縦釣りされた2極/4極複合磁場型超伝導電磁石の試作機です。一緒に移っている人々は開発に携わったスタッフです。磁石はこの後縦型クライオスタットに挿入されて摂氏マイナス269度まで冷やされて試験されました。
拡大図(82KB)
 
 
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[図6]
冷却システムおよびクライオスタット。磁石システムはヘリウム冷凍機と直結されてヘリウム冷凍機から供給される極低温ヘリウムによって冷却されます。磁石は横型のクライオスタットに入れられて熱付加を減らすようにしています。
拡大図(85KB)
 
 
 
 
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