J-PARC施設利用実験再開について

 

平成24年1月20日
J-PARCセンター

平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震により、日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同で建設・運営している、J-PARC(大強度陽子加速器施設、J-PARCセンター長:永宮正治)は、施設などに大きな被害を受けました。施設の復旧作業に取り組んできた結果、本年1月24日から施設利用実験を再開することになりましたのでお知らせします。


昨年の東北地方太平洋沖地震においてJ-PARCが設置されている東海村は震度6弱の揺れに見舞われ、J-PARCの各施設も大きな被害を受けました。この被害を復旧するまで施設の運転や実験を中断せざるを得ない状況になりましたが、長期間の実験停止は多岐にわたる科学研究・技術の発展を停滞させるばかりでなく、各国と熾烈な競争を繰り広げている我が国の最先端科学研究の進展にも影響しかねません。
J-PARCでは1日も早い運転再開を目指し、職員・関係者は一丸となって復旧作業に取り組みました。その結果、震災後の5月に目標として定めた復旧工程どおり昨年12月からビーム試験を開始しました。機器の健全性も確認されたため、本年1月24日から施設利用実験を再開することとなりました。
これは、文部科学省はじめ、茨城県、東海村など関係機関、さらに実際に復旧作業にあたられた各企業の皆様などの多大なご支援、ご協力の賜であると感謝するとともに、職員・関係者の施設復旧と運転再開に向けた熱意と努力の結果でもあります。
平成23年度内には2ヶ月程度、国内外の研究者がJ-PARCを利用して実験・研究を行う施設利用実験を実施する予定です。

【被害状況と復旧までの経緯】

東海村では、道路の陥没や建物の損傷、水・電気等のライフライン停止など大きな被害がありました。J-PARCは幸い津波等の被害を受けず、また主要な建物や主たる機器を設置した地下トンネルは、岩盤まで到達させた強固な基礎杭により支えられており、内部の装置や機器にも転倒などの致命的な被害はありませんでした。
しかし、建物周囲の地盤が激しい振動によって沈下し、道路の陥没、給排水管の断裂や地下埋設電源ケーブルの損傷、変圧器や液体窒素タンクが傾くといった大きな被害が生じました。全体的に15cmほど沈んでしまった増設建物部などもありました。また、地球の丸みも補正して1mm以下の誤差で精密に並べている数十トンもある数百台の大型電磁石が、トンネルのわずかな歪みで上下左右に数cmずれてしまい、装置の運転ができなくなりました。
1日も早い運転再開を目指し、復旧の計画とスケジュールを5月に策定し、作業を開始しましたが、幾多の困難な復旧作業がありました。建物や道路、周辺設備の数多くの修復工事、数百台の電磁石を精密な測量を行い正確に設置し直す作業や、振動でわずかにずれた総重量数千トンに達する遮蔽体を、元通りに積み直す作業などは困難を極めました。しかし、実施しなければならない作業は確実に、そして安全を確認しながら進めてきました。
その結果、計画どおり昨年12月9日からビーム試験を開始し、各加速器、実験施設とも機器の健全性が確認されたため、本年1月24日から施設利用実験を再開することになりました。スケジュールの関係上、まだ復旧できていない建物や施設もあります。今後、順次修復を進め、完全復旧を目指します。

【本件に関するお問い合わせ】

<J-PARCについて>
J-PARCセンター 広報セクションリーダー 鈴木 國弘
Tel:029-284-3587 Fax:029-282-5996

<高エネルギー加速器研究機構(KEK)について>
高エネルギー加速器研究機構 広報室長 森田洋平
Tel:029-879-6047 Fax:029-879-6049 E-mail:press@KEK.jp

<日本原子力研究開発機構(JAEA)について>
独立行政法人日本原子力研究開発機構 広報部報道課長代理 藤原利如
Tel:03-3592-2346

【用語解説】

※J-PARC(ジェイ・パーク)
J-PARC(Japan Proton Accelerator Research complex:大強度陽子加速器施設)は、日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同で茨城県東海村に建設し、運営を行っている最先端科学研究施設である。
東海村のJAEA原子力科学研究所内、約65ha(東京ドーム約14個分)の敷地に、3台の大型陽子加速器と各種の実験研究施設が設置されている。加速器で光速近くまで加速した大強度の陽子ビームを、標的である金属や炭素などの原子核と衝突させて、原子核破砕反応により中性子や中間子、ミュオン、ニュートリノなどの粒子を発生させる。
実験研究施設では、これらの粒子を利用して原子や原子核、素粒子の世界を調べ、最先端の原子核・素粒子物理研究とともに、創薬開発に繋がるタンパク質の構造解析や、リチウムイオン電池や超伝導材料の物性研究などが行われている。

【主な地震被害と復旧状況】

●主な被害状況

(1)リニアック、シンクロトロンなどの加速器
・道路、建物周辺の陥没、建物の壁や天井(石膏ボードなど)の崩落、空調ダクト、照明等の脱落・損傷、天井クレーンレールの歪み(機器搬出入作業に影響)
・加速器地下トンネル部の漏水(壁や天井に生じた微細なひび割れから、地下水が浸み出した)
・トンネル内漏水による真空ポンプなどの一部水没(停電により排水ポンプが稼働できなかったことによる)
・電磁石や加速空胴の設置位置のずれ(1mm以下の設置精度で並べられている数百台の機器が、数mmから数cmずれた。この程度のずれでも運転には大きな支障になる)
・建物周囲に設置した大型変圧器やコンデンサ、電源盤等が、周囲の地盤沈下により傾く

(2)各実験施設(中性子、中間子、ニュートリノなどを利用する実験施設)
・道路、建物周辺の陥没、液体窒素タンク等が沈下により傾く、建物の壁などの崩落
・地下埋設の給排水設備配管、地上設置の冷却水設備配管などが断裂、ゆがみ、損傷
・増設部建物の沈下(数十cm、建物ごと沈下)、接続部分の機器が一部損傷
・遮蔽体のずれ(鉄や鉄筋コンクリート製の、数トンから数十トンの放射線遮蔽体がずれた。数百個の遮蔽体がずれた施設もある)
・電磁石などの設置位置のずれ

●復旧作業

(1)建物・道路関係
・陥没した道路、建物周辺の修復、地下埋設配管や電源ケーブルの復旧(一部未修復部有り)
・建物内部の壁、天井、照明、空調ダクトなどの修復(一部未修復部有り)
・地下トンネル部の漏水は、ウレタン樹脂を注入して止水
・沈下した増設部建物は、建物ごとジャッキアップして修復
・天井クレーンの修復(一部未修復部有り。クレーン移動範囲を制限)

(2)装置関係
・トンネル内漏水は復電によりポンプを稼働して排水、水に濡れたポンプなどは分解点検
・加速器電磁石や加速空胴は1台1台精密測定を実施、ずれを許容範囲内にまで戻すとともに、一部機器は再設置や架台の交換などを実施、中性子発生用の水銀ターゲットも交換
・遮蔽体のずれも1個1個取りはずして修復、再設置の際にはズレ止めの金具を追加
・傾いた大型変圧器やコンデンサ、電源盤などは、ジャッキアップを行って修復、一部架台基礎を打ち直して再設置
・増設建物の沈下により生じた段差で、接続部分の機器が一部損傷、交換作業を実施
・傾いた液体窒素タンクは一旦取り外し、基礎を修復して再設置

●ビーム試験

・リニアックのビーム試験を12月9日から開始、3GeV・50GeVシンクロトロンは、それぞれ18日、22日からビーム試験を開始
・物質・生命科学実験施設のビーム試験を12月22日に開始し、ターゲットからの中性子発生を確認。ニュートリノ実験施設も24日にニュートリノ発生を確認。ハドロン実験施設は1月中旬から試験開始の予定

被害、復旧の状況、及び復旧スケジュール

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