日本物理学会第17回論文賞、受賞5編のうち2編がKEK関連論文

 

3月26日、関西学院大学にて開かれた日本物理学会第67回年次大会にて、第17回論文賞表彰式が開催されました。日本物理学会論文賞は、独創的な論文の発表により、物理学の進歩に重要な貢献をした研究者に与えられる賞です。今回は17件15編の論文の中から、独創性、重要性、インパクトの点で特に優れた5編の論文が選ばれ、KEKからは物質構造科学研究所の貞包(さだかね)浩一朗博士研究員、瀬戸秀紀教授が受賞しました。また、同じく同賞を受賞した筑波大学の青木慎也教授は、KEK大型シミュレーション研究のユーザーです。


左から:瀬戸秀紀教授(KEK物構研)、貞包浩一朗博士研究員(KEK物構研)、遠藤仁研究員(日本原子力研究開発機構)

受賞対象となった論文は、貞包浩一朗、瀬戸秀紀、遠藤仁、柴山充弘著の "A Periodic Structure in a Mixture of D2O/3-Methylpyridine/NaBPh4 Induced by Solvation Effect" です。貞包氏らは、水と3メチルピリジン混合液に塩を加えた溶液が、温度によって透明から青、緑、黄色、赤と変化することを発見。その仕組みを中性子小角散乱実験により、溶液中で10ナノメートルから数100ナノメートルの周期構造が発生し、温度と共に変化していくためであることを解明しました。このような長周期構造が溶液中に発生していることは、液体の概念を覆す重要な物理的発見となりました。また、これまでこのような相分離する溶液に塩を加えると、界面ではイオンと各相との親和性の違いからクーロン相互作用が表れ、中性子の散乱強度で観測できると理論的に予測されていましたが、実験で確かめたのはこれが初めての例です。実験手法を確立し、示したことはソフトマター物理、統計物理の分野に大きなインパクトを与えました。


表彰式の様子:青木慎也教授(筑波大学)

KEK大型シミュレーション研究は、本機構のスーパーコンピュータを利用して行う、KEKの研究に関わる分野の共同研究(機構内の研究分野)、ならびに素粒子・原子核物理学に関連する分野の共同利用を公募により進めています。今回受賞となった論文は、平成21-22年度の採択課題の成果で、青木慎也、初田哲男(理化学研究所主任研究員)、石井理修(いしいのりよし、筑波大学准教授)著の論文、 "Theoretical Foundation of the Nuclear Force in QCD and its applications to Central and Tensor Forces in Quenched Lattice QCD Simulations/ Prog. Theor. Phys. 123 (2010),89-128" です。陽子や中性子の間に働き原子核を作りだす核力を、クォークの力学である格子量子色力学から導きだす計算法を論じ、全く新しい有効な手法を論じた画期的論文と高く評価され受賞となりました。受賞した青木教授は「現在の研究の方向性を決めることになった重要なものであり、著者として愛着を持っている論文の1つです。今回、物理学会の論文賞に選ばれたのは名誉なことであり、うれしく思っています。今後もこの論文を基礎とした研究をさらに発展させて行きたいと考えています」と、喜びを語りました。

著者および論文名
貞包浩一朗、瀬戸秀紀、遠藤仁、柴山充弘
A Periodic Structure in a Mixture of D2O/3-Methylpyridine/NaBPh4 Induced by Solvation Effect/ J. Phys. Soc. Jpn. , Vol.76, No.11, 113602 (2007)
青木慎也、初田哲男、石井理修
Theoretical Foundation of the Nuclear Force in QCD and its applications to Central and Tensor Forces in Quenched Lattice QCD Simulations/ Prog. Theor. Phys. 123 (2010),89-128

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関連サイト

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KEK大型シミュレーション研究

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