【KEKエッセイ #6】チコちゃんは知ってる!?ガラスが透明な理由

 

好奇心旺盛で何でも知っている5歳、と言う設定のチコちゃんがナビゲートする、NHKの番組「チコちゃんに叱られる!」が大人気です。チコちゃんが投げかける質問に大人が答えられないと、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と一喝されます。チコちゃんの質問は、普段は当たり前だと思って深く考えたことがないものばかり。答えを聞いて「ああ、勉強になったなあ」と思うことも多く、自分自身「よく考えもせずボーっと生きてきたんだなあ」と気づかされたことが何度もあります。

そんな面白いネタを毎回見つけてくる番組スタッフもたいしたものだ、と感心することしきりなのですが、実は私にも思い当たるネタがいくつかあります。今回はその中のひとつ「何でガラスは透明なの?」を取り上げてみます。

(物質構造科学研究所 瀬戸秀紀)

J-PARCで中性子散乱実験の試料調整に用いるガラス器具(撮影:物質構造科学研究所 瀬戸秀紀)

窓やコップに使われるガラスは、砂や土の主成分であるケイ酸塩を溶融して冷やして固めたものです。なぜそれが透明なのか。それはガラスが「glass」だからなのです。なーんて言うと、「何のことだろう」と思われるかも知れませんが、ここでわざわざglassと書いたのは、窓ガラス等のいわゆる「ガラス」と区別するためです。glassとは、液体や結晶と同様に物質の状態のこと。物質中の分子同士が緩く結合して不規則に寄り集まっている「液体」でも、分子同士が強く結びついて規則正しく並んでいる「結晶」でもない、分子の凝集状態の一種なのです。

このglassとはどのような状態か。分子が不規則に寄り集まっているという意味では液体と同じですが、液体と違うのはそれらの分子が位置を変えることができないことです。液体の分子は比較的自由に動き回ることができ、外から力を加えることで容易に変形させられます。しかし、glassは”何らかの事情”で不規則な分子配置のまま止まっていて動き回ることができません。このため、ガラスは結晶と同じように少々の力では変形させられないのです。

その”何らかの事情”とは何か。それを明らかにする努力は170年ほど前から行われてきました。温度を上げ下げしながら、比熱や熱膨張率などの物理量を測定するのです。すると、これら物理量が不連続的な変化を起こす温度が決まります。(これを「ガラス転移」と呼びます。)しかしこのガラス転移温度は冷却速度によって変わりますし、物質の微妙な違いによって大きく変わることもあります。このガラス転移を起こす温度がどのように決まるのか、など分かっていないことがたくさんあります。

また、glassになる物質はケイ酸塩だけではありません。例えばアクリル樹脂はポリメタクリル酸メチルと言う紐状の長い分子(高分子と言います)が規則的に並ぶことができないためglassになったものですし、磁石の磁力の素である電子スピンも、ある条件の下で冷やすと向きがばらばらのまま動かなくなってglassになってしまいます。このようにglassになるということは物質によらない普遍的な現象なのですが、しかしそれがなぜなのか、どうして突然乱れたままで動けなくなってしまうのか、統一的な説明はできていません。つまり、どこにでもあるガラスがなぜできるのか、未だに多くの物理学者や化学者の頭を悩ませているのです。

ということで、チコちゃんになり代わって、私から質問させていただきます。

「ねえねえオカムラ、何でガラスは透明なの?」

「えっ?なんで??」

「その答え、チコちゃんは知っています」

「ガラスが透明なのは」どどん「ガラスはglass状態だからー」

えっ?ではなぜ「glass状態だと透明なのか?」ですか。それはちょっと調べれば(例えば下記のURL)きっとすぐに分かります。このエッセイを読んでいるあなたも、ボーっと生きてちゃダメですよ!

https://logmi.jp/business/articles/75130

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