大型低温重力波望遠鏡KAGRA観測開始

 
Shota Takahashi / KEK
  • 東京大学
  • 高エネルギー加速器研究機構
  • 自然科学研究機構 国立天文台

概要

大型低温重力波望遠鏡 KAGRA(かぐら)が観測を開始しました。

KAGRAは、東京大学宇宙線研究所、高エネルギー加速器研究機構、自然科学研究機構国立天文台を共同ホスト機関とした協力体制のもと、国内外の研究機関・大学の研究者と共同で岐阜県飛騨市に建設されました。 昨年秋の完成後、感度を高めるための調整、試験運転が続けられていましたが、本日2020年2月25日重力波観測のための連続運転が開始されました。

KAGRA の研究代表者、宇宙線研究所長の梶田隆章教授は「2010年のKAGRAプロジェクト開始後から研究チーム一丸となった準備をしてきましたが、ようやく重力波観測を始めることができました。 このプロジェクトを支援していただいた多くの方々のおかげであり、あらためてこれまでのご支援に感謝いたします。感度はまだまだですが、引き続き感度向上の努力を続けてまいります。」と述べています。

参考

【重力波について】

重力波とは、質量を持つ物体が運動するときに発生する「時空のゆがみ」が波となって光と同じ速さで宇宙空間を伝わる現象で、1915年から1916年にかけてアインシュタインが発表した一般相対性理論から導かれました。 ただし、その時空のゆがみは大変小さいため観測が難しく、アインシュタインの予測から約100 年経った2015年にようやく米国の重力波望遠鏡LIGO(ライゴ)が初めて観測に成功しました。

地球上の重力波望遠鏡で観測ができそうな重力波を発生する天体現象としては、星の一生の最期である超新星爆発や、中性子星やブラックホールの連星の合体(衝突)などの激しい天体現象が考えられます。 2015年のLIGOによる重力波の初観測は、2個のブラックホールが合体したときに発生したものでした。 また、2017年にはLIGOと欧州の重力波望遠鏡 Virgo(ヴァーゴ)の共同観測で 2個の中性子星の合体からの重力波を検出した際は、重力波に続いて到達したガンマ線や可視光などの電磁波を世界中のさまざまな望遠鏡で観測することに成功、「マルチメッセンジャー天文学」と呼ばれる新しい天文学の幕開けとなりました。

【大型低温重力波望遠鏡 KAGRA(かぐら)について】

これまで、宇宙からの重力波を観測できる重力波望遠鏡は米国 LIGO の2台と欧州Virgoの計3台が稼働していました。 大型低温重力波望遠鏡KAGRAは、世界で4台目、アジア地域では初の重力波望遠鏡として、観測を開始しました。 KAGRAは、LIGOやVirgoと同様に1辺の長さが3kmのL字型の2本の長い腕を持ち、2つに分けたレーザーの光をそれぞれの腕で何度も往復させ、最終的に光の干渉をもちいることで重力波によってひきおこされたわずかな空間の伸び縮みを検出します。 このとき、腕の両端に設置したレーザーを折り返す鏡が、重力波以外の原因によって振動することをいかに抑えるかが検出器の感度向上の鍵となります。 KAGRAでは、望遠鏡を岐阜県飛騨市の岩盤のしっかりした山の地下に設置して地面振動の影響を軽減し、さらに鏡をマイナス253℃まで冷却して熱振動による影響を軽減します。 この、「地下にある」ことと「鏡を冷やす」ことが、他の重力波望遠鏡にない KAGRA の大きな特徴です。

【KAGRA のこれまで】

2010年にプロジェクトが始動した大型低温重力波望遠鏡KAGRAは、2012年5月から2014年3月にかけて総延長7.7kmに達するトンネルをはじめとする地下空洞の掘削を行い、これと並行して長さ6km、直径80cmの真空ダクトや真空容器の開発、製造を進めました。 続いて2014年5月から2015年9月にかけて地下実験室の実験環境の整備や真空ダクト・真空タンク・冷凍容器などの搬入と設置を行いました。 さらに2015年からはレーザー光学系の組み込みやさまざまな鏡を地面振動から防振するための装置の組み込み、調整を進めるとともに、冷却して使用するためのサファイアでできた鏡の開発、製造を行い、2017年から2018年にかけて行ったサファイア鏡の搬入、組み込みを経て2019年4月、ほぼ全ての機器の搬入、設置が完了しました。 その後、精密なレーザー干渉計として動作させるための調整や検出感度を高めるための試験、調整をすすめ2020年2月、最終の試験運転を経て重力波の観測開始となりました。

TOP