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母乳のオリゴ糖からビフィズス菌増殖因子を切り出す酵素のしくみを解明

物構研トピックス
2013年5月10日

東京大学大学院農学生命科学研究科の伏信進矢(ふしのぶ しんや)教授らの研究グループは、母乳に含まれるオリゴ糖の一種ヒトミルクオリゴ糖*1からビフィズス菌を増やす因子を切り出す酵素「ラクトNビオシダーゼ」の三次元構造を、フォトンファクトリーBL-17AのX線結晶構造解析*2を用いて解明しました。

ビフィズス菌はヒトの腸内に生息する善玉菌として知られています。また、母乳栄養乳児の腸内にはビフィズス菌が速やかに定着することも、これまでの研究で知られています。
近年の研究により、ヒトの母乳に含まれるヒトミルクオリゴ糖にビフィズス菌を増殖させる因子「ラクトNビオース*3」が豊富に存在していること、 さらに、ビフィズス菌の表面にある酵素「ラクトNビオシダーゼ*4」が、ヒトミルクオリゴ糖からラクトNビオースを切り出すはたらきをすることが分かってきました(図1)。 しかし、ラクトNビオシダーゼがラクトNビオースのみを切り出す詳細なメカニズムは分かっていませんでした。

図1: ビフィズス菌のヒトミルクオリゴ糖代謝経路(概念図)
ビフィズス菌の菌体外にはヒトミルクオリゴ糖を切断する酵素が複数発見されているが、そのうち、ラクトNビオシダーゼ(赤色)は、ラクトNビオース(緑色)を切り出す酵素である。さらに、ビフィズス菌は、遊離したラクトNビオースを菌体内に取り込むトランスポーターと、菌体内でラクトNビオースを分解代謝する一連の酵素を持つことが分かっている。
画像提供:東京大学大学院 伏信進矢

図2: ラクトNビオシダーゼに結合したラクトNビオース
ラクトNビオシダーゼの分子表面の正電荷を青で、負電荷を赤で表す。ラクトNビオース(緑色)がぴったりとはまるポケットが分子の中央に存在する。
画像提供:東京大学大学院 伏信進矢

今回、伏信教授らの研究グループは、石川県立大学生物資源工学研究所の片山高嶺准教授のグループ、近畿大学生物理工学部の芦田久教授らのグループと共同で、ラクトNビオシダーゼの三次元構造を、 X線結晶構造解析により初めて明らかにしました(図2)。 その結果、ラクトNビオシダーゼの中央には、ラクトNビオースの2つの糖がぴったりとはまるポケットがあり、ラクトNビオースを厳密に認識している様子が明らかになりました。 また、ラクトNビオシダーゼに結合したラクトNビオースと阻害剤*5の形状から、この酵素が触媒反応を行う際に、ヒトミルクオリゴ糖がどのように構造変化をして、切断(分解)されるかという、詳細なメカニズムを推定しました。

ラクトNビオシダーゼは乳児の腸内に生息するビフィズス菌から見つかっており、今後、この酵素を改変して利用することにより、ビフィズス菌の増殖因子を合成、健康に寄与する食品の開発などへの応用が期待されます。

本研究成果は、米国生化学分子生物学会が発行するThe Journal of Biological Chemistryに掲載されました。
>>東京大学プレスリリース
>>「The Journal of Biological Chemistry」(288巻17号)
"Crystal Structures of a Glycoside Hydrolase Family 20 Lacto-N-biosidase from Bifidobacterium bifidum"


用語解説

  • *1 ヒトミルクオリゴ糖

    牛乳に含まれるオリゴ糖のほとんどが乳糖(ラクトースとも呼ばれる、ガラクトースとグルコースがβ1,4-結合した二糖)であるのに対し、ヒトの母乳では約20%がラクトース以外の種々のオリゴ糖であり、 これらは総称してヒトミルクオリゴ糖と呼ばれている。ヒトミルクオリゴ糖は3糖以上の複雑な構造を持つ約130種類のオリゴ糖の混合物からなる。

  • *2 X線結晶構造解析

    酵素(タンパク質)の立体構造を得るための最も一般的な方法の一つ。目的物質の結晶にX線を照射し、回折データを測定することにより、微細な三次元構造を知ることが出来る。

  • *3 ラクトNビオース

    ガラクトースとN-アセチルグルコサミンがβ1,3-結合した二糖。

  • *4 ラクトNビオシダーゼ

    オリゴ糖の末端に存在するラクトNビオースの部分を加水分解により切断する酵素。乳幼児の腸管内に生息するタイプのビフィズス菌 (Bifidobacterium bifidumBifidobacterium longum)のうち、複数の菌株から発見されている。

  • *5 阻害剤

    酵素のはたらきを妨げる分子。本研究で用いた「ラクトNビオース-チアゾリン」は酵素反応の中間体によく似た構造を持ち、ラクトNビオシダーゼの触媒を担う部分に強く結合する。

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