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物構研News No.2

No.2 2012年8月発行

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Contents

  • 正しい細胞分裂を司るタンパク質
  • 私たちの身体はおよそ60兆個の細胞から成り、その一つ一つが常に分裂、増殖を繰り返すことで、身体を構成し、生命活動を維持している。もし...
  • 自然界に学ぶソフトマターの材料設計
  • ほとんどの方が初めて耳にする言葉かも知れないが、ソフトマターは私たちの身の回りにあふれている。例えばプラスチックやゴム、...
  • 研究トピックス
  • [技術]本格的なポジトロニウムビーム生成に成功
  • [材料]新たな電気分極発現原理を有機強誘電体で実証
  • [材料・ダイナミクス]100億分の1秒で光増感分子の動きを観測
  • 施設情報
  • 超低速ミュオン・cERL建設状況・SuperHRPD 震災から復旧
  • お知らせ
  • [イベント予定] 第6回サマーチャレンジ・KEK一般公開・文化財科学講演会

正しい細胞分裂を司るタンパク質

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私たちの身体はおよそ60 兆個の細胞から成り、その一つ一つが常に分裂、増殖を繰り返すことで、身体を構成し、生命活動を維持している。もしも細胞が分裂できなければ、細胞の寿命と共に、細胞は死滅してしまうし、逆に分裂しすぎて必要以上に細胞が増えれば、ガンなどの疾患につながる。各細胞には2 つに分裂するための周期があり、その周期に応じて分裂を調節するしくみが備わっている。

細胞分裂は、細胞核内に存在する染色体DNA の複製から始まる。DNA が複製され、できあがった二組の染色体は半分ずつに分離していく。次いで細胞質の分裂が始まる。分裂途中の細胞は、ひょうたんのような形をしており、中央のくびれ部分が「ぷつん」と切れ両者が細胞膜で閉じると細胞分裂が完了する。その間、分かれつつある二つの細胞の間には、微小管の束が橋をかけるように現れる(下図)。

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細胞分裂の様子

自然界に学ぶソフトマターの材料設計

softmatter
ロータス効果

「ソフトマター」って?
ほとんどの人が初めて耳にする言葉かも知れないが、ソフトマターは私たちの身の回りにあふれている。例えばプラスチックやゴム、これらは主に炭素と水素からなる原子の鎖でできた「高分子」と呼ばれるソフトマターの一種で、ゼリーのように柔らかいものから鉄より丈夫な特殊繊維まで、非常に幅広い性質を持っている。他にも、パソコンのディスプレイに使われる液晶や、手を洗うときに使う石けんも代表的なソフトマターだ。このように、身の回りにある金属、ガラス、セラミックス、半導体以外はほとんどがソフトマターでできており、我々の生活とは切っても切り離せない存在なのである。

自然はアイディアの宝庫
新材料を開発するヒントは、実は自然の中にあるという。例えば撥水性の布や塗料など、物質表面で水が玉になって転がる様は、蓮の葉の上で水滴が転がる「ロータス効果(ロータスは蓮の意味)」を模倣したもの(写真)。蓮の葉の表面に存在する細かなワックス層の凹凸が水を強力に弾いて水滴をつくり、泥などの異物を水滴と一緒に洗い流している。これとは対照的に、...

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研究トピックス

[技術] 本格的なポジトロニウムビーム生成に成功

Ps-beam
ポジトロニウム負イオンの光脱離を利用したポジトロニウムビーム生成装置

東京理科大学とKEK の研究グループ(代表、東京理科大学長嶋 泰之教授)は、電子1個と陽電子1個が束縛し合っているポジトロニウムを、エネルギーの揃ったビームとして超高真空中で生成することに成功した。通常、電荷をもたないポジトロニウムは電場による加速ができないが、今回、KEK物質構造科学研究所のパルス状陽電子ビームを用いて生成したビームでは、1keV を超えるエネルギーにまで自由に加速することが可能になった。実験で生成されたのは1.9keV までのポジトロニウムであるが、原理的にはもっと高いエネルギーまで加速することが可能。
今回実証されたポジトロニウムビームは、未だ誰も手にしたことのないエネルギー領域をカバーし、しかも物質表面の分析に不可欠な条件である超高真空中で実現した。これを利用して絶縁体など物質表面の分析や、回折実験への利用など、研究手法としての展開が期待される。さらに、未だ謎の多い、ポジトロニウム自身の性質の解明にも用いられる。
Appl. Phys. Lett. 100, 254102 (Jun 20, 2012)

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[材料] 新たな電気分極発現原理を有機強誘電体で実証

KEK 物質構造科学研究所の研究グループ( 構造物性研究センター・小林賢介 研究員、熊井玲児 教授、村上洋一 センター長)は、産業技術総合研究所の堀内佐智雄 フレキシブル有機半導体チーム長、東京大学の賀川史敬 特任講師、東京大学・理化学研究所の十倉好紀 教授と共同で、有機強誘電体の電気分極の大きさと方向が分子間の動的な電子移動によって決定される新たな分極発現機構を、電気分極測定と放射光X 線回折実験を通じて明らかにした。この「電子型強誘電性」と呼ばれる現象は、結晶中のイオンの変位に伴い静電荷が偏り自発分極が生じるという古典的な描像( イオン変位モデル)に比べ、20 倍以上もの大きな電場応答を実現したことから、今後の強誘電体の高性能化にも同原理を活かした展開が期待される。
Phys. Rev. Lett. 108, 237601 (Jun 4, 2012)

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[材料・ダイナミクス] 100億分の1秒で光増感分子の動きを観測

hemoglobin
電子移動による構造変化の概念図

KEK 物質構造科学研究所の佐藤篤志研究員、野澤俊介准教授、足立伸一教授、分子科学研究所の藤井浩准教授、東京工業大学大学院の腰原伸也教授の研究グループは、100 億分の1 秒の時間分解能で、太陽電池や光触媒の基礎反応である電子移動のメカニズムを明らかにした。光エネルギーを化学エネルギーに変換する素過程の解明は、今後の材料開発に有益な情報となる。
本研究で用いたポンププローブ法による時間分解X 線吸収分光測定は、光照射によって起こる化学反応過程での電子移動や、それに伴う分子構造の変化を観測できる。この手法により、色素増感太陽電池、光触媒、有機EL などのデバイスが実際に動作している様子を観測することが可能となったため、高効率化などへの進展が期待できる。
J. Phys. Chem. C. 116, No.25(Jun 28, 2012)

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施設情報

ミュオンUライン 超低速ミュオン

muon-U-line
右側S 字状の円筒形のものが超伝導湾曲ソレノイド電磁石

2010 年度からJ-PARC の物質・生命科学実験施設(MLF) で建設が進められている大強度超低速ミュオン専用ビームライン。7 月5 日、加速器トンネル内にあるミュオンターゲットから実験ホールへミュオンを導く超伝導湾曲ソレノイド電磁石が搬入、設置された(右写真)。

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放射光 cERL建設状況

cERL
入射器用クライオモジュールの設置

2012 年度のビーム運転開始を目指し、建設が進められているERL(エネルギー回収型ライナック)の実証器、コンパクトERL(cERL)。
ERL 開発棟では2セル超伝導空洞3台が断熱真空槽内に収納され、入射器用クライオモジュールの組立てが完成した。
6月26 日には、コンクリートシールド内にクライオモジュールの設置が完了し(上写真)、現在、冷凍機との冷却配管の接続作業が進められている。今後、8月の完成検査を経て、9月には初めての冷却試験が行われる予定。

中性子ビームラインBL08 SuperHRPD 震災から復旧

SuperHRPD
ビームライン下流から上流を臨む(上)と破損箇所(左)

東日本大震災の影響により、実験装置の一部が破損し、利用を中断していたJ-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF) のビームラインBL08 SuperHRPD が復旧し、4 月8 日から実験を再開した。
SuperHRPD は中性子源から約100m にわたり、長く延びたビームラインが特徴的な装置。そのため、MLF 建屋には収まりきらず、増設する形でビームラインが設置されている。震災時には震度6 弱の揺れにより、MLF 建屋と増設した建物の間には最大10cm ものずれ生じ、中性子を装置まで輸送するガイド管が破損した(写真)。新しいものに交換、地震によってずれ動いてしまったガイド管全てを並べ直し、実験再開を迎えることができた。
このビームラインの復旧を以って、MLF 中性子の全ての実験装置が利用可能となった。


お知らせ -イベント予定-

8/20(月)~28(日)
第6回サマーチャレンジ 「この夏、豹変する」

研究最前線で活躍する研究者と共に実験や解析、最終日には全員が研究成果発表する、研究を 9 日間にわたって体験するプログラム。申込受付終了(5/18)。
>>詳しくはこちら

9/2(日)
KEK一般公開

KEK-OpenHouse

KEK 一般公開では、普段は見ることのできない施設や施設を見学、著名な研究者の講演、おもしろ物理教室など様々な企画を通じて先端的な研究をご紹介します。
自然あふれるつくばキャンパスで、加速器科学の不思議にふれてみませんか?
>>詳しくはこちら

9/28(金)
文化財科学講演会 -放射光・中性子で文化財を探る-

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考古学的・歴史的に貴重な史料を非破壊で評価、分析する、放射光と中性子による研究成果の一部を紹介する講演会。
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