CIQuS 量子ビーム連携研究センター

KEK

センター長あいさつ

量子ビーム連携研究センター(CIQuS)において、マルチプローブ利用は最も重要なキーワードの一つですが、私が初めてマルチプローブ利用研究を行ったのはCIQuSの前身である構造物性研究センター(CMRC)に、2009年の発足当初から加わったことがきっかけでした。それまではもっぱら放射光、特に軟X線を使った研究をしていましたが、2012年3月まだ随所に震災の爪痕が残るJ-PARC MLFで、初めて偏極中性子反射率の実験を行いました。利用したビームラインはBL17 (SHARAKU)ですが、我々はBL17の最初のユーザーであるとともに、物構研放射光のスタッフがMLFをユーザーとして利用する初めてのケースとのことで、二転三転する方針に翻弄されつつ、J-PARC内の各所を駆け回って入域手続き(スタンプラリー)を行ったのを懐かしく思い出します。なるほどこれが、音にきく「マルチプローブの壁」かと、身をもって感じたものです。もちろん手続きは1日では終わりませんでしたが、どうやら我々の存在はJ-PARC中で噂になっていたらしく、行く先々のチェックポイントで、皆さんに温かく迎えていただきました。ビームラインスタッフの方々にも大いに助けていただいて1年後には無事に結果を出すことができ、その後もヘビーユーザーとして何度も利用しています。

2012年の私のケースはさすがに特殊ですが、それから10年近くが経過した今でも「マルチプローブの壁」は、残念ながら間違いなく存在しています。4つのプローブを有する物構研のスタッフでもそうなのですから、いわんや大学等のユーザーの方々をや、でしょう。一度この壁を越えてしまえば、その先には素晴らしいマルチプローブ利用研究の世界が広がっていて、私を含む一部の研究者はその恩恵を大いに享受しているのですが、多くの研究者にとっては、その壁を越えるどころか近づくことさえ難しいのが現状と言えます。CIQuSの最大の使命の一つは、この壁をできるかぎり低くし、物構研内外の研究者がその壁を越える手助けをすることだと考えています。そのためにCIQuSでは、あるプローブで実験をしているユーザーの実験の中から、マルチプローブ利用が有効なケースを「発掘」してマルチプローブ利用を促す「発掘型共同利用」を一つの柱としています。単に他のプローブを紹介するだけではなく、ユーザーとセンターのスタッフが協働してマルチプローブ利用を進めていくことを目指す挑戦的な取り組みです。もう一つの柱は、物構研のスタッフが主体的に研究テーマを設定し、内外の研究者と連携して課題を解決する「テーマ設定型共同研究」です。これらの取り組みを通じて、国際的にもユニークなマルチプローブ連携研究を推進するとともに、マルチプローブ利用研究を担う若手研究者を輩出していきたいと考えています。

「量子ビーム連携研究センター」に含まれている「連携」というキーワードには、量子ビーム間の連携(マルチプローブ利用)と様々な組織の研究者間の連携(産学官連携・国際連携)という二つの意味が込められています。これらの二つの連携を通じて、魅力的なサイエンスをうみだす礎となるべく、センターの立ち上げに邁進してまいります。

2020年4月1日
量子ビーム連携研究センター長 雨宮 健太