今回の物理学会は、富山大学にて9月21日―24日に開催され、台風15号の影響もありなんとなくざわざわとしておりましたが、恒例の構造物性インフォーマルミーティングも物理学会2日目に開催致しました。まず、構造物性UGの世話人である野田氏(東北大)に挨拶頂き、このグループの成り立ちや現在の構造物性UGの性格について、いつも通り説明がなされました。
まず最初は、村上氏(KEK)より構造物性研究センターの報告をして頂きました。センターの中で立ち上がっている研究プロジェクトについて説明され、これまでのプロジェクトに加え新たなプロジェクトが複数立ち上がりつつあることが、報告されました。1つは、7月に放射光のグループに加わった組頭氏のプロジェクトで、薄膜を利用した量子閉じ込めのこれまでの研究を発展させるとのことでした。さらに、センター内での研究の議論が盛り上がることが期待できそうです。 続いて、ここ数年PFの構造物性グループが力を入れて立ち上げてきている、軟X線領域での回折実験の状況について説明されました。最後に、昨年より始まった中尾(朗)氏(CROSS)のS課題の研究内容について紹介されました。
続いて、J-PARCからの報告ということで、瀬戸氏(KEK)より、J-PARC全体と中性子関連の状況の報告がなされました。3月の物理学会が、地震の影響で中止になり、その後の最初のインフォーマルミーティングであり、東海村のJ-PARC関連施設の被災状況について紹介されました。KEKのスタッフには、見慣れた被災状況でありましたが初めてご覧になる方もおられ、状況の深刻さに驚かれている方もおりました。さらに、5月の段階で決定された復興スケジュールと、現在その計画に従って進められている状況が報告されました。例えば、施設の外側の道路、He配管系が、油圧ジャッキで高さを調整している様子や、施設内部の遮蔽体の並べ直しが進められていることが報告されました。また、地震の影響による今年度のビームタイムの減少に対応し、来年度予定されていた夏の長期シャットダウンをキャンセルする方向だそうです。ビームライン側は、共用法で今年度建設予定だったものは、ほぼ予定通り立ち上げ予定であるが、SENJYUだけは、多少遅れる見込みであること、さらにKENSとして、京大との共同のものと、東北大と共同での装置の建設も進められていることが紹介された。
この中の東北大学計画:J-PARC偏極度解析中性子分光器については、続けて大山氏(東北大)より説明頂きました。この装置の目的は、電荷・軌道・スピン自由度の結合した状態を非弾性散乱で実験ことで強相関系の物理の解明を目指すことであり、装置のオプションとしてパラメータの分離につながる「偏極」を重要視していることが紹介されました。その中で、研究例としてマルチフェロイック系の話が紹介されました。また、世界的にこれまでに立ち上げられてきた非弾性散乱装置は、偏極のオプションがなかったが、現在計画中のものは偏極+非弾性の装置がある状況ですので、日本での研究が立ち遅れないように本装置が重要な位置付けとなっていることが指摘されました。現有の非弾性散乱装置と比べると、偏極のオプションがついて1/5の強度で実験が可能であること、さらに特殊なチョッパーを用いて交差相関法と呼ばれる手法を用いるとさらに効率の良い実験が可能であることも紹介頂きました。さらに、本装置の名前は、宮沢賢治の本の中で使われているPOLANO (POLarisation Analysis Neutron SpectrOmeter) としたことが紹介されました。東北地方の震災復興への気持ちを込めた、大変思い入れのある名前で、KEKと共同のもと東北大学を中心に立ち上げられますので、是非ご期待ください。最後に、野田氏(東北大)より、SENJYUの状況が簡単に紹介され、磁場≦7T、温度>100mKでの構造物性的な研究が可能になること、試料サイズとしては0.5mm角が実験ができることが述べられました。
次に、J-PARC ミュオンの状況として門野氏(KEK)に「超低速ミュオンビームラインの概要と目指すサイエンス」ということで紹介頂きました。 まず、新学術領域の研究課題が採択されたことにより、超低速ミュオンビームラインの建設が可能になったこと、超低速ミュオンの定義やその生成方法についての説明されました。続いて、具体的な現有ビームラインと本ビームラインの建設予定について説明頂きました。さらに、本ビームラインの特徴が低いエネルギーのミュオンが利用可能な点であり、深さ分解した表面・界面の研究がメインのターゲットとなり、「超低速ミュオン顕微鏡」の名のもと強力に推進することが説明された。さらに、輝度の高いミュオンビームを作る次なる計画も説明されました。ビームラインでの実験は、KEKのS課題のもと、専有実験として行われますので、以下の研究班の構成を参考に、直接班長と相談して頂くのが良いということです。
A01 超低速ミュオン顕微鏡 極微μSR (三宅氏 班長)
微小試料への研究展開、 アクチノイド、分子性結晶。
A02 スピン伝導と反応 (鳥飼氏班長)
触媒化学反応、電気化学を担うイオン伝導、スピン伝導の直接観測。
A03 表面ーバルク境界のヘテロ電子構造 (門野氏班長)
強相関系の表面・界面のヘテロ電子構造。
A04 ミュオンのg-2と超低速ミュオンの尖鋭化 (素核グループ)
また、もう一台、汎用の共用装置をという話もあったが、今回は超低速ミュオンビームラインを建設することでピークを出して、その結果を受けて汎用共用装置の建設も考えていることや、すでにあるビームポートの有効利用としてビーム振り分けをすることで共用装置を2台体制とすることが紹介されました。
JRR3 の状況の報告も簡単に野田氏(東北大)よりして頂きました。J-PARCと同様に建物本体は丈夫に作られているが、外部が地盤沈下、液状化の影響がありますが、大きな被害はなく、来年2月に復帰、共同利用実験の運転が開始される予定と報告してもらいました。
次に、PFの近況として中尾氏(KEK)より報告がありました。最初に、PFの被災状況について簡単に紹介し、その後加速器・光源グループの復興へ向けた多大なる努力によって5月中旬には試験ビームをビームライン側に導くことが可能になったこと、さらにその試験ビームを用いビームライン側も復旧を進めることができたことが報告された。続いて構造物性グループのビームラインの状況を簡単に説明するとともに、この4月にこれまでビームラインのお世話をして頂いてきた中尾朗子氏がCROSSの方へ移動となったこと、この7月に熊井玲児氏が産総研より教授として着任されたことを紹介されました。また、この2年ほど力を入れている軟X領域での回折実験装置の状況が報告されまして、超伝導磁石搭載可能な2軸回折計が完成し、この秋に立ち上げ実験を行うこと、超伝導磁石は今年度内に納入され、来年度立ち上げし、磁場中軟X線回折実験が可能となることが報告されました。スカーミオン格子の観測などを目指して建設された軟X線小角散乱実験装置は、夏前の試験ビームを用いての立ち上げ試験が行われており、秋以降の結果が期待されております。
続けて、河田氏(KEK)より、PFの将来計画について紹介頂きました。特に、今年度よりERL 3GeV計画として、強く推進していること、そのための研究会などを数多く開催していることが紹介されました。また、ERLの実証機として建設しているc-ERLの建設も着々と進んでいることも紹介されました。
予定されていたプログラムが終わるころには、インフォーマルミーティング終了時間も過ぎてしまい、早速構造物性インフォーマルミーティング2部会場へ、路面電車、バス、徒歩などで移動しました。前回大阪での第2部は、予約した人数をはるかに超える参加者があったことと、会場が炭焼き屋でケムタイ感じで、この間のインフォーマルミーティングすごかったねぇ...と言われておりましたが、今回はコース料理で上品な感じとなり、前回との比較からか、大変好評で、大いに盛り上がりました。次回は、再び大阪、関西学院大での開催です。 本インフォーマルミーティングは、物理学会実行委員長の水木氏が取り仕切って頂けるとのことです。 楽しみにして頂ければ幸いです。