水と3メチルピリジン(3MP)を混合した溶液は、室温付近で一様で温度上昇により2相に分離する。またこれに伴う臨界現象は、溶液系の臨界普遍性である3D-Isingになることが知られていた。我々のグループはこれまでに重水と3MPの系に拮抗的な塩(陽イオンが親水性、陰イオンが疎水性)を加えた時に、塩の溶媒和効果と濃度揺らぎの協調により数百Å程度の周期性を持つCharge Density Wave (CDW)構造が形成されることを示してきた。今回はこの系に塩を加えた時の臨界現象について中性子小角散乱を用いて調べた。その結果、塩濃度の増大に伴って浸透圧縮率に対する臨界指数γと相関距離に対する臨界指数νの双方が増大することが分かった。またその値は2D-Ising系に対する値であるγ=1.75とν=1.00に近づくことも明らかになった。この結果は、CDWの形成により大きな臨界揺らぎを起こす濃度領域が2次元的に広がっている、と言う描像により理解できる。また、拮抗的な塩の代わりにイオン性界面活性剤を加えた場合にも、同様の振る舞いがみられることが分かった。このように溶液系で2次元的な揺らぎを示唆する結果を得たのは本研究が初めてである。本研究の成果は以下の論文により発表された。
K. Sadakane, N. Iguchi, M. Nagao, H. Endo, Y. B. Melnichenko, and H. Seto,
"2D-Ising-like critical behavior in mixtures of water and 3-methylpyridine including
antagonistic salt or ionic surfactant",
Soft Matter, 7, 1334-1340 (2011).