総研大 先端学術院先端学術専攻 物質構造科学コース

ソフトマターグループ

主としてJ-PARC MLFの中性子反射率測定装置(BL16)と中性子スピンエコー測定装置(BL06)を用いて、高分子・コロイド・脂質・生体物質等のソフトマターと呼ばれる物質の構造とダイナミクスを、ナノメートル・ナノ秒の微視的なスケールで研究しています。

受け入れ可能な教員と専門分野

研究内容 氏名 役職 専門分野
中性子とX線を用いたソフトマターの構造とダイナミクスの研究 遠藤 仁 准教授 中性子散乱・ソフトマター物理
山田 悟史 准教授(量子ビーム連携研究センター) ソフトマター物理
青木 裕之 特別教授(クロスアポイントメント/JAEA) 高分子物性
山田 雅子 助教 中性子光学・中性子反射率

主な研究分野

リン脂質膜に水和する水のダイナミクス

生体膜の基本構成物質であるリン脂質膜の親水基の近くに存在している水(水和水)の運動状態を中性子準弾性散乱で測定しました。これにより、水和水には「強結合水」「弱結合水」が存在し、その和は温度とともに変化しない一方で比は変化することが分かりました。また加える塩の種類によって、「強結合水」の割合が変化することも分かりました。

タイヤの内部構造と力学的性質

タイヤの内部はフィラーと高分子からできていて、その構造と運動状態がタイヤの力学的性質を決めています。特にフィラーの周りにどのように高分子が分布しているか、ということが高分子の運動状態を決め、それがタイヤの性能に影響しています。我々は中性子反射率を使って、フィラー界面における高分子の分布の様子を調べています。

ナノスケールの秩序構造と相転移

多くのソフトマターはファン・デル・ワールス力やクーロン力等の相互作用とエントロピー的な効果の競合によって、原子スケールからマクロスケールに至る階層的な秩序構造を持っています。その中で特にナノスケールの構造と秩序化、またそれらのダイナミクスに焦点を絞って研究を進めています。

●両親媒性分子膜の構造とダイナミクス
●イオンの効果による液体の秩序構造

水と油と界面活性剤が作る様々なナノ構造(左) 水と有機溶媒に塩を加えてできるオニオン構造(右)

アメーバのように自発的に運動する油滴

水に界面活性剤を溶かした水溶液の上に脂肪酸を加えた油滴を落とすと、まるでアメーバのように油滴が自発的に運動する様子を見ることができます。そしてこのときの水と油の界面をよく見ると、ゲル状の堅い物質ができてそれが時間的に膨らんだり縮んだりしている様子が見てとれます。我々はX線小角散乱や中性子小角散乱でこのゲルの構造を調べて、界面活性剤が層状に規則的に並んだナノスケールの構造ができていることを明らかにしました。そしてこのような研究を通じて、生命体がどのようなメカニズムで自発的に運動するのか、と言う点に迫ろうとしています。

油滴のアメーバのような自発運動

モデル生体膜の構造形成メカニズム

細胞やその小器官を構成する「生体膜」は5ナノメートル程度の厚さを有するリン脂質の二分子膜(脂質二重膜)にタンパク質などの生体関連物質が埋め込まれた構造をとっていることが知られています。この、生体膜のベースとなるリン脂質は石けんのような両親媒性分子(水に馴染む親水部と油に馴染む疎水部を有する分子)で、水に溶かすと親水部が疎水部を取り囲むよう脂質二重膜のような二分子膜を自発的に形成します。このリン脂質による二分子膜は生体モデル膜として生化学的な研究はもちろん、物理学的なアプローチによるリン脂質二分子膜の形成メカニズム解明に向けた研究にも用いられています。我々のグループではX線や中性子を用いてモデル生体膜のナノ構造を観察し、リン脂質ベシクル(リン脂質膜によって作られたマイクロスケールの袋)の温度変化による構造制御や生体関連物質の添加による変形挙動に関する研究を行っています。

リン脂質ベシクルの構造制御の例

ココアバターの結晶成長メカニズム

チョコレート中に含まれるココアバターはカカオマスや砂糖など味に係わる成分を閉じ込めるカプセルのような役割を果たしており、その物理的特性がチョコレートの食感を支配しています。ただし、その物理的特性を支配するココアバター結晶の種類はI型からVI型まで6種類あると言われており、それぞれ分子のパッキングの仕方が異なることはもちろん、密度や融点といった物理的な特性も変化します。中でも高密度で融点が約33℃のV型結晶はチョコレートに最適で、高いスナップ性と口に含むと溶けていく滑らかな舌触りを示します。そのため、V型の結晶を効率よく作成するための研究が行われており、我々のグループでは中性子線を使ってココアバターの結晶構造を観察し、その結晶構造メカニズムの解明に取り組んでいます。

チョコレートの模式図とココアバターの結晶成長の観察例

中性子とミュオンを用いた摩擦と潤滑の研究

物体と物体の界面で起きる「摩擦」の制御はエコな社会を作るためには極めて重要です。また摩擦と摩耗を減らすための「潤滑」の技術も同じように重要なのですが、しかしそのメカニズムを理解するための基本原理は分からないことが多く、解明が待たれています。そこで我々は物体と物体の間の界面を直接観ることができる中性子反射率法と、分子や分子集団の運動状態を知ることができる中性子準弾性散乱法とミュオンスピン緩和法を用いることによって、摩擦と潤滑を研究する「トライボロジー」に切り込もうとしています。

中性子反射率計を用いた摩擦・潤滑界面の研究

担当実験装置

進行中のプロジェクト

文部科学省・新学術領域研究「水圏機能材料〜環境に調和・応答するマテリアル 構築学の創成

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