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高校生のための素粒子サイエンスキャンプ「オンラインBelle Plus」を開催しました

2020年12月27~29日と2021年1月5日に高校生のための素粒子サイエンスキャンプ「オンラインBelle Plus(ベルプリュス)」をKEKと奈良教育大学の共催で開催し、北海道から沖縄まで、全国から17名の高校生が参加しました。Belle Plusとは、KEKつくばのKEKB加速器を用いたBelle実験(注)で実際に行われてきた最先端の研究活動を、高校生の皆さんに体験してもらうことを目的とした素粒子サイエンスキャンプです。毎年夏にKEKつくばキャンパスにて3泊4日の合宿形式で行われてきましたが、今年度は新型コロナウィルス感染症の影響により例年通りの開催は困難となったため、初のオンライン形式での開催となりました。

オンラインBelle Plusはビデオ会話ツールとチャットコミュニケーションツールを用いて行われました。前半の3日間では現役のBelle/Belle II実験グループの研究者による講義やオンライン施設見学などに加え、3つのコースに分かれた実習がありました。初日は開校式・ガイダンスの後、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の樋口岳雄 准教授による講義「Belle IIが拓く新しい素粒子の世界」から始まりました。講義では、素粒子物理学の基礎から素粒子反応の法則をまとめた標準理論完成の歴史と素粒子物理学の今後の課題点、そしてそれに取り組むBelle II実験の概要・魅力・将来展望などが解説されました。2日目にはKEK広報室・科学コミュニケータの高橋将太さんによるサイエンスカフェも行われ、参加者一同KEKや素粒子に関するクイズと解説を楽しみました。

実験施設見学も施設内部の映像を用いてオンラインで行われました。例年はSuperKEKB加速器のトンネル内部やBelle II測定器が設置されている筑波実験棟を実際に見学しますが、今年度はオンラインの利点を活かし、Belle II測定器の屋上・衝突点付近や制御室での実験中の様子なども見て回りました。

Belle Plusのメインプログラムであるコース別実習にはB-Lab班、ワイヤーチェンバー班、理論班があり、参加者はいずれかの班に分かれて実習に取り組みました。

B-Lab班は、Belle測定器が実際に収集したデータの中から粒子を探索することを目的としています。今回は特に2体に崩壊する粒子に注目し、新粒子探索プロジェクト「B-Lab(ビーラボ)」でも使用されている粒子探索プログラムを生徒自身で作成し、手元のパソコン上で実行して様々な粒子を探索する物理解析を行いました。

理論班は、「ファインマン図(ダイアグラム)」という素粒子の反応過程を表す図を用いて標準理論で予想される素粒子の振る舞いや反応を吟味しながら、Belle実験で観測可能な現象の理論的研究を行いました。

両班とも初日は練習課題に取り組み、2日目以降、B-lab班は理論班へ解析で得た反応が標準理論で検証可能か、理論班はB-lab班へ標準理論から自分達で予想した反応が実験で検証可能か、議論を重ねながら研究を進めました。

ワイヤーチェンバー班は、ワイヤーチェンバー(荷電粒子の飛跡を捕らえる測定器)を用いて宇宙線の降り注ぐ角度を測定することを目的としています。初めにKEKの常駐スタッフがワイヤーチェンバーを解説しながら製作し、それを用いた実験の中継映像を見ながら参加者自身が解析する形で実習を進めました。ワイヤーチェンバーの原理を理解するための準備実験も含めると、行った主な実験は、ワイヤーチェンバーにかける高電圧に対する信号の大きさを測定し、使用するワイヤー径の違いよる特性変化を調べる実験、電子線とX線の違いを測定する実験、3台のワイヤーチェンバーを並べてその角度を変え、チェンバーの角度と30分間に飛来する宇宙線の数の関係を調べる実験の3つです。

最終日となる1月5日には研究成果の発表会が行われました。各班簡潔にまとめられた成果が発表されると参加者からは多くの質問があがり、時間ぎりぎりまで議論が続いていました。

参加者からは「本当に楽しく実験ができました。」、「わかることが増えたと同時に疑問や知りたいこと、挫折しかけたことも学べました。この探究を今度は理解した上でまたKEKの企画に参加できたらと思います。」などといった感想が寄せられました。

初のオンラインBelle Plusを終え、実行委員長の片岡佐知子 特任准教授(奈良教育大学理数教育研究センター)は「このような状況下で中止の選択肢もあり得る中、開催できたことをとても嬉しく思いますし、大きな成果だと感じています。初の試みで課題も見つかりましたが、次に繋がるキャンプになりました。」とコメントしました。

副実行委員長の中山浩幸 助教(KEK 素粒子原子核研究所)は「今回は現地で実際に研究施設を見てもらうことができず残念でしたが、オンラインということで日本中から気軽に参加できるという利点もあったと思います。オンラインではサポートが難しい面もありましたが、高校生の皆さんが頑張ってくれて発表会も良いものになりました。」と4日間を振り返りました。

オンラインBelle Plusの様子は素粒子原子核研究所SNSでもご紹介しています。ぜひ素粒子原子核研究所SNSまたはTwitter、Facebookでハッシュタグ「#オンラインBellePlus」を検索してご覧下さい。

用語解説

注. Belle実験
小林誠・益川敏英両博士の2008年のノーベル物理学賞受賞に貢献した実験。現在はBelle実験のデータ解析も行いつつ、KEKB加速器とBelle実験をアップグレードしたBelle II実験が行われています。

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