Shota

所要時間:約3分

IH-DTL上流に設置された加速器RFQと大谷将士さん (中央)、近藤恭弘さん (右)、北村遼さん (左)

IH-DTL上流に設置された加速器RFQと大谷将士さん (中央)、近藤恭弘さん (右)、北村遼さん (左)

素核研の大谷将士博士研究員らが中心となり、J-PARC g-2/EDM実験のためのミューオン専用加速器の設計を世界で初めて完成。 その研究成果が、4月25日発行のアメリカ物理学会 Physical Review Accelerators and Beams に掲載されました。

J-PARC g-2/EDM実験においてミューオン専用加速器は欠かすことができない開発要素です。 J-PARCセンターなどとの共同研究である本研究成果は、ミューオン専用加速器実現へ向けて大きな一歩だといえます。

今後は、実機の制作に取り掛かり、すでに準備の整っているIH-DTL上流の加速器RFQと今年度予定されている新設ミューオンビームラインにて、実証試験を行う予定です。


以下で、ミューオン加速器と今回の設計のポイントに関して簡単に解説します。

ミューオン専用加速器とその他の加速器

加速器とは荷電粒子を、電気の力でほぼ光速に加速する実験装置のことです。 その歴史は1930年代にはじまり、以降、素粒子・原子核物理学の発展と歩みをともにしてきました。

現在、世界各地の素粒子実験施設で、電子や陽子などの粒子の加速はすでに行われており、最近では重イオンを加速させる医療用加速器も開発されています。 しかし、素粒子のひとつであるミューオンの加速はいまだ実現できていません。

ミューオン加速の難しいところ

ミューオン加速を難しくしている大きな要因は、ミューオンに寿命があることです。 電子や陽子と異なり、ミューオンは約2マイクロ秒で崩壊してしまいます。

ミューオンの寿命の時間内で、すみやかに加速しなければならないため、加速空洞はコンパクトにする必要があり、また、より低コストな技術で作ることも大事になってきます。 そのため、IH-DTLとAPFと呼ばれる技術を組み合わせた形の加速器設計を採用しました。

加速空洞の仕組みとIH-DTL

加速空洞とは粒子を加速するための装置のことです。 IH-DTL (Interdigital H-mode Drift Tube Linac の頭字語) は、その一種で、端的にいうとすみやかな加速ができる加速空洞です。

その加速原理は、1960年代に提案されていました。 しかし、設計には電場分布の3次元シミュレーションが必要であり、コンピュータのマシンパワー不足という理由でこれまで実現できていませんでした。

IH-DTL空洞内の加速電場分布の3次元シミュレーションの断面図<br>ミューオンはこの空洞の左から右へと加速される。図中の黒い枠の部分に電極がミューオン加速に最適化された間隔で並んでいて、電極付近の色はその箇所での電場の向きと大きさを表している。図の点滅は交流電場を与えていることを示している。

IH-DTL空洞内の加速電場分布の3次元シミュレーションの断面図<br>ミューオンはこの空洞の左から右へと加速される。図中の黒い枠の部分に電極がミューオン加速に最適化された間隔で並んでいて、電極付近の色はその箇所での電場の向きと大きさを表している。図の点滅は交流電場を与えていることを示している。

ビーム収束の必要性とAPF

APF (Alternative Phase Focusing の頭字語) は加速したビームを収束させる方法です。

通常の加速器では、永久磁石や電磁石で作った磁場を使ってビームを収束させています。 しかし、これだと磁場を作るためのパーツが増えるため、加速器が大きくなってしまいます。

APFは、磁場ではなく電場だけを使って収束させる方法なので、パーツ数を減らすことができ、よりコンパクトな設計が可能になりました。

今後の展望

J-PARC g-2/EDM実験にとって、ミューオン専用加速器は欠かすことができない開発要素です。 今後は、実機の制作に取り掛かり、すでに準備の整っているIH-DTL上流の加速器RFQと今年度予定されている新設ミューオンビームラインにて、実証試験を行う予定です。

論文

本研究は基盤研究(B) 15H03666の助成を受けたものです。