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強度を弱くしたビームで調整している期間中に、ATLAS検出器で得られた陽子と陽子が衝突したイベント図/© CERN/ATLAS

強度を弱くしたビームで調整している期間中に、ATLAS検出器で得られた陽子と陽子が衝突したイベント図/© CERN/ATLAS

2016年5月9日(月)、スイス・ジュネーブのCERNにある大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を使った実験が、2016年の物理データ収集を再開しました。 今後得られるデータにより、根源的な物理の理解が深まることが期待されます。

世界で最もパワフルな加速器は、3月25日(金)に冬の定期休みを終えて再稼働を始めました。 LHC加速器および実験は、強度の弱いビームを使った陽子衝突試験を行い最終調整、大量のデータ収集の準備を整えました。

今後は、ビームの強度を上げ、より多くの陽子衝突を生成する予定です。

「LHCは極めて順調に作動している」と、フレデリック・ボードゥリィCERN加速器技術部門長は話します。 「2015年に比べて約6倍のデータを供給するという計画が物語っているように、2016年の目標は野心的だ」

「LHCの運転再開はいつも感激的です」と、ファビオラ・ジアノッティCERN所長は話します。 「2016年のデータで、ヒッグスをはじめ既知の粒子と現象についてより精密な測定ができるでしょう。 また、測定器の性能向上による『新しい物理』の発見も期待しています」

LHCが重心系衝突エネルギー13TeVで稼働するのは今年で2年目です。 Run2の第1期である2015年に、LHCのオペレーターは、ビーム強度を徐々に上げていくことで、これまでにない高いエネルギーでの加速器の扱い方を学びました。

ビームはバンチと呼ばれる陽子の塊が連なったもので、それぞれのバンチには約1000億個の陽子が入っています。 周長27kmのLHC加速器リングの中を、ビームがそれぞれ反対向きにほぼ光速で周回し、各実験装置の中心部で交差します。 昨年、リング一周あたりのバンチ数を最大で2244バンチにまで増やし、バンチとバンチの間隔を25ナノ秒に縮めることを達成。 これらにより、ATLASとCMS実験グループは、400兆回の陽子・陽子衝突を使ったデータ解析を行うことができました。 2016年には、加速器中を周回する陽子の数をさらに増やし、衝突点でビームの大きさを細く絞ることで、1秒間に約10億回の陽子・陽子衝突を可能にします。

「2015年に、前例のないエネルギーで全く新しい景色へのドアを開いた。 今度は新しい領域に踏み込み、その景色を深く探査することを始める」と、エックハルト・エルゼンCERN研究計算機部門長は話します。

標準模型は、素粒子とそれらの間に働く力をとてもうまく説明する理論です。 ヒッグス粒子は、標準模型というパズルの最後の1ピースでした。 2012年にヒッグス粒子の発見を発表したATLASとCMS共同実験グループは、2016年にはより詳細なヒッグス粒子の研究を行います。

しかし、この理論でも答えられない謎が幾つかあります。 たとえば、なぜ自然界には反物質より物質が多いのか、あるいは、この宇宙の1/4を占めている暗黒物質とは何なのか、などです。 2016年に収集する予定のLHCの莫大なデータにより、物理学者はこれらや他の多くの謎に挑み、標準模型を精査し、もしかすると標準模型のその先の物理に対する手がかりを見つけることができるかもしません。

陽子を使った物理データ収集は6ヶ月間続きます。 その後、加速器は4週間の陽子・鉛イオン衝突のための準備を行います。 4つの大きな実験グループである、ALICE、ATLAS、CMS、LHCbは、2016年のデータ収集と解析を開始しました。 それらの幅広い物理プログラムと補完的なのが、TOTEM、LHCf、MoEDALの3つの小さな実験で、陽子衝突のある特定の特徴に対してよりフォーカスした研究を行います。

この記事はCERNのプレスリリースおよびATLAS日本グループによる和訳を参照しています。 そちらも合わせてご覧ください。

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