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図1:中性子星合体のグラフィック画像(想像図)。/ Credit: University of Warwick/Mark Garlick (ESO image)

図1:中性子星合体のグラフィック画像(想像図)。/ Credit: University of Warwick/Mark Garlick (ESO image)

概要

中性子星同士の連星が合体すると、金やプラチナなどの重元素が作られてキロノヴァ(注)と呼ばれる増光が起こります。高エネルギー加速器研究機構の久徳浩太郎助教、東北大学 大学院理学研究科の田中雅臣准教授、同じく学際科学フロンティア研究所の當真賢二准教授らの研究グループは、キロノヴァからの光の偏りの精密な数値シミュレーションを行いました。その結果、2017年8月に観測されたキロノヴァAT 2017gfoの小さな光の偏りが、重元素からの光として自然に説明できることが明らかになりました。さらに、もしも非常に重い元素から軽い元素まで多様な重元素が作られていれば、今後新たなキロノヴァを別方向から見た場合に、より大きな光の偏りが検出されうることも明らかになりました。連星中性子星の合体で作られる重元素の種類を特定するために、光の偏りの観測が有力な道具となることが期待されます。

研究内容

金やプラチナなどの重い元素は、2つの中性子星が合体したときに作られることが明らかになってきています。中性子星とは主に中性子からなる天体で、それが組になった連星は重力波を放つことで合体します。合体の際には中性子星の一部が吹き飛ばされて重元素になり、さらに「キロノヴァ」として輝きます。2017年8月に、連星中性子星合体からの重力波GW170817に引き続いて観測されたキロノヴァAT 2017gfoは、この説を強く支持しており、この同時観測は世界中で大きなニュースになりました(図1)。

AT 2017gfoの観測では、どのような元素がどれほど作られたかまでは突き止められませんでしたが、中性子星から飛ばされた物質には、赤く光る部分と青く光る部分との2種類があることが示唆されました。この違いは、その部分で金やプラチナ、ウランなどの非常に重い重元素までが作られているか、それとも銀やキセノンなどの軽い重元素しか作られていないかを反映していると推測されています。これら2つの成分がどれほど作られているかを突き止めることは、中性子星が合体する過程を詳細に理解し、またそれが本当に宇宙における重元素の起源として主要なものかどうかを明らかにするための重要な課題です。そのための有力な手段の一つが、光の振動方向の偏りを観測することであり、AT 2017gfoでは偏りが小さかったことが突き止められています(参考: http://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20171023-9360.html )。

高エネルギー加速器研究機構の久徳浩太郎助教、東北大学大学院理学研究科の田中雅臣准教授、同じく学際科学フロンティア研究所の當真賢二准教授は、スウェーデン・ストックホルム大学のMattia Bulla、イタリア国立天文台のStefano Covinoらとの研究チームにより、キロノヴァからの光の偏りの精密な数値シミュレーションを世界で初めて行いました。その結果、AT 2017gfoで検出できなかった程度に小さな光の偏りは、重力波の観測から示唆されるように中性子星の合体をその極方向から見ているとすれば、重元素からの光として自然に解釈できることが確かめられました。

図2:キロノヴァに伴う偏光の模式図。非常に重い重元素(赤)からの光は偏らない一方、比較的軽い重元素(青)からの光は偏りを持つが、全体が青いとその偏りも全方向で平均されて消えてしまう。軽い重元素からの光の一部だけが非常に重い重元素に隠されることで、隠され方に応じた光の偏りが観測可能になる。/ Credit: M. Bulla, https://astronomycommunity.nature.com/channels/1490-behind-the-paper/posts/39387-shedding-light-on-the-geometry-of-kilonovae

図2:キロノヴァに伴う偏光の模式図。非常に重い重元素(赤)からの光は偏らない一方、比較的軽い重元素(青)からの光は偏りを持つが、全体が青いとその偏りも全方向で平均されて消えてしまう。軽い重元素からの光の一部だけが非常に重い重元素に隠されることで、隠され方に応じた光の偏りが観測可能になる。/ Credit: M. Bulla, https://astronomycommunity.nature.com/channels/1490-behind-the-paper/posts/39387-shedding-light-on-the-geometry-of-kilonovae

さらにこの研究では、もし連星合体を赤道方向から見ていれば、1%程度の大きな光の偏りが見られたかもしれないことが明らかになりました。キロノヴァが大きな光の偏りを示すことは、非常に重い重元素からなる部分と軽い重元素からなる部分との両者があって初めて可能になる現象で(図2)、重元素の種類を知るために利用できます。今後、新たな連星中性子星合体からのキロノヴァが観測され、大きな光の偏りが検出されれば、非常に重い元素から軽い元素まで様々な重元素が作られた証拠が得られると期待できます。

図3:重い元素が作られる過程を説明するKEK理論センターの久徳助教。/KEK IPNS

図3:重い元素が作られる過程を説明するKEK理論センターの久徳助教。/KEK IPNS


関連リンク

発表雑誌

図2の引用サイト

用語説明

(注) キロノヴァ

中性子星同士が合体した後に起こる突発的な増光現象です。超新星爆発(スーパーノヴァ)と似ていますが、爆風として飛ぶ物質の速度がより速いこと、さらに鉄よりも重いr過程元素でできていることにより、ユニークな特徴を示します。具体的には、10日程度の短い間、主に可視光線の赤い側から赤外線にかけて輝きます。これまでキロノヴァが起こることは理論でのみ予想されていましたが、2017年8月、重力波イベントGW170817に引き続いて実際に観測され、AT 2017gfoという名前が付けられました。

問い合わせ先

高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所
助教 久徳浩太郎(きゅうとくこうたろう)
電話 029-879-6090
メールアドレス kyutoku[at]post.kek.jp
*[at]を@に置き換えてください