H.Tada

所要時間:約5分

宮武 宇也教授(左)と和田 道治教授(右)。 /<i class='fa fa-copyright' aria-hidden='true'></i> KEK IPNS

宮武 宇也教授(左)と和田 道治教授(右)。 / KEK IPNS

2019年10月1日より、KEK 和光原子核科学センター(WNSC)のセンター長が初代センター長の宮武 宇也教授から和田 道治教授へ交代しました。和光原子核科学センターは埼玉県和光市の理化学研究所内にKEKが設置したセンターで、理化学研究所RIビームファクトリー(RIBF)という加速器施設で原子核研究を行なっています。

原子核物理学には現在大きく分けて4つの課題があると言われています。
① 究極の原子核モデルを描くこと
理論的に存在しうる原子核は1万種類以上あるとされており、実験的にも3000種類程度確認されていますが、個々の原子核の詳細な特性はごく一部の原子核しかわかっていません。基本原理から全ての原子核のあらゆる特性を記述できる理論モデルの構築は遥かなる夢です。先ずは個々の原子核の特性を網羅的に知ることから始めなければなりません。
② 重元素の起源の解明
鉄までの元素は恒星における核融合反応で生成されたことは解明されていますが、より重い元素、とりわけ白金やウランについては超新星爆発や中性子星合体のような爆発的天体現象によって生成されたと考えられています。ところが、詳細は解明されていません。この現象に関わる短寿命原子核の特性を網羅的に調べることが解明の鍵になります。
③ 「安定の島」発見
これまでに発見されている超重元素(注1)の遥か遠くに、「安定の島」と呼ばれるより安定した原子核の領域があると予測されています。しかし、その島へ到達するための方法、到達できたことを確認する方法もまだわかっていません。
そして④これらの基礎研究を社会へ応用することも重要な任務です。

理論予想も含めた原子核の一覧表である核図表。核図表では、陽子数を縦軸に、中性子数を横軸にして原子核を並べます。「安定の島」と呼ばれる領域はこの核図表の右上、つまり陽子数も中性子数も大きく重い領域にあると予測されています(JAEA小浦氏提供)。

理論予想も含めた原子核の一覧表である核図表。核図表では、陽子数を縦軸に、中性子数を横軸にして原子核を並べます。「安定の島」と呼ばれる領域はこの核図表の右上、つまり陽子数も中性子数も大きく重い領域にあると予測されています(JAEA小浦氏提供)。

これらの課題を解決するためには、関連する原子核を生成・分離してその寿命や質量などの性質を網羅的に測定する必要があります。和光原子核科学センターでは、RIBF施設に設置した実験装置を用いて短寿命核(注2)の構造や質量を調べています。例えば、元素選択型質量分離装置(KEK Isotope Separation System : KISS)は、多核子移行反応という質量数195近傍の中性子過剰な短寿命核の生成に適した反応を用いて短寿命核を生成し、レーザーを用いて元素選択的に分離する装置です。KISS装置の末端に設置した測定装置で選出された短寿命核の寿命や崩壊の様子を測定します。すでに幾つもの共同利用研究に供しています。

KISSの概略図(WNSC webサイト(http://research.kek.jp/group/wnsc/facilities_and_devices/kiss.html)より引用)

KISSの概略図(WNSC webサイト(http://research.kek.jp/group/wnsc/facilities_and_devices/kiss.html)より引用)

2019年からは、理化学研究所仁科加速器科学研究センターと共同で、低速RIビーム生成装置(SLOWRI)と多重反射型飛行時間測定式質量分光器(MRTOF)の2つの装置を新たに開発・運用しています。

SLOWRIは、RIBFの主力施設であるBigRIPSという非常に広範囲の高エネルギー短寿命核ビームを生成する装置に付随する装置で、高速ビームを減速・冷却して精密分光研究に適した高純度の低エネルギービームやイオントラップ中に静止した短寿命核を提供します。 MRTOFは、10ミリ秒程度の短い時間で質量を100万分の一以上の高精度で測定できる装置です。KISSやSLOWRIでの実験に先駆けて、GARISというニホニウム発見に使われた装置に設置し、メンデレビウム同位体を始めとする80種類の原子核の質量測定を実施しており、超重元素の質量測定実験が進行しています。

SLOWRIに設置するMRTOF装置組み立て作業の様子。

SLOWRIに設置するMRTOF装置組み立て作業の様子。

宮武教授は初代センター長を務めたこれまでを振り返り、「我々KEKのグループでは、低エネルギーの短寿命原子核を使って、原子核の構造や反応機構などの基礎研究を行っていますが、東京大学原子核研究所時代(注3)から長年にわたって、この分野の展開・発展に寄与し続けて来られたのは非常に喜ばしいことでした。」と述べました。また、「5年前から理化学研究所に移り、研究基盤を拡大しているので、今後もWNSCは短寿命核研究での世界の先駆けとして走り続けることができるのではないかと期待しています。」と今後に期待を寄せていました。

新たにセンター長に就任した和田教授は、「前任者らの努力によってセンターは始まりました。運営面では、予算的にも人員的にも持続可能な研究環境を実現したいです。研究面では、KISSに加えてSLOWRIを理化学研究所と共同で開発・運用する事になったので、その2つの施設とMRTOFを加えた3つの柱を充実させて、短寿命原子核の網羅的な精密測定を実施します。原子核物理学が抱えている4つの課題解決に取り組みたいです。」と目標を語っていました。


用語解説

注1:超重元素
自然界に存在する原子番号Zが最大の元素(ウラン、Z=82)よりも遥かにに原子番号が大きい(Z>103)元素。日本で発見されたニホニウム(Z=113)など、Z=118番まで発見されていますが、いずれも非常に不安定で短寿命です。

注2:短寿命核
短時間で自然に崩壊して別の原子核に変わる原子核。

注3:高エネルギー加速器研究機構という現在の組織になる前の1955年に東京大学原子核研究所が設立されました。その後の1997年に、同研究所と高エネルギー物理学研究所、東京大学中間子科学研究センターが統合して現在の「高エネルギー加速器研究機構(KEK)」になりました。


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