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図1. 左から順に三部勉 准教授、石川明正 准教授、遠藤基 准教授。 /<i class='fa fa-copyright' aria-hidden='true'></i> KEK IPNS

図1. 左から順に三部勉 准教授、石川明正 准教授、遠藤基 准教授。 / KEK IPNS

4月7日午前10時(米国中部標準時)、アメリカのフェルミ国立加速器研究所(FNAL)から、素粒子物理学の分野で非常に重要となる実験結果が発表されました。ミューオン(注1)が持つ磁石の強さ(磁力)のうち、量子効果に起因するものをg-2(異常磁気能率)と呼びますが、ミューオンのg-2が、高精度で予想された標準理論の理論値よりも誤差の4.2倍大きい値を持つ、すなわち理論予想からずれていることがほぼ確定的という発表です。この結果が何を意味し、どのような発見に繋がるのか、そしてKEKのミューオンg-2研究について、実験と理論の研究者に熱く語ってもらいました。

お話を聞いたのはKEK素粒子原子核研究所の3名の研究者です。実験分野からは「ミューオンg-2/EDM実験」代表の三部勉 准教授、Belle II実験でのクォークとレプトン(注1)の物理解析に携わる石川明正 准教授、理論分野からは素粒子現象論の専門家である遠藤基 准教授です(図1)。

−今回のFNALの実験結果から、素粒子の標準理論に含まれない新しい粒子の存在が期待されると聞きました。はじめに、標準理論とはどのような理論ですか?そしてそのような新粒子が見つかると一体何がすごいのでしょうか?

◆遠藤准教授 標準理論とは現代の素粒子物理学の基本的な枠組みのことです。2012年にヒッグス粒子が発見されて最後のピースがはまったことで、その正しさが証明されました。これまでに行われてきた素粒子実験の結果をとてもよく説明することができる理論であり、「20世紀の物理学の到達点」とも言われています。

しかし、標準理論が究極理論であるかというと、そうではないことがわかっています。素粒子物理学や初期宇宙物理学にはわかっていないことがたくさんあるため、もっとエネルギーが高いところ(つまりミクロなスケール)には、標準理論を超えた未知の基礎法則・理論があると考えられています。この理論の解明こそが現代の素粒子物理学の最重要課題です。

それでは、標準理論に含まれない新粒子が見つかると何がすごいのかというと、標準理論を超えた基礎法則・理論の確実な証拠になる点です。今回の新しい実験結果によって、素粒子物理学や初期宇宙物理学の未解決の謎を解く強力な手掛かりを手に入れたのではないかと期待されています。

−では、今回のFNALの実験結果はどのようなものなのですか?また、その結果から何が言えるのですか?

●三部准教授 ミューオンのg-2はその測定の難しさもあり、今回の結果は、実に20年前の米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)で行われた測定以来の新しい結果となります。g-2の値は中間状態に現れる様々な量子状態によって決定されます。標準理論ではその値を高精度で予測することができます。

20年前の実験結果は標準理論の予想よりも誤差の3.7倍大きく、標準理論に含まれない新しい粒子や相互作用によるものではないかと考えられてきました。そして今回、FNALで行われた新しい実験により、g-2の値が先行実験と矛盾しないことがわかりました。FNALの実験結果から、ミューオンのg-2は理論予想よりも誤差の4.2倍大きい値を持つことになり、理論予測とのズレがより確定的になりました(まだ確定ではありません)。

ちなみに、BNLの実験には日本人研究者・日本企業の貢献がありました。ビーム入射に用いる特殊な超伝導磁石やビーム分布測定器の開発、蓄積磁石に用いられている純度の高い鉄の供給などは、当機構の山本明 名誉教授を初めとする日本人研究者や日本企業の貢献によるものです。これらは今回のFNALの実験でも用いられています。

ただ、これで全ての決着がついたわけではありません。まず、理論値とのズレの原因がどこから来ているのかまだわかっていません。論文が発表されてからわずか1日後の時点で、この結果を議論する新しい論文がおよそ70本投稿されました。また、理論予想値と実験値のズレの相対的な大きさが100万分の2と僅かなので、本当に正しく測定ができているのか、他の実験で確かめる必要があります。KEKでは、大強度陽子加速器施設(J-PARC)の加速器を用いて、ミューオンg-2の精密測定を目指す国際共同実験「ミューオンg-2/EDM実験」の開始に向けて準備を進めています(図2)。

図2. J-PARC物質・生命科学実験施設に建設中のビームライン、ミューオンHライン(遮蔽体が開いていたときに撮影)。手前がビームライン上流です。(©️J-PARC)

図2. J-PARC物質・生命科学実験施設に建設中のビームライン、ミューオンHライン(遮蔽体が開いていたときに撮影)。手前がビームライン上流です。(©️J-PARC)

■石川准教授 ミューオンg-2/EDM実験はBNL、FNALの実験とは全く異なる方法を用いるのですよね。

●三部准教授 はい。これまでの実験ではミューオンビームが大きく拡がっていることが実験精度を制限していました。ミューオンビームはパイ中間子と呼ばれる粒子が壊れて生じるミューオンを集めてビームとするのですが、この方法だとどうしても拡がったビームになってしまいます。すると、ビームの一部が蛇行して装置の壁にぶつかり消えてしまいます。これはg-2 を測定する際に誤差の原因になります。J-PARCでは、この制限を払拭するために、加速器で生成されたミューオンを室温まで冷却し(エネルギーを8桁にわたって減少させる)、ミューオン専用の加速器で加速するという新しい技術を用います(図3)。ミューオンを加速する際には、ミューオンが崩壊する前に加速しなければならず、それに最適化した直線型加速器を用います。そうして拡がりを従来の1000分の1に減らしたミューオンビームを生成し、ミューオンg-2とEDM(電気双極子能率)を精密測定します。EDMは中性子(電気的に中性)を非常に小さなスケールで見たとき、内部にもしも電荷の偏りがあれば生じる値です。この新技術はg-2を測定する実験装置を小さくするためでもあるんですよ。

図3. ミューオンg-2/EDM実験装置の概要図。J-PARCの3GeVシンクロトロンで加速された陽子ビームがグラファイト標的に衝突すると、パイ中間子などが生成されます。このパイ中間子がやがて崩壊してミューオンになります。図の中央部で一度ミューオンを止めた(冷却した)後、ミューオン加速器でミューオンを加速させ、図の右端にある超伝導蓄積磁石で蓄積し、崩壊で生じる陽電子(電子の反粒子)を陽電子飛跡検出器で測定します。

図3. ミューオンg-2/EDM実験装置の概要図。J-PARCの3GeVシンクロトロンで加速された陽子ビームがグラファイト標的に衝突すると、パイ中間子などが生成されます。このパイ中間子がやがて崩壊してミューオンになります。図の中央部で一度ミューオンを止めた(冷却した)後、ミューオン加速器でミューオンを加速させ、図の右端にある超伝導蓄積磁石で蓄積し、崩壊で生じる陽電子(電子の反粒子)を陽電子飛跡検出器で測定します。

■石川准教授 このミューオンビームを冷却・加速する技術はKEKが世界で初めて開発した先端技術ですよね。 さらに、g-2/EDMを測定するためにはミューオンから崩壊して出てくる電子をもの凄い位置精度で測定しなくてはならないと聞きました。

●三部准教授 はい、EDMの感度を損なわないためには、崩壊して出てくる陽電子(電子とは質量や寿命などは同じものの、電荷が反対である電子の反粒子)が磁場の向きに対してどの向きに出てくるかが重要になります。このために、測定器は磁場の方向に対して、10-5ラジアン以下の傾きに抑えられていないといけません。測定器の傾きが大きいと偽のEDM信号を生じてしまうので、特に注意して開発を進めています。

−KEKでも世界最先端の技術を詰め込んで、ミューオンg-2の測定を目指しているのですね。しかし、今回のFNALの結果とBNLの結果は大体一致しているようなので、実験結果に再現性があったと考えられないのでしょうか?そうしたらもう他の実験で確かめる必要はないように感じるのですが、なぜKEKでも同じ実験をするのでしょうか?

●三部准教授 まずFNALとBNLの実験のどちらかに間違いがあった場合は再現しないはずですから、今回、BNLと同じ実験手法とはいえ、様々な改善が施されたFNAL実験で、BNL実験の結果を誤差の範囲内で再現したことは、とても重要なことです。一方で、今回結果を発表したFNALの実験は、BNLで行われた実験装置の一部を再利用し、同じ実験手法で測定したものです。もし2つの実験で共通した問題があった場合、両者の比較からこの問題を検証することはできません。そこで、第3の実験をやってしっかり確かめようということになります。

−なるほど、全く独立した手法での検証が重要なのですね。

−では、ミューオンg-2の理論値と観測値のズレの原因がどこから来ているのか、現時点でどこまで分かっているか、もっと詳しく教えて下さい。

◆遠藤准教授 標準理論を超えた未知の理論以外にズレの原因には2つの可能性があります。

まず実験がなにかおかしい可能性。これは三部さんの方が詳しいですが、(素粒子)実験では結果が正しいか、つまり測定や解析になにか見落としがないか(「系統誤差」と呼ばれています)確かめるために非常に注意深く実験を行なっています。BNLやFNALの結果には今のところ見落としはないと思われていますが、本当に正しいか確かめる方法がなければ完全には確定しません。そのため、KEKの実験によって、ミューオンg-2の実験結果の正しさが決まると期待されています。

2つ目に、標準理論の理論計算がおかしい可能性。この可能性は長いこと議論されてきました。ミューオンは量子効果を通じて標準理論の「強い相互作用(注2)」の影響を受けてしまいます。この強い相互作用の理論計算はとても難しく、まだ完全にはわかっていません。これまでは、理論計算のわからない部分を(BNLや今回のFNALとは別の)実験データを使って決めてきました。現在は、いくつかの実験から同じ結果が得られたことで、実験データは正しく、そのためミューオンg-2の標準理論の理論計算は正しいと考えられています。(正確に言えば実験データ同士には少し違いがあるのですが、それについては後ほど石川さんが説明してくれるでしょう。)

ところが最近、海外のあるグループ(Budapest-Marseille-Wuppertalコラボレーション)が、実験データを使う代わりにスパコンを使って大規模な数値計算を行ったところ、これまでとはまったく違う結果が得られてしまいました。ミューオンg-2の観測と標準理論の間にあったズレがなくなってしまったのです。しかしそれでは、これまで標準理論の計算に使われてきた実験データとの整合性がなくなってしまいます。つまり、ミューオンg-2の実験標準理論の理論値を決める実験、そしてスパコンを使った数値計算のどこかにズレがあることがわかっています。

第一の可能性はFNALとKEKの実験、第二の可能性はKEKで行われているBelle II実験によって、これまでよりもずっと高い信頼性をもって検証されます。そして、最後のスパコンを使った数値計算はまだ完全に確立しておらず、多くの研究者は検証が必要だと考えています。なお、この実験データを使って理論値を決める研究を行ったのが萩原薫氏(KEK名誉教授)と野村大輔氏(国際医療福祉大学講師、KEK客員講師)です。

実験がなにかおかしい可能性と標準理論の理論計算がおかしい可能性、この二つの可能性が排除されると未知の理論が見えたことになります。

●三部准教授 実験がおかしい可能性については、遠藤さんからの説明の通りです。なにせ、今見えているズレはg-2の値に対しては50万分の1というわずかなものです。これは例えば、背比べで、髪の毛の太さのさらに20分の1ぐらい身長の差があるというような話です。それぐらい小さい不確かさで理論予測ができ、実験値が得られたところがすごいところです。私のような実験の研究をする立場からすると、じゃあ測定値が本当に正しいのか調べるぞ、という気持ちになるわけです。重要な発見は複数の検証によって初めて確立します。これが今、私たちがJ-PARCで準備を進めているミューオンg-2/EDM実験です。

あと、遠藤さんが指摘した第二の可能性(標準理論の理論計算がおかしい可能性)について、先ほどズレの大きさがわずかだという話をしましたが、実は理論的にはこんなに大きくずれてしまうことは予想外でした。なぜかというと、ズレの大きさが弱い相互作用(注2)による効果と同じ程度だったからです。これまで、ミューオンを含む膨大な素粒子実験のデータに基づいて弱い相互作用の理論が構築されたわけですが、もし弱い相互作用と同じくらいの強さ・質量領域に未知の粒子や力があったとすると、なぜこれまでの素粒子実験のデータにその兆候が現れなかったのかという自然な疑問が生じます。では、標準理論計算に間違いがないか徹底的に調べよう、ということになりました。特に2017年から世界の理論研究者が集い、理論計算のさらなるチェックと精度の向上を行いました。その結果をホワイトペーパー(学術的に興味が集まっている研究分野の状況を総括・分析し、その現状と展望をまとめた論文)にまとめ出版しています。この値が、今回の発表で理論値として用いられている値です。研究グループには遠藤さんが紹介した方々も全員含みます。

さて、さらに計算精度を上げるためには、電子-陽電子衝突実験のデータがもっと必要です。今後、Belle II実験からのデータによってさらに計算精度が上がるのがとても楽しみです。

■石川准教授 遠藤さんや三部さんがお話した標準理論の理論計算の検証について、過去にイタリアのKLOE実験とアメリカのBaBar実験でその計算精度を上げるための測定を行っているのですが、実は先ほど遠藤さんも触れていたように、両者の測定値が少々異なっています(ただ、その違いでBNLとFNALの測定と標準理論における理論計算とのズレを説明することは難しい事も分かっています)。この測定も非常に大変で、系統誤差を押さえる為に両実験は非常に注意深く解析を行っていたと思います。BaBar実験は Belle実験(Belle II実験の前身)のライバルだったのですが、Belle実験では残念ながらデータ取得方式の系統誤差が大きいことが分かっていたため測定が出来ませんでした。Belle II実験ではデータ取得方式を大幅に変更し、その誤差を無視できるほど小さくする事が出来るようになりました。それによりBaBar実験と同程度かそれ以下の誤差で測定し、ミューオンg-2の理論計算の主要な誤差を生み出している計算を検証します。

−ところで、例えばBelle II実験などで行なっているCP対称性(物質・反物質対称性)の破れの研究などと比べて、調べようとしている未解決の謎の性質に違いなどあるのでしょうか?g-2 の結果が本当ならどのような可能性があるのでしょうか?

◆遠藤准教授 未解決の謎は未知の理論で説明できるはずです。そして、これまでに提案されてきた多くの模型では、Belle II実験やミューオンg-2/EDM実験などによって互いに別々の新粒子を探ることができます。そのため、両方の実験をあわせることで未知の模型の全体像をより深く探ることになります。例えば、CP対称性の破れの実験のうち、もっとも有名な結果の一つが、Belle実験やBaBar実験によるB中間子の時間に依存したCP対称性の破れの測定です。将来、この破れをBelle II実験で精密に測定することで、クォーク(注1)同士の結合やクォークとグルーオン(注2)の結合を今までよりもさらにミクロのスケールで見ることができるようになり、それによって、そこに新しい粒子(がCP対称性を破る効果)が存在するかどうかを調べることができます。

一方、今回のミューオンのg-2の測定では、ミューオンと光子の結合をミクロのスケールで見ることで、そこに新しい粒子や相互作用があるかを調べることができます。そして、理論予想よりも誤差の4.2倍大きいズレが確認されたという結果は、ミューオンが標準理論だけではなく未知の粒子と結合していることを示唆しています。その結果、これまでミューオンは電子やタウレプトン(注1)の仲間だと思われてきましたが、なぜミューオンだけがこれほど強く新しい粒子と結合しているのかという興味深い謎が出てきます。それを説明する素粒子模型が、わずか数日で、すでにたくさん提案されています。例えば、今回私たちが発表した論文(arXiv:2104.03217)では、超対称性模型とよばれている素粒子模型によって、これまでに行われてきたすべての実験とは矛盾せずに、今回の結果をうまく説明できることを示しています。他にも、ミューオンと結合する未知の軽い粒子や、レプトン(注1)とクォークの性質を併せ持つレプトクォークと呼ばれる新しい粒子など多数の可能性が提案されています。

■石川准教授 遠藤さんらの発表した論文では、超対称性模型でのパートナー新粒子(スミューオン・ビーノ)が比較的軽い事を予言していますよね。これらは色(注3)を持たないので、色を持ったクォークやグルーオンを衝突させるスイスのLHC実験で観測するのは難しいですが、もし国際リニアコライダー(ILC)が実現したらこれらの新粒子を直接生成・発見できる可能性があり、とても興味深い論文だと思っています。特に、タウレプトンの超対称性パートナー粒子(スタウ)に関しては、ILCの第1期計画で生成・発見が可能かもしれません。J-PARCのミューオンg-2/EDM実験と共にILCが未知の素粒子とその間に働く力の解明をすると面白いなと思っています。

●三部准教授 石川さんが指摘した観点はまさにその通りですね。将来ILCで未知の素粒子を直接生成・発見ができると、とても面白いです。ミューオンを使った研究では、標準理論では起こらないような、ミューオンが電子に転換する過程を調べる実験(J-PARCの COMET実験)や、ミューオンが電子と光に崩壊する過程を探索する実験(スイスのMEG II実験)などが始まろうとしており、ミューオンg-2のズレと密接に関連している可能性があります。これらの実験からどんな発見があるのかもとても楽しみです。

◆遠藤准教授 確かに、今回調べた超対称性模型の検証にはILC実験がかなり有効です。さらに最近、LHC実験でも将来統計が増えると超対称性模型が見えるかもしれないという論文が出ています。この辺りは新しいアイデアによるブレークスルーが期待されています。

●三部准教授 遠藤さんの論文では暗黒物質との関係も議論されていますね。今回の結果は、暗黒物質の研究にどんなインパクトがあるのでしょうか?

◆遠藤准教授 三部さんもご存知だと思いますが、超対称性模型の予言する新しい粒子は、宇宙の暗黒物質の最有力候補として注目されてきました。ミューオンのg-2のズレを説明する代表的な超対称性模型のパラメータ領域では暗黒物質が核子と散乱する散乱断面積が大きくなるため、イタリアで現在建設中のXENONnT実験によってほとんど全ての領域を検証できることがわかりました。そのため、ミューオンg-2の研究によって暗黒物質の正体がつかめるかもしれません。

●三部准教授 ところで、先ほど石川さんからタウレプトンという言葉がでました。タウレプトンはBelle II実験でも大量に生成されるのですよね?タウレプトンを用いた研究でも新発見の可能性はあるのでしょうか?

■石川准教授 Belle II実験はBファクトリーと呼ばれるB中間子をたくさん作る工場なのですが、確かにBelle II実験はタウレプトンもB中間子と同じぐらいの数が作られるタウレプトンファクトリーでもあります。そのため、もしミューオンg-2への新粒子の効果がタウレプトンにも現れるようであれば、Belle II実験でもタウレプトンで新発見があるかもしれません。また、ミューオンg-2/EDM実験、COMET実験、MEG II実験などのミューオンの結果とタウレプトンの結果を合わせることにより、レプトンでの新理論を統一的に検証できると面白いと思います。ミューオンg-2/EDM実験、COMET実験、Belle II実験、ILC実験は日本で行う実験ですし、スイスのMEG II実験も東大の森俊則氏が共同責任者であるので、今後は日本が主導してこの新現象の背後にある物理を解明することが期待されます。

−ミューオン実験とBelle II実験やILC実験などを組み合わせることで様々な発見が期待できるのですね。

−それでは最後に、今後のミューオンg-2研究に向けた意気込み、今後の研究計画と、お互いのグループに期待することなどメッセージをお願いします。また、素核研所長の齊藤直人 教授からも、今後のKEK/J-PARCでのミューオンg-2研究、さらにはフレーバー(クォークやレプトンの種類)物理研究に向けてのコメントをお願いします。

★齊藤所長 今回、ミューオンg-2の結果が世界を沸かせているところですし、B中間子関連では、レプトン普遍性に異常が報告されて話題になっています。なぜ、素粒子には3世代があり、クォーク、ニュートリノ、荷電レプトンそれぞれに全く違う世代混合が現れるのか?実験と理論の連携で強靭な理論となったとはいえ、標準模型のフレーバー構造は、その起源が謎に包まれたままです。私達は、つくばキャンパスのSuperKEKB / Belle II で第3世代を、東海キャンパスのJ-PARCでは第2世代を大量に作り出し、フレーバー構造を徹底的に調べていきます。今後10年で、視界が一気に開けるような新発見が、この日本でなされる可能性は大きいと期待しています。

g-2研究に向けた意気込み、今後の研究計画

●三部准教授 現在世界で唯一、BNL/FNALの結果を独立に検証し得る実験として、2025年の実験開始を目指して、共同研究者と準備を進めていきたいと思います。

■石川准教授 Belle II実験で理論計算に必要な測定を行い、現在のBaBar実験 VS KLOE実験の違いを検証します。そして、理論計算の精度を上げ、g-2のズレの精度を上げ、新現象があるか否かの解明に間接的に貢献したいです。

今後は、ミューオンg-2でのズレが新粒子による効果であった場合に、その新粒子の効果が Belle II実験でのタウレプトンの性質や他の過程に現れないかを研究します。また、将来のILC実験でg-2を説明する新粒子の直接検出がどの程度の精度で出来るかなどのアンテナを張っていきたいと思います。

◆遠藤准教授 ミューオンのg-2を測定することで、ついに未知の素粒子の手がかりを掴んだのかもしれません。これは大発見です。いったいどのような真理が隠されているのか追求していきたいと思います。

お互いのグループへのメッセージ

●三部准教授 今後はより一層、理論研究、Belle II実験との連携を強化して、g-2のズレの問題に終止符を打つとともに、その背景にある物理を明らかにしていきたいです。具体的には、標準理論の計算精度の向上、新物理シナリオの精査を続けていきたいです。また、Belle II実験やSuper KEKB加速器グループとは、検出器や加速器の技術開発において、引き続き協力を仰ぎたいです。

■石川准教授 ミューオンg-2は現在の素粒子物理において新現象を示唆している結果なので、FNALとKEKの両方で新現象を確定する事を期待しています。

また、理論屋さんが提唱する、g-2での新現象を説明する新たな理論模型をBelle II実験や他実験で調べる事により、素粒子宇宙物理の新たな世界に到達出来ると嬉しいですね。

◆遠藤准教授 実験結果をとても楽しみにしています!

★齊藤所長 みなさんの活躍で教科書が書き変わるかもしれません!

−ありがとうございました。KEKでの今後のミューオンg-2研究(さらにはフレーバー研究全体)が楽しみですね。

用語解説

注1. クォークとレプトン、ミューオン、タウレプトン
素粒子は、物質を構成する粒子と力を伝播する粒子、そしてヒッグス粒子に分類できます(図4)。このうち物質を構成する粒子には3つの世代があり、クォークとレプトンのグループに分けられます。ミューオンは第2世代のレプトンの1つで、自然には宇宙線の中に含まれています。また、マイナスの電荷と電子の約200倍の質量を持っています。タウレプトン(タウ粒子)は電子・ミューオンと同じレプトンの仲間ですが、ミューオンよりも質量がさらに17倍重たい素粒子です。

図4. 素粒子の分類図。(©️KEK)

図4. 素粒子の分類図。(©️KEK)

注2. 強い相互作用と弱い相互作用、グルーオン
この世界にはたらく力は重力、電磁気力、強い相互作用(強い力)、そして弱い相互作用(弱い力)の4種類に分類する事ができます。強い相互作用はクォーク同士を結び付けて陽子や中性子、さらには原子核を形成します。この時強い相互作用を媒介するのがグルーオンと呼ばれる素粒子です。
一方、弱い相互作用は原子核のベータ崩壊(電子を出す崩壊反応)や中性子、パイ中間子などの粒子を崩壊させる力です。この力はとても弱いので日常生活で感じることはできません。弱い相互作用を媒介するのはWボソン、Zボソンという素粒子です。

注3. 色(色荷)
クォークとグルーオンには色(色荷)と呼ばれる電荷のような分類が、赤、緑、青の3種類あります。これら3色のクォークが集まると、光の3原色のように白色の状態となる粒子、バリオンが生成されます。バリオンは比較的安定した状態になります。私達が身の回りで目にする色とは関係がなく、クォークが実際に赤色や緑色をしている訳ではありません。一方、ミューオンや光子、そしてそれらの超対称性パートナー(スミューオン・ビーノ)は色を持ちません。


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