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もっとも重い素粒子のトップクォークとヒッグス粒子との相互作用の証拠を見つけたATLAS測定器/<i class='fa fa-copyright' aria-hidden='true'></i> CERN

もっとも重い素粒子のトップクォークとヒッグス粒子との相互作用の証拠を見つけたATLAS測定器/ CERN

KEK、東京大学、ATLAS日本グループは6月7日、フランスとスイスの国境にある欧州合同原子核研究機関 (CERN) の大型ハドロン衝突型加速器 (LHC) で、もっとも重い素粒子であるトップクォーク対とヒッグス粒子が同時に生成される反応を初めて観測した、と発表しました。この反応が起こる確率は、誤差の範囲内で標準理論におけるヒッグス機構の予想と一致しており、トップクォークの質量がヒッグス機構で生成されていることを意味しています。

ヒッグス粒子は2012年、LHCにおけるATLAS、CMS実験で発見され、力を媒介する粒子であるZ粒子、W粒子の質量がヒッグス機構によることが突き止められました。それ以降、物質を構成する粒子の質量もヒッグス機構によるものかどうかが重要な課題となっていましたが、これまでにτ粒子、ボトムクォークはヒッグス機構で生成されていることが判明しています。

LHCで観測されたのは、陽子と陽子の衝突により、ヒッグス粒子が、トップクォークのペアと一緒に生成されるという、極めて稀にしか起きない反応で、これを6.3σの有意度で捉えることに成功しました。この反応が起こる確率は、現在の統計量では標準理論が予測するヒッグス機構の値とよく一致しています。これは、電子の30万倍以上の質量を持ち、素粒子の中でもっとも重いトップクォークも、ヒッグス機構で生成されていることを示唆しており、ヒッグス粒子と反応しにくいタウニュートリノを除く第三世代の素粒子すべての質量生成の仕組みを解明したという意味で、大きなマイルストーンです。

観測結果から再構成され、測定器の中心部で起きたと考えられる素粒子の反応/CERN

観測結果から再構成され、測定器の中心部で起きたと考えられる素粒子の反応/CERN

 

超対称性粒子 (SUSY) など新粒子発見の可能性も秘める

一方、この反応は新粒子探索の可能性も秘めています。量子論の枠内では、素粒子の反応の際に、短時間であれば非常に重い粒子を生成消滅させることが可能です。もし、ヒッグス粒子と反応する、非常に重い未知の粒子が存在すれば、この極稀な反応に介在し、反応確率が標準理論の予想と異なることも考えられます。さらに高統計のデータを使い、予想された値と観測値のズレを見ることで、新粒子の影響を間接的に見ることができる可能性があります。

ATLAS日本グループの共同代表でもある花垣和則教授は「標準理論からのズレにより、非常に重い未知の粒子の存在が確認されれば、超対称性粒子(SUSY)の可能性があります。LHCをグレードアップし、2021年度の運転開始を予定するHL-LHC計画の目的は、SUSYの探索とヒッグス粒子の精密測定で、未知の粒子のエネルギーがわかれば、HL-LHCで狙い撃ちすることも可能です。SUSYが発見されれば、ダークマターの正体がわかり、さらに素粒子物理学の大きな課題である“四つの力の統一”が完成する日が来るかも知れません。物理学者としては非常に楽しみです」と話しています。

6月中旬にアジア初の “The ATLAS Overview Week”

反応を見つけたのは、LHCに設置されたATLAS測定器とCMS測定器で行われた実験です。

どちらも13-14 TeVという高い衝突エネルギーによって新粒子を作り出し、原始宇宙の謎に迫るのが目的で、2010年3月から本格的な実験が始まりました。プロジェクトはCERN加盟国による共同事業ですが、LHCとその検出器の初期投資だけで約5000億円の費用がかかり、日本はオブザーバー国ながらも、建設費用の一部負担だけでなく、加速器、実験装置の製造、データ解析、研究など様々に協力してきました。ATLAS実験には、世界の38カ国、3000人の研究者が参加していますが、日本からも17機関、約150人の研究者・大学院生が参加し、素粒子物理学の標準理論を超える新しい物理の発見を目指しています。

直径22メートル、長さ43メートルの巨大測定器ATLASの構造図/KEK IPNS

直径22メートル、長さ43メートルの巨大測定器ATLASの構造図/KEK IPNS

 

ATLAS実験に参加する、約300人の共同研究者が集まる国際会議 “The ATLAS Overview Week” が6月11-15日、東京都新宿区の早稲田大学国際会議場「井深大記念ホール」で開催され、本研究成果についても議論が行われます。同会議は年3回開催され、ATLAS実験の成果や今後の方針などについて議論するものですが、2回はCERNで、残り1回はヨーロッパやアメリカなどで開かれてきました。日本がアジアで初めての開催と決まったのは、プロジェクトに対する日本の貢献が大きいことも反映しているといわれています。

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