活動報告

所要時間:約3分

KEK素核研の理論センターが、活動報告を行いました。いま話題のトピックとして、10月に発表された中性子星の衝突・合体からの重力波を観測した米国の観測施設「LIGO」と欧州の観測施設「Virgo」の両チームの成果と、世界中の望遠鏡や衛星による電磁波追観測で検出されたショートガンマ線バーストやキロノヴァについて、素粒子物理学とハドロン原子核物理学と密接に関わる宇宙物理学研究の第一人者である久徳浩太郎助教(卓越研究員)が詳しく解説しています。

久徳助教によると、観測された連星中性子星合体の重力波は、より精密な数値相対論に基づく波形で分析すれば、LIGOおよびVirgoにより得られている潮汐変形率への制限をさらに厳しくすることができ、中性子星の質量と合わせて、星を構成する高密度物質の構成を知る手がかりになるということです。

また、久徳助教を含む日本の数値相対論研究グループが、追観測された電磁波の理論解釈を行った結果、合体後の1-3日後に放出された青いスペクトル放射は「中性子が過剰でないため、重過ぎる元素は合成せず、温度が高いうちに青く光ったもの」、5-20日後に放射された赤いスペクトルは「ニュートリノをあまり浴びなかったために中性子過剰なまま放出された物質が、ランタノイドなど重元素を合成して赤く光った」と解釈できたと報告しています。さらに、今回はまだ未検出のニュートリノが同時に見つかれば、将来、ニュートリノの質量に上限を見つけられる可能性にも言及し、「宇宙物理と基礎物理の両方に見返りのある新しいマルチメッセンジャー天文学の対象かも知れない」と展望しています。

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理論センター

ことば

  • 中性子星 主に中性子でできた星。太陽と同程度の重さでも、半径は10キロ程度しかなく、「巨大な原子核」とも表現される。

  • 重力波 光の速さで伝わる、時空の歪みの波。時空のさざ波とも表現され、アインシュタインの一般相対性理論で予言された。LIGOがブラックホールの衝突・合体に伴う重力波が初めて観測し、2017年のノーベル物理学賞を受賞している。

  • ショートガンマ線バースト 2秒以下の短い時間で、1044Wのガンマ線を放出する爆発的な天体現象のことで、中性子性を含む連星の合体が起源と推測されてきた。

  • キロノヴァ 4年前に見つかった新手の天体現象。重元素の合成やその崩壊によって加熱された物質自身の準熱的放射と推測される。

  • 数値相対論 アインシュタイン方程式から数値シミュレーションにより、解を導き出す方法論のこと。

  • 潮汐変形率 月の重力により地球が変形するように、他の天体の重力によってその天体が変形する比率。この場合は、中性子星が伴星の及ぼす潮汐力でどのくらい歪められるかを示す。

  • ランタノイド 原子番号が57のLa(ランタン)から71のLu(ルテチウム)までの15の元素の総称。

  • マルチメッセンジャー天文学 重力波や電磁波など異なる粒子での同時観測から、さまざまな情報を得る天文学のこと。