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last update:05/11/24  

   image KEKBの快進撃(1)    2004.4.22
 
        〜 連続入射で世界最高性能を更新中 〜
 
 
  粒子と反粒子の対称性の破れの謎を探るKEKB加速器とBelle測定器についてはこれまでにも何回かご紹介しました。KEKB加速器の性能は2003年5月に設計値に到達しました。大量に生成されたB中間子の様々な崩壊様式の詳しい観測から、世界が注目する実験データが生まれています。

これらの結果をさらに確実なものとして研究を進めるためには、さらに多くのデータを蓄積する必要があり、日々努力が続けられています。今日は、KEKB加速器で新たに導入した「連続入射方式」についてご説明しましょう。

KEKB性能向上の歴史

KEKB(図1)のような電子と陽電子などを衝突させるタイプの加速器(衝突型加速器)ではルミノシティというパラメータが重要です。ルミノシティについては、以前にもご紹介しましたね。KEKBはB中間子の生産工場「Bファクトリー」とも呼ばれていて、B中間子をできるだけ大量に生成するのが使命なのです。B中間子がたくさんできれば、今、世界が注目しているBelle実験の結果はより確実なものとなります。

2003年5月KEKBのルミノシティは設計値に到達しました。その後もこの値はじわじわと増え続け、現在の記録は設計値より2割高くなっています。KEKBは世界記録を着実に更新し続けているのです。

図4はKEKBのライバルの加速器であるPEP-IIとのルミノシティ競争の比較です。今のところKEKBがPEP-IIを上回っていて、世界記録を保持しているということになります。

B中間子をたくさん作ろうとする時、瞬間のルミノシティの値も大事ですが、加速器が毎日24時間、安定に動き続けて、測定器が順調にデータをとり続けることができることもまた重要です。そこで、ある一定期間、例えば24時間にわたってこのルミノシティを積分した量(積分ルミノシティ)も大切なパラメータで、去年の5月から大きく進歩しています。この性能向上の秘密についてご説明しましょう。

決め手は連続入射

KEKBの性能向上の秘密は今年の初めから採用した「連続入射」という方法にあります。

KEKB加速器では以前は約1時間を1つの周期とした繰り返しの運転をしていました。電子と陽電子のビームを順番に入射した後、しばらくして電流が減少すると再入射するというサイクルの繰り返しです。今年になって、1秒間に10回の割合でビームの入射を繰り返しながら、その間もデータを取り続ける、という連続入射方式を採用しました。

ビーム入射中は、Belle測定器には大きなノイズが生じます。遊園地のスイミングプールなどにある水の滑り台を考えてみてください。滑り台にたくさんの水を一度に流そうとすると、カーブの部分で水が溢れ出します。これと同じことが、加速器のビーム入射のときにも起きるのです。溢れ出したビームは加速器の真空パイプの壁をたたくなどして、たくさんの「ノイズ」となる二次粒子を発生させます。

Belle測定器には光電子増倍管などの高感度の機器がたくさん使われていますが、ビーム入射中に生じるノイズできわめて大きな信号が出てくるために、壊れてしまうことがあります。高価な実験装置が壊れることを予防するためには、入射中にBelle測定器にかかっている高電圧を一時的に下げるなどの対策が必要でした。そのための時間が実験データを取得することができない「ロスタイム」となって、積分ルミノシティを下げる要因の一つとなっていたのです。

また、従来の方式では電子を入射したあとに、入射器のモードを陽電子に切り替える必要がありますが、このための装置の運転方式の変更作業もロスタイムとなります。

連続入射方式ではビーム入射中も実験を続けられるので、これらのロスタイムをなくすことができます。また、電子や陽電子が常に補給されるのでルミノシティを最大に近い状態にずっと保つことができるのも大きなメリットです。

ビーム入射時のノイズを抑える

KEKB加速器では、連続入射方式を実現するために、ビーム入射中に生じるノイズを減らすための努力が行われました。ビームの周りに生じるハローという現象を抑えるためのコリメーターという器具の微調整や、入射器のビームの持つエネルギーの広がりを小さくするための調整、主リングへの入射部分での軌道の微調整などです。

先のスイミングプールの滑り台を例にとると、滑り台に流し込む水の軌道や広がりなどを細かく調整して、うまく滑り台のカーブに沿った流し込みができれば、こぼれる水の量を少なくすることができます。また、Belle測定器の近くでビームが失われるとノイズの原因になるので、測定器から遠いところに置いたコリメータでハローを取り除くという調整が重要です。

これらは従来の入射方式でも必要な調整でしたが、連続入射方式の場合はBelle測定器のビームノイズに対して高い水準が要求され、また、実験データを取得しつつ入射するために従来とは少し異なる入射条件が必要とされました。さまざまな粘り強い調整により、連続入射方式にふさわしい入射条件を見つけることができたのです。

Belle測定器をノイズに強くする

一方で、Belle測定器の側でもビームノイズに強くするための回路系の様々な改造などが行われました。この改造については次回、詳しくお伝えしましょう。この改造もまた、連続入射方式の成功にはなくてはならないものでした。

KEKB加速器とBelle測定器の様々な努力の積み重ねが功を奏して、連続入射方式という、一つの大きな目標を達成することができました。KEKでは今後もさまざまな性能増強の計画を予定しています。世界のフロントランナーであり続けるKEKB加速器の今後にご期待ください。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→KEKBのwebページ(英語)
http://www-acc.kek.jp/KEKB/
→Belleグループのwebページ(英語)
http://belle.kek.jp/

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[図1]
KEKB加速器の模式図。手前の直線部分は電子と陽電子を入射する線形加速器。奥の丸いKEKBリングで電子(青)と陽電子(赤)が蓄積されBelle測定器の中心部で衝突する。
拡大図(62KB)
 
 
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[図2]
線形加速器からKEKB主リングなどへの入射部分。
拡大図(53KB)
 
 
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[図3]
KEKB加速器の制御室。
拡大図(50KB)
 
 
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[図4]
KEKB(青線)とPEP-II(赤線)のピ−クルミノシティの変遷の比較。PEP-IIは、アメリカの西海岸のスタンフォード線形加速器センター(略称SLAC)で稼働しているKEKBとほぼ同じタイプのBファクトリー。
拡大図(26KB)
 
 
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[図5]
KEKB加速器の運転状況。上段は従来の運転の様子(12月20日の中のある8時間)で、下段は連続入射方式採用後の様子(3月1日のある8時間)。それぞれ一番下の青い線のグラフは標準的な状態を100%とした時のルミノシティの性能変化。従来の運転では約1時間ごとにルミノシティが下がっていたのが、連続入射方式を採用してからは常に標準以上の性能を保っていることがわかる。
拡大図(73KB)
 
 
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[図6]
加速器の運転状況を見守る研究者。
拡大図(32KB)
 
 
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[図7]
加速器の運転は24時間連続で行われるので、オペレータが8時間ごとに交替で勤務している。
拡大図(41KB)
 
 
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