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建設が進むLHCとアトラス 2005.12.15 |
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〜 実験開始まで約500日 〜 |
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ヒッグス粒子などの未知の粒子の探索をめざして、スイスのジュネーブ郊外に建設中のLHC加速器とアトラス測定器についてはこれまでにも何度かお伝えしてきました。この計画にはKEKをはじめ多くの日本の研究機関が国際協力で参加しています。 今日は、巨大な全容をあらわしはじめたアトラス測定器とLHC計画の現状についてお伝えしましょう。 地下トンネルへのマグネット設置 LHC加速器は2007年夏のビーム衝突開始をめざして急ピッチで建設が進んでいます。これはジュネーブ郊外にあるCERN研究所の地下100mほどに設置された一周27kmにも及ぶトンネルの中で、陽子ビーム同士を7兆電子ボルトという世界最高のエネルギーで正面衝突させる実験です。 陽子のエネルギーが高いため、その軌道を曲げるには長さが14.3mもある強力な超伝導磁石(ダイポールマグネット)を全部で1,232台、設置します。このマグネットの主要部材となる全長7600kmの超伝導ケーブルの製造も終了し、すでに930台ほどがCERNに納品されています。 納品された超伝導磁石はすべてCERN内の検査場で「クエンチ」という超伝導状態の破れに耐える試験を行ってからトンネルの中に設置されますが、ほとんどが目標磁場の8.33テスラを2回以下のクエンチで達成していて、これまで180台がトンネル内部に設置されています(図1、2)。 KEKの四極超伝導電磁石も 衝突点のビーム軌道を制御するために用いられる強収束用四極超伝導電磁石がKEKの技術開発によって製作されていることは以前にもお伝えしました。9テスラという強力な磁場を発生する磁石はKEKと米国フェルミ国立加速器研究所(FNAL)と分担協力し、全部で38台製作します。そのうちKEKが担当した19台は、2004年夏に完成した後、FNALに運ばれ、クライオスタットという特殊な極低温容器の中に据え付けられ、FNALが製作したものとともに順次、CERNに向けて運ばれ、地上での組み合わせ試験(図3)の後、衝突点に据え付けられます。 LHC加速器のトンネルでは液体ヘリウムを輸送するクライオラインの建設が進められています。2004年夏に真空漏れやスライド板の割れなどのトラブルがありましたが、その後順調に修理改善作業が進み、2005年9月には600mにわたる冷却テストに成功しました。 前段のSPS加速器からLHCに陽子ビームを送るための入射ビームラインも完成し、ビーム輸送テストにも成功しました。LHCは世界最大でかつ極めて複雑な加速器ですが、CERN所長が世界各国の研究機関にマンパワー面での支援を要請するなど、2年後の実験開始に向けた最後の追い込み作業が続いています。 威容をあらわしたアトラス測定器 アトラス測定器はLHC加速器に設置される4つの測定器の中でも最大で、全長40m、高さ22m、総重量7000トン、1億チャンネルを越える読み出し電子回路数をもつ、世界最大の実験装置です。この建設には日本からも15の研究機関が参加しています。 「ピットワン」と呼ばれる地下の実験ホールではアトラス測定器の建設作業が今まさにピークを迎えようとしています。 測定器の構造体の役目も兼ね備えている8台のバレル超伝導トロイドマグネットの組立と地上試験は全て成功し、2004年10月から地下実験ホールで据付作業が順次進んでいます(図4、5)。 KEKが担当した超伝導ソレノイドはバレルカロリメータ(液体アルゴンとシンチレーターの組み合わせ)と組み合わされ、2004年から地下実験室でケーブル配線や最終調整が進められてきましたが、2005年11月にアトラス測定器の中央部に据え付けられました。 2005年6月にはシンチレーションハドロンカロリメータで初めての宇宙線を観測することに成功しました(図6)。 アトラスグループは2007年夏の実験開始に向け、2006年春にマグネットの冷却・励磁テストを終え、さらに1年かけて前後方トロイドマグネットはじめ全ての内部飛跡検出器・前後方カロリメター・中央ならびに前後方ミューオン飛跡検出器などを据え付ける計画です。据付作業と試運転は複雑なので時間との競争になっています。 日本グループが建設を担当している超伝導ソレノイドマグネット、前後方ミューオントリガーチェンバー、トリガー回路、シリコン半導体飛跡検出器、ミューオン用TDCチップなども順調に製造と据え付けが進行しています。 他の実験グループも LHCの他の実験グループも急ピッチで建設を進めています。CMS実験では地下実験場の建設と並行して、地上で測定器の大部分を組み立てています(図7)。すでに大型の鉄ヨークは完成し、殆どのミューオン検出器が据え付けられて、宇宙線トラックも観測されています。4テスラのソレノイド磁場をつくる大型の超伝導ソレノイドマグネットは2005年9月に完成し、冷却励磁テストを2006年1月に行う予定です。 電磁カロリメターは8万本を越える鉛タングステン結晶が使われる予定ですが、生産の遅れから、前後方部分の完成を2008年に延期することになりました。 アリス実験は超高エネルギーの重イオン衝突を観測する装置で、米国や日本のグループも参加を検討しています。LEP実験 で使われていたL3測定器のマグネットの改造は完了しました。中心の大型の飛跡検出器TPC(Time Projection Chamber)も完成し、電子回路を取り付けて2006年の夏に試運転を行う予定です。 LHCb実験は陽子・陽子衝突において超前方に生成されるボトムクォークを含む粒子を観測する装置です。すでに大型のマグネット設置は終わり、色々な検出器が順治取り付けられています。 TOTEM実験は衝突点の超前・後方に検出器を置いて衝突全断面積、弾性散乱、回折散乱などを研究します。 LHC加速器を用いた世界最高エネルギーでの実験開始まで、あと500日を切りました。人類未踏のエネルギー領域でどのような物理現象が観測されるでしょうか。研究者の挑戦をお楽しみに。
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