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last update:07/07/12  

   image 重圧に押しつぶされない強い力    2007.7.12
 
        〜 スパコンが明らかにした陽子・中性子の「芯」 〜
 
 
  学校や仕事で重圧に押しつぶされそうになったとき、体の奥から思わぬ力が湧いてきて跳ね返すことができた。そんな経験はありませんか? 「いいや、ない」という方も、体を作る素粒子が硬い芯に守られていると知れば気持ちも変わってくるかもしれませんね。実は、素粒子が守っているのはあなただけではありません。宇宙に浮かぶ星が潰れそうになるのをささえているのも素粒子の力です。ミクロな素粒子の性質が星の運命を決めている。今日はそんな話題です。

原子核を形づくる核力

私たちの体を含む全ての物質は原子からできていますが、その原子の中を見てみると、中心にどっしり原子核が座り、その周りをいくつかの電子が回っています。原子には酸素、水素、炭素など多くの種類がありますが、それらの違いは原子核の種類の違いから来ています。原子核はいくつかの陽子と中性子がお団子がくっついたような形をしていて(図1)、陽子1個だけだと水素、陽子が6個と中性子が6個で炭素、といった具合です。さて、ここで問題になるのは、電気を帯びていない中性子はともかく、正の電荷をもった陽子同士が電磁気力による反発力に打ち勝って互いにくっつくことができるのはなぜなのか?というパズルです。この難問を解いたのが、湯川秀樹博士の中間子論でした。電磁気力とは別に原子核の中で働く力「核力」があり、これが陽子や中性子の間に強い引力を作り出す。核力が働く距離はとても短く原子核の中だけで、新しい素粒子である中間子がこれを媒介する、という理論です。

エネルギーの源は原子核

私たちの太陽もそうですが、星が輝いているのは核融合のエネルギーを放出しているせいです。さて、「核」の「融合」とはどういうことでしょうか?

原子核同士はやはりいずれも正の電荷を帯びているために互いに反発します。しかし、何とかして中間子が届く距離まで近づくことができれば、今度は引力が働いてくっつくことができます。これが核融合です。くっつく時に余ったエネルギーが光の形で放出され、これが星の輝きの源になるわけです。原子核反応によるエネルギーは化学反応によるエネルギーに比べてけた違いに大きいので、私たちの常識を超えたエネルギーが放出されます。核融合が夢のエネルギーと言われるゆえんですね。問題はどうやって中間子が届く距離まで近づけるかですが、地上では普通にはそのようなことは起きません。でも、大きな星の中では話は別です。星の中心部は自分自身の重力のせいで、原子核の電気的な反発力さえも乗り越えてしまうほど大変な圧力がかかっているからです。

星の最期、大爆発、そして

星の中心部で核融合が続いている間は、放出し続けるエネルギーで重力による圧力を押し返すことができます。しかし、核融合が進んでついにその燃料がなくなってしまった時、星の中心部では重力を押し返すことができなくなり、急速につぶれていきます。中心部に残るのはすべての原子核がくっついた中性子の塊です。その上に星の外側が落ちてくると激しく跳ね返されて大爆発が起こり、これが超新星爆発として観測されます。大爆発の後に残されるのは中性子の塊。これは中性子星と呼ばれています(図2)。

さて、巨大な圧力の中でも生き残った中性子の塊。この中性子を安定に支えているのが、核力にひそむ大きな反発力(斥力と呼ばれる)です。中間子が媒介する核力は引力だと説明しました。しかし実は、中性子同士をさらに近づけようとすると逆に大きな斥力が働くことがわかっていて、これを斥力芯(せきりょくしん)と呼んでいます(図3)。湯川理論では想定されていなかった斥力芯。これこそが、中性子星がさらにつぶれないように支えている力なのです。

スパコンで検証

現在では、陽子・中性子や中間子は、より基本的な素粒子「クォーク」からできていることがわかっています。クォークの世界を支配する法則は量子色力学(QCD)と呼ばれ、加速器実験で精密に検証されています。それなら、パイ中間子が媒介する核力はもちろん、斥力芯もQCDを使って導き出すことができるはずだ、当然とも思えるこの考えはしかし、QCDが考え出されてから30年以上もの間実現できませんでした。QCDがあまりにも複雑な理論だったせいです。QCDを解くには計算機シミュレーションの助けが必要で、急速に速くなってきたスパコンを使ってもこれまで解かれていませんでした。

今回、筑波大学の青木慎也教授、石井理修研究員、東京大学の初田哲男教授からなる研究グループが、QCDのシミュレーションによって核力を導き出すことに成功したと発表しました。予想されていた通り、近距離では引力が斥力に変わっていることがわかります(図4)。膨大な計算量が必要だったこの研究を支えたのは、国内最速クラスの性能をもつ高エネルギー加速器研究機構のスーパーコンピュータです(図5)。

原子核の内部から星の中心部まで、スパコンが自然界のなぞを解き明かしていきます。
 
 
※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

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[図1]
原子核は陽子と中性子がより集まって団子のようにくっついた形をしている。陽子と中性子が結合する力は湯川秀樹の中間子論によって説明された。
拡大図(61KB)
 
 
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[図2]image 国立天文台
かに星雲:超新星爆発の残骸。中心部には中性子星があると考えられている。
拡大図(98KB)
 
 
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[図3]
核力が及ぶ距離に近づいた陽子と中性子(あるいは陽子と陽子、中性子と中性子)は強い引力を感じて互いに引きつけ合う。しかし、あまりに近づきすぎると芯に跳ね返されて押し戻される。こうして原子核内での陽子や中性子の間の距離はおよそ 10-13cmに保たれる。
拡大図(186KB)
 
 
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[図4]
陽子と中性子の間の力をあらわすポテンシャルエネルギーを距離に対してプロットしたもの。(10-13cmの単位で)0.7よりも遠方では引力となり、内側では強い斥力に変わることがコンピュータ・シミュレーション(赤い点)によって明らかになった。青い曲線は湯川中間子論による予言。遠方ではシミュレーションによって再現された。
拡大図(27KB)
 
 
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[図5]
高エネルギー加速器研究機構のスーパーコンピュータ「IBM BlueGene Solution」。理論演算性能57.3テラフロップス(1秒間に57兆3000億回の計算ができる)の国内最速クラスの性能をもつ。
拡大図(53KB)
 
 
 
 
 


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