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last update:07/10/25  

   image 加速器を運転する    2007.10.25
 
        〜 KEKBコントロール室の一日 〜
 
 
  加速器とは真空のパイプの中で粒子を電場の力によって加速させていく装置です。物質と反物質の性質の違いを調べるために建設されたKEKB加速器と、そこで起きる素粒子反応について調べるBelle測定器についてはこれまでにも何度かお伝えしてきました。

KEKの敷地一杯に建設されたKEKB加速器では、今日も世界最高の衝突性能(ルミノシティ)で実験が続けられています。この加速器を運転する人々の一日を覗いてみましょう。

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電波時計でミーティングを開始

KEKBの運転打合せは毎日朝9時から始まる。平均的な打合せ時間は30分弱である。過去24時間に運転を担当した者が運転の様子について報告する。他に報告事項がある人も発表する。その後、今後の24時間のだいたいの予定を決めて終了する。土日も祝日もいつもやる。9時の打合せの開始時刻は非常に厳しい。電波時計の秒針を見ながらいつも9時きっかりに始める。

加速器は、運転期間中は24時間連続で運転するので、8時間交替(シフト)で担当者がコントロール室に詰める。シフトの当番の研究者は、割り当てられたシフトの最後の30分くらいを使って、運転の傍らパソコンに向かって報告用のスライドを作る。こうすることで加速器の運転の記録が着実に電子的に残る。9年前にKEKBの運転が始まった頃は、オーバーヘッドプロジェクタ(OHP)のトランスペアレンシー(スライド)が使われていたが、今ではパワーポイントのファイルにして10ページ弱がそれぞれのシフトごとに保存されていく。

シフトの境目は、朝と夕方と夜半である。朝は打合せがあるが、夕方と夜半は打合せはない。それぞれのシフトの交替時間は30分間重なるようになっていて、その間に引き継ぎが行われる。

KEKBとBelleには超伝導機器がいくつかある。これらの機器は1秒よりも短いような停電(瞬時停電)でもダメージを受ける。ある日の午後、瞬時停電に見舞われた。その日は、午後5時からの運転開始予定であったが、夜を徹して復旧作業が続けられた。

運転の様子で地震や天気を知る

平穏な運転時のコントロール室は、静かなものである。加速器の研究者一人(夕方から夜半までは2人)と委託企業の運転員数人がチームを組んで運転をしている。彼らは無言でディスプレーにむかっている。KEKBは電子と陽電子の2つの加速器からなる。2つのビームの衝突状態を最良に保つためには、常に調整をしなければならない。調整の時の指標は、ルミノシティの観測値(Belle測定器からオンラインで送られてくる)やビームの太さを観測する装置からのデータなどである。

ビームの軌道は常時モニターされている。ある時、モニターを見ていた人がほんの数10秒間ほど軌道に異常があるのを見つけた。彼は「きっとどこかで大きな地震があったんだろう」とつぶやいた。確かにその後しばらくして、スマトラで大きな地震があったと報道されたのだ。あの時の地震は日本では勿論人の体には感じない。しかし、大型加速器の微妙なビーム制御は、微弱な地面の震動をも見逃さない。

低気圧が来ることもわかる。気圧の変化で地下水の水位が変わると、地盤の様子が変わり、加速器を包むコンクリートのトンネルの構造が微妙に変わる。幸い、その変化を打ち消すプログラムが自動で補正をしてくれるので、運転者はその補正の様子をグラフで見て、低気圧の接近を知ることになる。

数年前まで、気温が高い日の日中にはどんなに調整してもKEKBのルミノシティがある値以上にはあがらなかった。後になって、それはビーム位置の情報を送る信号ケーブルの熱変形が原因であることがわかるのだが、それまでの間、天気予報でその日の最高気温が予想されると、研究者は「今日はきっとルミノシティは低迷するぞ」とがっかりしたものだった。天候を気にしながらのKEKBの運転は、まるで農業のような面があった。

深夜の呼び出しや出張先の携帯電話

ある日の深夜2時、加速装置の一部が不調になり、運転が不可能になった。そんな時間であっても運転担当者は当該装置の担当者に電話をかける。電話で状況説明を受けた装置担当者は、処置を指示するが、それでもだめな時は研究所までやってくる。

KEKBの運転記録は委託企業の担当者によって常に記録されている。KEKBの運転が始まった頃は、手書きのノートであった。最近はコンピュータの中に記録されるので、KEKB関係者は世界中どこにいてもこの記録を見ることができる。

ある研究者は海外出張でも携帯電話を持ち歩くことが日課になった。海外から携帯電話で故障の状況に対処することもある。

つくばでは年に何度か震度3程度の地震がある。地震が来たら、加速器の運転を停止して、トンネルの中をパトロールする。一周3kmもあるから、数人で手分けしても安全確認には大変な時間がかかる。

実験グループとの連携

KEKBのコントロール室で24時間、運転が続いている時、敷地の反対側にあるBelle測定器のコントロール室でもシフトの要員が24時間態勢で測定器の状況を見守っている。

Belle測定器のメンバーは加速器の運転中にはKEKBのコントロール室にも1人滞在している。加速器のチームではないが、加速器の状態を的確に知り、 Belleのコントロール室のシフトメンバーに伝える。また Belleに異常が起きた時などには、加速器の人にその状況の説明をする。このように加速器のコントロール室に測定器側の担当者が詰めることは、KEKBが初めてのケースである。

加速器研究者で運転シフトにあたる人は30〜40人くらいいる。その中の何人かは運転ソフトもつくる。運転ソフトは専門のソフト開発者がいるのではなく、研究者自身がつくる(機器に直結したドライバーは勿論別)。だから、運転ソフトはいつも使う側の立場にたってつくられている。運転ソフトのバージョンアップは、頻繁に行われる。その意味で運転ソフトは生き物のようだ。衝突型加速器の運転は常に新しい技術の開発の面がある。

加速器研究者が運転ソフトを開発・更新する一方、委託企業の運転員は運転そのものを専門としていて、一人当たりのシフトの頻度も高いので、運転についての実用知識は豊富である。研究者のシフトの人は、それぞれの機器の専門であるが、必ずしも運転が専門ではないから細かいことはわからないことが多い。だから、委託企業の運転員が安定な運転の鍵を握っているという側面もある。

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いかがでしたか。最先端の技術の粋を尽くした加速器でも、その運転の現場は意外にも人間が大きな役割を果たしています。KEKBとBelle測定器の今後の活躍にご期待ください。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→KEKBのwebページ(英語)
  http://www-acc.kek.jp/KEKB/
→KEKB:「加速器が感じる大地の動き」のwebページ
  http://www-acc.kek.jp/KEKB/explanation/ground_motion.html
→Belleグループのwebページ(英語)
  http://belle.kek.jp/

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[図1]
世界最高の衝突性能を誇る「電子陽電子衝突型加速器KEKB」。世界最高を支える技術は、人により生み出され維持される。
拡大図(105KB)
 
 
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[図2]
毎日9時ちょうどに始まる打合せ。(撮影に訪れた日も、本当に9時00分00秒に始まった。)
拡大図(68KB)
 
 
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[図3]
シフト当番の研究者は、シフト時間の最後にレポートを書く。世界最高の性能は、積み重ねたシフトレポートの証でもある。
拡大図(55KB)
 
 
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[図4]
KEKBコントロール室。静かである。(撮影の際のカメラのシャッター音も憚られた。)
拡大図(105KB)
 
 
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[図5]
画面左上のウィンドウが、ビームの太さを観測する装置からのデータ。左下の数値が、ルミノシティの観測値。撮影時のルミノシティは「11.197」。
拡大図(81KB)
 
 
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[図6]
画面上方のグラフの赤い線がビームの軌道を表している。グラフの横軸が3kmの距離を表している。すわなち赤い線の長さが、トンネル一周3018mになる。左の画面がLER(Low Energy Ring:3.5GeVの陽電子リング)。右の画面がHER(High Energy Ring:8GeVの電子リング)。
拡大図(77KB)
 
 
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[図7]
2005年3月25日午前1時10分頃(日本時間)、スマトラ沖でマグニチュード8.7という巨大地震が発生した。日本では地面の揺れは人間には感じられないほど微弱だったが、加速器の極めて精緻なビーム制御では、かすかな地面の揺れも記録に残る。この図から、午前1時20分頃から数時間に渡って加速器の軌道制御パラメーターに変動が生じている様子がわかる。
拡大図(60KB)
 
 
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[図8]
KEKBコントロール室に詰めるBelle実験グループの研究者。毎朝9時の打合せには、Belle実験グループからも研究者が出席する。KEKのBファクトリーでは、加速器の研究者と物理実験の研究者の密な連携が図られている。
拡大図(90KB)
 
 
 
 
 

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