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衝突型加速器って何だろう 2005.11.24 |
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〜 ビームとビームの衝突 〜 |
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KEKの代表的な加速器のひとつKEKBは「衝突型加速器」と呼ばれます。この名は2つのビーム(KEKBの場合は電子のビームと陽電子のビーム)をぶつけて素粒子物理学の実験を行なうことからきています。 粒子を加速して物体にあて、その微細な構造を調べようとしたのはイギリスのラザフォードが最初と言われています。20世紀のごく始の頃のことです。その時代はまだ加速器は発明されていなかったので、放射性元素から得られるアルファ線を金箔にあて、これが飛び散る様子を観測して金の原子の構造を探りました。その結果、金の原子がごく小さな原子核とその周りにある電子の群からなることがわかりました。このことは日本の物理学者長岡半太郎の原子模型が正しかったことを示すこととして有名です。 衝突のエネルギー 人間の探究心はきりがないもので、原子の様子がわかると、次はその中心にある原子核はどうなっているのだろうかという方向に興味の対象は進んでいきます。やがて、加速器が発明され、天然の放射線を用いなくても人工的に高いエネルギーの粒子を得ることができるようになり、粒子をぶつけて物質の構造を探る実験も次第に大規模なものができるようになってゆきました。 ところで、より小さいものを調べようとするとより高いエネルギーの粒子が必要になってきます。このことを直感的に理解してもらうために次のようなことを考えてみましょう。ここにゴルフボールを毛糸でふわふわに包んだようなものがあったとします。これは原子のモデルで、ゴルフボールが原子核で毛糸が電子群です。これにパチンコ玉のようなものをぶつけてその構造を調べることを考えます。もしパチンコ玉の勢いが弱ければ回りの毛糸の部分にさわって方向が変っていしまい。うまく中のゴルフボールに到達できません。そこでこのパチンコ玉の勢いを増してやると毛糸の存在があっても難なく芯であるゴルフボールにぶつかり、その様子を探索することができます。これはちょうど原子核の構造を調べる実験で、原子の周りにある電子の存在を殆ど意識せずに原子核に向かって粒子をぶつけることに対応します。 このように考えてくると、なるべく勢いのよい−つまりエネルギーの高い−粒子を作ってやれば、より内側の芯の方まで見定めることができることがわかります。このことが素粒子の研究者がより高いエネルギーの加速器を求めて研究、技術開発をする理由です。しかし高いエネルギーの加速器をつくるには高い技術力とお金がかかります。そこでそんな投資をしなくても済む方法がないかと思って考えられたのが衝突型加速器です。この衝突型加速器の利点を直感的に見るために図2と図3をみてください。 絵のテーマはちょっと物騒ですが、少しの間我慢してください。上の説明から、なるべく細かい点まで調べるためには、より勢いのある粒子をぶつけるのがよいことがわかったと思いますが、そのモデルとして、停車している自動車に別の車が衝突する場面を考えましょう。この場合、追突した車の持っていたエネルギーのほとんどは、前の車が動きだすエネルギーに使われてしまい、「破壊力」として使われるエネルギーはわずかです。そこで その代わりにそれほどスピードの高くない車を2台作っておき、お互いに違う方向で走らせたらどうでしょう。最終的な「破壊力」はこのほうがずっと大きくなることがわかります。(図3)。 この考えにたち具体化したのが衝突型加速器です。この形の実験を大きな成果が上げられるようになったため、1970年代以降、沢山の衝突型加速器が作られて来ました。このような加速器を用いた素粒子実験を衝突実験(colliding beam experiments)(図4)、これに対して止まった物体にビームをぶつけて行う実験を固定標的実験(fixed target experiments)といいます(図5)。 角度のある衝突は失敗する? さて、なぜビーム衝突型の加速器を作ったかはわかったと思いますが、ビームをぶつける時、正面衝突させるのが一番考えやすいことは勿論です。しかし、KEKBのような2つのエネルギーの異なるビームをぶつけるダブルリング(つまり加速器が2台ある)の衝突型の加速器の場合は話はそう単純ではありません。2つの加速器のビームを交差させる時は角度がついてしまうのが自然のなりゆきですが、ここに問題があります。1970年代、ドイツの衝突型加速器DORISでこの角度つきの衝突を試みたことがありますが、この時はビームに有害な振動がおきてしまい、沢山の電流を蓄積することができませんでした。この苦い経験を生かし、同じ失敗をさけようとすれば正面衝突をさせる以外方法はありませんが、これには衝突点近くにいくつかの電磁石を複雑に配置して、ビームの軌道を曲げ、正面衝突の方向にもっていってやる必要があります。ところがビームを曲げることはそのビームから放射光を出させることを意味し、その放射光は必ずや測定器(衝突後起きる素粒子反応を捉える)に邪魔者として働くはずで、これも好ましいことではありません。 さて、ここで、KEKBの設計の時代を振り返ってみましょう。1990年代中盤のことです。加速器の設計グループはビーム衝突の中心点近くに沢山の電磁石をおいてビームを曲げることを好みませんでした。理由は上に説明したとおりです。そこで彼らは、ドイツでの失敗の原因を理論的に解明した論文をよく調べ、その結果斜めにビームをぶつけても有害な現象がおきないようにできることに気がつきました。そのことを確認するため、式を使った計算だけでなく、コンピュータ・シミュレーションも勢力的に行って、その結論を強固なものにし、とうとう「角度付きビーム衝突」の決心をしたのでした。アメリカのスタンフォード線形加速器センターの同種の加速器(PEP-II)ではこの決断を避け正面衝突の加速器をつくったのとは対照的な決心でした。 この設計にしたがって実現したKEKB加速器のビーム衝突の様子を模式的に表したのが図6です。この図にみるように2つのビームの交差角は1.3度になっています。 1998年末、設計通り加速器は完成しました。そして設計者達の思ったとおり有害な振動は起きませんでした。いろいろ理論的な検討を加えた上の決心とは言え、設計グループとしては実際のビーム衝突で振動が起きないことが確認することができ、自信を深めたのでした。 さらに高性能をめざす さて、数年の時が流れ、21世紀に入って2年も過ぎると、KEKBの性能をさらに上げようということになりました。そこで再び浮上したのが「正面衝突」です。正面衝突しなくても有害な振動が起きないことは実証済みでした。しかし、もっと実験に必要な現象がおきる頻度を上げるには正面衝突がよいというコンピュータ・シミュレーションの結果がでたのです。しかし、ビームを単純に曲げたのでは放射光が出てよくないことは経験からもわかっていました。KEKBの好敵手であるアメリカのPEP-IIが、実際にこの問題に悩まされていることが報告されていたのです。それではどうするのか?これが次回の話題です。
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