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クォークの世代を越えて 2005.7.7 |
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〜 新しい素粒子反応を発見 〜 |
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32年前に小林・益川理論が発表された時、物質の最小の構成単位であるクォークには3つの「世代」が存在すると予言されました。この理論はまた、クォークが世代を超えて崩壊する反応が起きることも予言しています。世界最高のルミノシティでデータを蓄積しているKEKのBファクトリーで、第三世代のボトムクォークから第一世代のダウンクォークへ崩壊する極めて稀な現象をとらえたニュースについてお伝えしましょう。 クォークの崩壊と電荷 物質を構成する最小の単位を明らかにすることは物理学の大きな課題の一つです。現代の素粒子物理学では、クォークと電子の仲間が物質の究極の単位であると考えられています。 原子核は陽子と中性子から、さらに陽子や中性子はクォークから構成されています。クォークは現在6種類が知られています(図1)。今の宇宙に存在するのは一番下の第一世代だけで、あとの2つの世代は自然界には存在しません。加速器などで作ることはできますが、質量が重いため短い時間で崩壊して第一世代のクォークに変化してしまいます。 第二と第三世代のクォークがより軽いクォークに崩壊するためには、クォークの種類を変化させるような力が働かなければなりません。これは、「弱い相互作用」と呼ばれる力の中の一種で、W粒子という電荷をもつ粒子によって媒介されます。弱い相互作用でクォークの種類が変化する反応が起きるときには、クォークの電荷も同時に変化します。弱い相互作用が中性のZ粒子によって媒介される場合には、クオークの種類は変りません。 クォークの電荷は+2/3と−1/3という、不思議な性質を持っています。クォークは単独で存在することができず、陽子や中性子は3個のクォークから、パイ中間子などはクォークと反クォークのペアからできているため、電荷は整数になります。 第三世代のボトムクォーク(電荷−1/3)が第二世代に壊れるときには、ストレンジクォーク(電荷−1/3)ではなく、チャームクォーク(電荷+2/3)に変化することになります。 クォークの種類と同時に電荷を変化させるような力に関してはこれまで様々な実験で調べられてきて、その力の性質はよくわかっています。それでは、電荷が変化せずにクォークの種類だけがかわるような力はないのでしょうか。 ペンギン過程という現象 小林・益川理論によれば、ボトムクォークは同じ電荷を持つ別のストレンジクォークには直接変化できませんが、図2のような経過をたどって変化することができます。これはペンギン過程と呼ばれています。ボトムクォークが一旦、自分よりずっと重いW粒子とトップクォークに化けて、光子を放出した後にストレンジクォークに変ります。 日常の世界では、ある物体が瞬間的に何十倍も重い別の物体に変わるという現象はおこりませんが、ミクロの世界では、量子力学のトンネル効果という現象があって、非常に短い時間ならば、自分よりずっと重いものに化けることが許されてしまいます。 W粒子とトップクォークは長い時間存在することはできないので、また合体して、より軽いストレンジクォークを作り出します。このようにペンギン過程によってボトムクォークがストレンジクォークに変化することは1993年に実験で発見されました。 Bファクトリーの性能がもたらした発見 今回、KEKのBファクトリーで蓄積されたおよそ3億9千万組のB中間子・反B中間子対の崩壊現象の中に、35例のB中間子がロー中間子と光子に崩壊する現象(図3、4)と、30例のB中間子が二つのK中間子に崩壊する現象(図5、6)が見つかりました。 これらの現象はいずれも、第三世代のボトムクォークが第二世代を飛び越えて第一世代のダウンクォークに変化することによってのみ起こる現象です。 ボトムクォークとダウンクォークは電荷が同じなので、小林・益川理論によって直接変化することはできず、やはりペンギン過程を経て変化しているものと考えられます。ボトムクォークからダウンクォークへの崩壊が起きる確率は百万回に一度ほどと極めて低く、Bファクトリーで大量のB中間子を生成したことによって世界に先駆けて発見することができたのです。 新しい物理法則の手がかりを探す 現在、クォークや電子などのレプトン、それらの間に働く力や対称性など、素粒子のことをすべて記述する理論は「標準理論」と呼ばれています。しかし、いくつかの理由から、この理論は素粒子の究極的な理論ではないと考えられています。素粒子物理学の研究者は皆、標準理論をより高次から説明することのできる新しい物理法則を激しく競争しながら探しています。 Belle実験グループ代表者の一人でKEK素粒子原子核研究所教授の山内正則氏は今回の発見について以下のように述べています。 「もし、ある現象が 1000回起こったとして、990回が標準理論で起こった現象、10回が新しい物理法則が引き起こしているということならば、その10回は990回に隠れてしまってよくわからないでしょう。対照的に、ある現象が20回しか起こらずに、10回が標準理論による現象ならば、残りの10回は何か新しい物理法則が関係しているのがすぐにわかるでしょう。稀な現象ほど、新しい物理法則の発見に役に立つのです。今回確認された現象はまだ数十個ですから、新しい物理法則の関与を詳しく調べるにはまだ何倍ものデータが必要です。今回の発見は『新しい物理法則に向けての新たな足がかり』と位置づけることができます。」
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