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last update:05/01/06  

   image 標準理論を越える物理をめざして    2004.8.26
 
        〜 Belle実験の最新成果 〜
 
 
  Belle(ベル)実験グループ(図1)はB中間子を使って、物質と反物質の非対称性を調べる研究を進めています。グループは昨年、標準理論を超えた新しい物理法則が関与している可能性が高いと考えられる実験結果を得ました。あれから1年が経過し、Bファクトリー加速器(図2)の性能もさらに向上し、実験データは昨年の倍近い量に達しました。世界の研究者から注目を浴びているこの実験結果のその後についてお伝えしましょう。

標準理論のその後

素粒子物理学の世界では「標準理論」と呼ばれるいくつかの理論の組み合わせが素粒子の振る舞いをとてもよくあらわすことが知られています。この理論は過去30年にわたってほとんどの実験データをうまく説明することができました。

標準理論の根幹をなし、6種類のクォークの存在を予言した小林・益川理論は、同時に粒子と反粒子が非対称な性質を示すことも示しました。もし小林・益川理論だけが粒子・反粒子の非対称性にかかわる唯一の物理法則であるとするならば、B中間子が崩壊する際の非対称性の大きさが、ある種の崩壊パターンの場合に共通している、という予言があります。

実際、Belleグループと、そのライバルともいえるアメリカのBaBar(ババール)グループは、B中間子と反B中間子の崩壊の様子の違いを観測し、粒子・反粒子の非対称性が小林・益川理論の予言と極めてよく一致していることを2001年に実証しました。Belleグループはその後、改良されたBファクトリー加速器とBelle測定器でさらに大量の実験データを得て、小林・益川理論の予言は盤石のものとなりつつあります。

ペンギン・ダイアグラムで見つかった異常

ところが、同じB中間子の崩壊の様子の観測でも、「ペンギン・ダイアグラム」(図3)という、ある種の量子効果が顕著に現れる崩壊様式を詳しく調べると、標準理論で我々が知っている素粒子の仲間だけでは実験データを説明できない現象が起きていることが昨年のBelleグループのデータから示唆されました。

Belleグループが2001年に初めて非対称性を発見した時に使った崩壊パターンはB中間子がジェイ・プサイ(J/ψ)中間子とケーショート(Ks)中間子に壊れるというものでした。この測定はこれまでに大変よい精度で行われ、+0.73という非対称性が確立されています。

標準理論に現れる粒子の種類が正しければ、ペンギン・ダイアグラムが反応の途中に現れるファイ(image)中間子とケーショート中間子への崩壊でも、同じ非対称性が見られるはずです。ところが昨年の実験データではこの値が−0.96と、大きくずれていました。

ただし、この崩壊が起きる確率はものすごく小さいために測定も難しく、統計のゆらぎからくる測定の誤差もまだ大きいものでした。それでもこのズレは小林・益川理論だけでは説明できそうもない、ということから、この結果を発表した昨年のシカゴの国際会議ではたいへん大きな反響を呼びました。

実はこのようなことが起きるかもしれないということはある程度、予測されていました。「標準理論」はある意味、これまでに知られている理論の寄せ集めであり、それだけがすべてでもなければ終わりでもない、というのが、この分野の研究者の信念でもあります。標準理論を越える現象が見つかったとすれば、それは、いままで知られていなかった新しい物理法則への手がかりでもあり、それがどんな法則であるのかを突き止めることが、この分野の研究を進める究極の目標でもあるわけです。

北京の国際会議でも注目

シカゴの国際会議から一年が経ちました。Belleグループはさらにデータを蓄積しました。高精度の結果が出たときにこの数字がどうなるかに世界の注目が集まります。その結果を報告したのが、今年8月に北京で開かれた高エネルギー物理学国際会議です(図4)。

結果は、ファイ中間子とケーショート中間子への崩壊のデータに関してはズレが小さくなりました(+0.06±0.33)。しかし、同じようにペンギン・ダイアグラムが関係する崩壊様式の実験データも精度が良くなったので、その崩壊様式の平均値を取ると、+0.43±0.11という結論になりました。(図5)やはり標準理論を超えたものが何かありそうだ、という結果となったのです。

ライバルのBaBar実験も同様の結果

BelleグループのライバルであるBaBarグループもこの会議で同時に結果を発表しましたが、この値も+0.42±0.10と、Belleグループの値とほとんど同じ結果となりました。日米で新しい物理法則を示唆する結果が一致して得られたということになります。

Belleグループの実験代表者の一人である山内正則(やまうちまさのり)教授は、「まだ統計精度が不十分で、発見しましたと報告できる段階ではないが、重要な手がかりが得られたものと考えている。今後はこれを詳しく調べて、新しい物理法則を確立し、さらに解明するということが大きな研究課題になるだろう。」と述べています。

理解するのがちょっと難しいペンギン・ダイアグラムのお話ですが、まだまだ今後の実験データの蓄積の様子から目が離せないようです。


※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→Belleグループのwebページ(英語)
http://belle.kek.jp/
→KEKBのwebページ(英語)
http://www-acc.kek.jp/KEKB/

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[図1]
Bファクトリー加速器(KEKB)によって光速近くまで加速された電子とその反粒子である陽電子を衝突させて大量のB中間子を生成し、その崩壊の様子を精密測定する巨大なBelle測定器。
拡大図(79KB)
 
 
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[図2]
Bファクトリー加速器(KEKB)。加速器の性能をあらわすルミノシティが設計値をさらに越えて、性能向上を続けている。
拡大図(70KB)
 
 
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[図3]
B中間子がimage中間子とKs中間子に崩壊する過程でB中間子を構成するボトムクォークが「量子トンネル効果」と呼ばれる現象により、一瞬だけ35倍も重いトップクォークと16倍重いW粒子に化ける過程を示したペンギンダイヤグラム。
拡大図(11KB)
 
 
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[図4]
北京で開かれた高エネルギー物理学国際会議でBelleグループの実験結果を発表する、堺井義秀(さかいよしひで)教授。
拡大図(71KB)
 
 
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[図5]
粒子・反粒子の非対称性の大きさを様々な崩壊パターンについて測定した結果。もし、標準理論だけが唯一の物理法則であれば、一番下の値(+0.736)にすべて一致するはずであるが、ここにあげた6種類のパターンの平均値は+0.43で、新しい何かが示唆されている。
拡大図(44KB)
 
 
 
 

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