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last update:05/10/06  

   image 三角形の作り方    2005.10.06
 
        〜 Belle実験とユニタリティ三角形 〜
 
 
  三角形で測る物質と反物質の性質の違い

以前にもお話ししましたように、Belle(ベル)実験では「CP対称性の破れ」と呼ばれている物質と反物質の物理法則の違いを測定してきました。この対称性の破れの基礎となり、また6種類のクォークの存在を予言した小林・益川理論を図解でわかりやすく表わそうとする試みが今回紹介する「ユニタリティ三角形」です。

三角形とCP対称性の関係

6種類のクォークのうち重いクォークはより軽いクォークに崩壊していきます。また、量子力学により軽いクォークであっても一瞬の間だけならば重いクォークへ「崩壊」(あるいは遷移)することができます。もっともそれは一瞬のことで、すぐにさらに軽いクォークに再び崩壊します。B中間子を作っているボトム(b)クォークは通常チャーム(c)クォーク、まれにアップ(u)クォークに崩壊するのですが(b→cとb→u)、トップ(t)クォークにも崩壊(b→t)することも可能で、できたトップクォークはあっという間にストレンジ(s)またはダウン(d)クォークに壊れます(t→sとt→d)。

これで6種類のクォークが全部でてきましたね。そうです、B中間子の崩壊を調べると全種類のクォークのすべてではありませんが、さまざまな性質を調べることができるのです。また、このほかにチャームクォークはダウンクォークに素粒子の世界としては「ゆっくり」壊れますし(c→d)、アップとダウンのクォークは同じくらいの質量で、どちらの方向にも「崩壊」します(u→dとd→u)。

ここで、クォーク間の崩壊というのは重い方から軽い方でも軽い方から重い方でも同じ強さになります。クォークの種類が違えば崩壊の強さは異なり、たとえばボトムクォークの場合には、トップへ壊れる強さが最も大きく、ついでチャーム、そしてアップへ壊れるのが最小となります。それでもトップからストレンジやダウンに壊れる強さがとても小さいので、結果ボトムクォークの大多数はチャームクォークに崩壊することになります。

小林・益川理論によると、この崩壊の強さを組みあわせて興味深い三角形を作ることができます。ボトムクォークからダウンクォークへ至る道筋は b→t→d、b→c→d、b→u→d の 3通りあって、ここではその崩壊の強さをそれぞれの崩壊の強さの掛け算として(b→t)×(t→d)、(b→c)×(c→d)、(b→u)×(u→d)と表せます。通常はこれらを V*tbVtd、V*cbVcd、V*ubVudという記号で表わします。これらの崩壊の強さは複素数という長さと角度を持った数で表わされ、3つの強さはちょうど図2のような三角形になるのです。これをユニタリティ三角形と呼んでいます。

この複素数の角度は物質と反物質では反対向きになります。ですから、この角度がゼロでなければ、つまり三角形がペチャンコにつぶれてなければCP対称性が破れているということになるのです。Belle 実験で最初に発見されたCP対称性の破れは、φ(ファイワン)という角度がゼロではないということを示したものだったのです。

三角形の作り方(1)〜 三辺の長さ

三角形の三辺の長さをすべて測れば、三角形の形が決まります。これは図3のようにコンパスで三角形を描くのと同じですね。

ここで底辺には(b→c)×(c→d)をとります。b→c崩壊もc→d崩壊も精度よく測られているからです。次に、左側の辺に(b→u)×(u→d)をとります。b→uの強さの測定は難しいのですが、Belle 実験で測ることができて、精度もだんだん良くなってきました。この測定の話については次の機会にゆずります。u→d は昔からよくわかっているので、これで辺の長さがだいたいわかります。

そうすると右側の辺は(b→t)×(t→d)となります。b→t→d、あるいは縮めてb→dの崩壊確率は非常に小さく、測定は困難を極めていました。しかし、前回お話ししましたようにBelle実験ではこの夏に初めてその測定に成功し、この辺の長さを測ることが可能になりました。誤差がまだ大きいのですが、図4のようになります。データが増えれば、コンパスで描いたようになるでしょう。

三角形の作り方(2)〜 底辺の長さと二つの角度

三角形のうち一辺の長さしかわからなくても、角度が二つわかればやはり三角形の形は決まります。これは図5のように定規と分度器で三角形を描くのと同じですね。ここでは底辺に再び(b→c)×(c→d)をとります。

ユニタリティ三角形の三つの角度にはφ、φ、φ3(ファイワン、ファイツー、ファイスリー)という名前がついています。底辺の右側の角度がφです。φの測定精度は年々よくなってきていて、最新の結果ではだいぶ定規で引いた線のようになってきました。

底辺の左側の角度はφ3になります。以前はφ3の測定はBelle実験のデータ量では無理なのではないかと言われていたのですが、最近非常にかしこい解析手法をあみだすことに成功し、測ることができるようになりました。この話についても次の機会にゆずりますが、測定結果は図6のようになります。現時点では2つめのφ3を測った方が正確な三角形が決まります。

三角形の完成?

この二つの三角形、同じものであると考えられているのですが、小林・益川理論を越える物理法則があれば違う形をしていても構わないのです。今のところ精度があまり良くないので大きく違ってはなさそうですが、もしかすると実際には微妙に違うのかもしれません。現在世界中の研究者たちがこの三角形をより精度よく測ろうと日夜努力しています。三角形の形が素粒子の間に働く基本法則をよりよく理解する手掛りになるからです。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→Belleグループのwebページ(英語)
  http://belle.kek.jp/
→KEKBのwebページ(英語)
  http://www-acc.kek.jp/KEKB/

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[図1]
電子・陽電子衝突型加速器KEKBによって大量につくり出されるB中間子と反B中間子の崩壊の様子を詳しく捉える巨大なBelle測定器。
拡大図(79KB)
 
 
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[図2]
小林・益川理論を図解するとユニタリティ三角形になる。三つの角度と三辺の長さは Belle 実験で決めることができる。
拡大図(18KB)
 
 
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[図3]
三角形の作り方 (1)〜 コンパスを使って三辺の長さから三角形を作る。
拡大図(19KB)
 
 
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[図4]
b→u崩壊(黄色の円)とb→t→d崩壊(紫色の円)から決めるユニタリティ三角形の頂点。
拡大図(29KB)
 
 
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[図5]
三角形の作り方 (2)〜 コンパスを使って三辺の長さから三角形を作る。
拡大図(14KB)
 
 
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[図6]
現在のφの角度の測定結果の世界平均値。
拡大図(18KB)
 
 
 
 
 

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