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last update:05/03/24  

   image 「美しい実験」    2005.3.17
 
        〜 Belleと名付けられるまで 〜
 
 
  何にでも名前をつけるときには、そこに特別な願いや遊び心が込められているものです。次々とめざましい結果を出しているBelle(ベル)実験とKEKB加速器。今回はこれらに関連する“名前”にこだわって紹介したいと思います。

おやまあ、レオン君

Belle実験はKEKB加速器によって“B中間子”という粒子を大量に作り、宇宙のナゾに迫る実験であることは、これまでに紹介してきました。B中間子は物質を作る基本粒子である6種類のクォークのうち、「ボトム(b)クォーク」と呼ばれる粒子を含んでいます。

ボトムクォークは1977年、bクォークと反bクォークの対である「ウプシロン粒子」によって明らかになりました。ウプシロンを発見し、その名前(ギリシャ文字、Υ)を付けたのは、米フェルミ国立研究所で実験をしていたレオン・レーダーマンが率いるグループです。しかしレーダーマンは、本当の発見をする前に一度、間違った発表をしてしまったのです。

1976年、彼らは陽子をベリリウムの標的にあて、興味のあるエネルギー領域に27個のデータを得ました。彼らには、その中の12個があるエネルギー(6GeV)にかたまっているように見えました。そこで彼らはこれが新しい粒子、ウプシロンだと思い、そのように発表したのです。

しかしこれは、データの数が少ないために見えた“統計的なゆらぎ”でした。さらに実験を進めたところ、このピークはなくなりました。そこで、レオン・レーダーマンの「ウプシロン」粒子は、「ウープス、レオン(おやまあ、レオン君)」だという冗談がはやったのです。本物のウプシロン粒子はその後すぐに発見され、1977年6月に論文が投稿されました。レーダーマンはのちに米フェルミ国立研究所の所長も務めました。

世界最強のルミノシティ(毎秒毎平方センチメートルあたりのビームの衝突数)を誇るKEKB加速器は、電子と陽電子の塊を衝突させることで、ウプシロン粒子を生成してB中間子の振る舞いを調べています。

“美しい”実験

Belle実験は、1987年末から“トリスタン実験”の高崎史彦KEK教授らによってその構想が練られていました。というのは、その年の会議で、トリスタン実験が発見を目標にしていたトップクォークが予想より重く、トリスタン加速器では見つけることができないことがわかったためです。

加速器でつくられたB中間子を捕まえる“眼”にあたるのが“Belle測定器”です。“Belle”は測定器の名前であり、実験グループの名前でもあります。この名前は1994年1月、奈良女子大学で行われた実験グループの会議で決定されました。

Belle実験の“ベル-Belle-”は、フランス語で美しい、という意味です。Belle実験ではKEKB加速器によって1秒間に約14対もの“B中間子”を生成してその性質を調べます。B中間子を構成するボトムクォークは、別名をビューティー(美しい)ともいいます。ではどうして英語の“ビューティー”実験ではなく、フランス語の“ベル”実験になったのでしょうか。

そこには提案者の遊び心が込められているのです。KEKB加速器は電子(electron)と陽電子(positron)の塊を衝突させてB中間子をつくります。つまり"B-meson study with the electron positron collider(電子陽電子コライダーを用いたB中間子の研究)"ということができるのです。ここで“陽電子-positron-”に注目してくださ い。

陽電子とは、電子の“反粒子”であり、電子と性質は同じだけれども、電荷の符号などが逆である粒子です。電子を“el”とすると、陽電子は電子の反粒子で あることから、これをひっくりかえし、“le”とします。するとB中間子のBとつなげて“Belle(ベル)”になるのです。

この名前を提案したのは、バージニア工科大学のアル・アバシアン教授でした(図3)。多くの提案のなかから、メンバーの投票によってこの名前が選ばれました。この他にも、ハッピーエンドのディズニー映画「美女と野獣(Beauty and the Beast)」にちなんでBeast、また、Positron Electron Assymmetric Collider Experiment(陽電子・電子非対称コライダー実験)の頭文字をとってPEACE(ピース)実験など、ユニークな名前が多く提案されました(図4)。残念ながらこれらの名前は採用されませんでしたが、Beastの提案者であった幅淳二教授は、実験開始前に使った測定システムにBeastの名前をつけたそうです。

戦いの神、アレス

ここでもうひとつ、違う名前を紹介しましょう。KEKB加速器の“アレス(ARES; Accelerator Resonantly coupled with Energy Storage)”空洞です。アレスというのはギリシャ神話の戦いの神で火星の別名です。余談ですが、さそり座の1等星は火星と同じような赤い色をしていて、火星がそばにやってくるたびにその赤さを競い合うように見えることから「Anti-Ares」(火星に対抗するもの)という意味でアンタレスと名付けられました。

アレス空洞の開発者であり、この名前をつけたのは影山達也助教授です。加速器は、強い電場によって電荷をもった粒子を加速します。KEKB加速器の大電流のビームを加速するために開発された加速空洞がアレス空洞です。競合するアメリカのSLACのPEP-II加速器とは根本的に違う手法を用いた加速空洞で“戦いに勝つように”という願いがこめられているのです。

KEKB加速器を世界一の性能にすることを可能にした数々の技術については日を改めてお伝えしましょう。

(サイエンスライター  横山広美)




※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→Belleグループのwebページ(英語)
  http://belle.kek.jp/
→KEKBのwebページ(英語)
  http://www-acc.kek.jp/KEKB/

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[図1]
Belle測定器の前で。Belleという名前は1994年1月、奈良女子大学で行われた実験グループの会議で決定された。
拡大図(68KB)
 
 
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[図2]
Belle測定器の構造。電子と陽電子が測定器の中心で衝突し、そこで生まれたB中間子の性質を調べる。
拡大図(54KB)
 
 
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[図3]
Belle実験の名前を提唱したバージニア工科大学のアル・アバシアン教授の提案書。
拡大図(135KB)
 
 
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[図4]
奈良女子大学の会議では他にもいろいろな名前が提案された。
拡大図(50KB)
 
 
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[図5]
Belle実験のシンボルマーク。B中間子の「B」を意味しているが、横にしてみると電子(e)と陽電子(eの反転)の組み合わせになっている。
 
 
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[図6]
KEKB加速器の直線部分にはアレス空洞(火星の如き赤銅色)が並んでいる。
拡大図(81KB)
 
 
 
 

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