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加速器の未来を拓く 2010.1.14 |
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〜 先端加速器の研究開発の現状 〜 |
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KEKでは、先端加速器技術の研究開発が進んでいます。「先端加速器」とは、加速器の性能を上げるとともに、小型化した加速器のことで、その技術の様々な分野への応用も推進して、社会の役に立つことも目指しています。この研究開発の2つの柱が、粒子を効率よく高いエネルギーで加速するための「超伝導加速空洞」と、毎秒あたりの粒子衝突数(ルミノシティ)をより多く得るための「ナノビーム制御技術」です。 効率よく加速する超伝導加速空洞 ある種の物質を極低温に冷やすと、電気抵抗がゼロになる「超伝導」状態が生じます。ニオブ等の超伝導素材でつくられた空洞にマイクロ波を送り込んで電場をつくり、電子や陽電子のビームを加速するのが超電導加速空洞。−271℃まで冷却された空洞の内表面は超伝導状態になり、電気抵抗が生じません。そのため、電力損失や加熱が起こらず、空洞の中にマイクロ波のエネルギーを、きわめて効率よく溜め込むことができます。 また、小さな電力で高電界を発生することが可能となり、大きなエネルギーを短い距離で粒子に与えることができるようになります。さらに、大口径の加速空洞を実現することができるので、大電流のビーム加速を行うことができるという特徴を持ちます。 世界記録となる10億個のB中間子対生成を2009年末に達成し、記録更新を続けているKEKB加速器でも、8台の超伝導加速空洞が活躍しています。また、KEKB加速器の前身であるトリスタン加速器では、32台の超伝導加速空洞を使用して、世界初となる大規模・大電力システムを実現しました。 超伝導加速技術は、超高エネルギーでの電子と陽電子の衝突実験を行う国際リニアコライダー(ILC)計画でも基盤技術として採用され研究・開発が進められています。全長31kmの直線トンネル内で500GeV(GeV=10億電子ボルト)の衝突エネルギーを実現するために、1mで31.5MeV(MeV=100万電子ボルト)の加速を行う超伝導加速空洞を約1万6000台配置する計画です。現在その加速性能の達成、大量生産にむけての研究・開発が進んでいます。 また、物質のより精密な構造を見て、生命活動のより速い反応を観測するために開発されている次世代の放射光源ERL(Energy Recovery Linac/エネルギー回収型ライナック)にも超伝導加速空洞が使われる予定です。ERLでは放射光を出し終えて不要になった電子ビームのエネルギーを、超伝導加速器を通して回収し、次の電子ビームを加速するために利用します。従来の蓄積リング型放射光源の1000倍の輝度、1000分の1の短いパルス幅を目指しています。 ナノメートルサイズのビームを実現する 電子・陽電子の衝突では、高いエネルギーになればなるほど、その衝突頻度が急激に落ちることが知られています。そこで、ILCのような超高エネルギーでの粒子衝突実験で、衝突頻度をあげるためには、ビームを小さく絞り込む技術が必要となります。ビームを小さくすれば、電子や陽電子の密度が高くなり、衝突の頻度が上がります。ILCでは、衝突点付近で高さ5ナノメートル(nm=100万分の1mm)のビームサイズにする計画です。これは水素原子わずか100個程度の厚さに相当します。 ビームの絞り込みには、磁場の強度分布の変化が急でしかも精密に制御された「高精度高勾配収束電磁石システム」と、粒子の方向がよく揃った「超平行ビーム」を実現しなければなりません。また、小さなビームを正確に衝突させるには、衝突位置のズレをナノメートル精度に制御する技術も不可欠です。 その実現に向け、KEKの先端加速器試験棟内の加速器ATFでは、従来よりも約100倍も平行度の高い「超平行電子ビーム」をつくる研究が進められてきました。 ATFの電子リングは周長約140mのレーストラック型で、真空パイプの中を電子ビームが走ります。このパイプに沿って、約50個の偏向磁石(電子ビームをパイプの形に沿って曲げる磁石)、約100個の収束磁石、約100個のステアリング磁石(電子ビームの軌道を修正する磁石)、100個のビーム位置モニター が、測量技術を駆使して、50マイクロメートル(μm=1000分の1mm)の精度で設置されています。この電磁石群の設置精度(位置決め精度、アライメント)がナノメートルサイズのビーム生成と制御を可能にしています。 超平行に揃えられたビームは、ちょうど虫眼鏡で太陽光線を絞るのと同じようにナノメートルのサイズに絞り込まれます。太陽光線がレンズによって一点に集光できるのは、太陽からの光が平行に揃っているからです。KEKの先端加速器試験棟に設置された絞り込み用のビームラインATF2は、長さが60m。高性能な光学写真機に、多くのレンズを並べ、収差(光の絞り込みを阻害する要因)を取り除き、シャープな像を得るのと同じ原理で、ビームは多数の磁石を通過することで、絞り込まれます。ATF2では、絞り込まれたビームのサイズは35nmになる予定です。 小型高輝度光子ビーム発生装置開発プロジェクト こうした先端加速器の技術を実用化するプロジェクトも進んでいます。これまで大型の加速器施設でのみ行うことのできた研究を、大学や企業の研究所や工場、病院などでも可能にする「新しい光」を実現する小型高輝度光子ビーム発生装置開発プロジェクトです。 これは文部科学省が公募した、平成20年度「光・量子科学研究拠点に向けた基盤技術開発」の「量子ビーム基盤技術開発プログラム」として採択された研究開発プロジェクトです。 超伝導空洞のテクノロジーと大強度で高品質な電子源、レーザーパルス蓄積技術、およびこのレーザーと電子ビームと重ね合わせるビーム衝突技術を駆使し、幅広いエネルギーのX線を発生させる小型高輝度光子ビーム発生装置の開発を行います。 このプロジェクトに費やされる期間は約5年間。生命科学研究、ナノ構造解析、創薬、医療診断、マイクロリソグラフィー技術などへの応用により、人々の日常生活に大きなプラス効果を生み出すことを目指しています。 先端加速器推進部 世界のトップレベルに到達した日本の加速器科学を更に発展させ、将来の加速器科学を先導する世界の研究拠点を構築するために、KEKでは「先端加速器推進部」を設置しています。その下で「リニアコライダー計画推進室」と「ERL計画推進室」、「小型高輝度光子ビーム発生装置開発プロジェクト」が研究活動を展開しています。また加速器実験により生じた粒子反応をより高精度で測定し、また得られた実験データを高速に処理するなどの研究開発を行う「測定器開発室」も設置されています。 同推進部は先端加速器科学技術推進協議会とも協力し、産学官連携の強化によって、先端加速器の技術開発に新しい価値が生み出され、それが広く共有されることも目指しています。
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