渡辺昇名誉教授AONSA賞を受賞

 

11月23日(水)、つくば国際会議場(茨城県つくば市)で行われた第1回アジア・オセアニア中性子散乱会議(1st AOCNS, 1st Asia-Oceania Conference on Neutron Scattering)内にて、渡辺昇KEK名誉教授がAONSA賞を受賞しました。AONSA賞は、アジア・オセアニア中性子散乱協会(AONSA)が2010年10月に設立した、中性子科学・技術分野の利用または開発において著しい貢献をした研究者に隔年で贈られる賞で、今回が第1回目の授与となります。

受賞式典では渡辺教授が築いた功績を「50 years walking with pulsed neutron(パルス中性子と歩んだ50年)」と題して記念講演が行われました。講演では学生時代のエピソードや物理を選ぶきっかけとなった恩師との出会い、研究に没頭した日々などがユーモアたっぷりに話されました。

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AONSA Prize受賞の渡辺昇KEK名誉教授

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授与されたメダル

渡辺教授は1961年に東北大学へ着任し、新設された原子核工学科にて第1期の原子炉主任技術者の資格を取得、パルス中性子による原子炉の炉心パラメータ測定実験法や原子炉制御技術の研究を経て、1967年から原子核理学研究施設の木村一治教授と共に、電子線加速器による世界初の物性研究用のパルス中性子源を建設しました。その後異動したKEKでは、1980年、陽子加速器による世界初の実用スポレーション・パルス中性子源施設、KENS施設(KEK Neutron Source)を立ち上げました。KENS施設では、パルス中性子源から実験装置までの中性子輸送の革新、中性子検出器開発、データ解析用ソフトウェア開発などを手がけ、文字通り日本のパルス中性子科学の礎を築きました。渡辺教授の功績は中性子施設の建設や運用、実験のノウハウなどはもちろん、中性子科学を担う若手の育成にもあります。現在、中核となって日本の中性子科学を推し進めている研究者には、渡辺教授の下で学んだ学生が数多くいます。

「当時は装置も解析ソフトも何もないから思いつきでどんどん実験や開発をやってきました。何もないからこそ、自由だったともいえます。」現在では中性子源や測定器、それぞれに専門開発グループがいるほどの研究開発を全て手がけた経緯を振り返り、語りました。

渡辺教授は、KENS施設の完成と同時にその発展を求めてKENS-II計画を立案してきました。この計画は、後に日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の中性子科学計画と融合し、2008年J-PARCの中性子施設である物質・生命科学実験施設(MLF)の完成となりました。MLFは、KENS施設と同じく陽子加速器によるパルス中性子を利用する実験施設です。KENS施設の頃よりも強度およびパルス特性を飛躍的に上げ、実験を行うためのビームラインもバリエーション豊かに増え、世界中に中性子実験の門戸が開かれています。MLFの中性子ビームラインの1つ、BL10には渡辺教授の名前を冠したNOBORUがあります。このことからも、渡辺教授と中性子科学の深い縁が伺えます。

なお、J-PARC中性子施設の完成に伴い、KENS施設は2007年3月に運転停止しました。KENSの名はKEK物質構造科学研究所中性子科学研究系(KEK Neutron Science)として引き継がれ、世界の中性子科学をリードする大学共同利用実験研究を推進しています。

関連サイト

1st AOCNS
The AONSA Prize 2011
J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)
中性子科学研究系 KENS

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