Belle実験データの一部消失について

 

平成25年4月30日

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構

平成24年12月14日、高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、平成23年6月から平成24年1月にかけて行ったBelle実験※1のデータ移行作業に伴って一部のデータを消失した件について、1)研究者による調査委員会から報告を受けたこと、2)外部有識者による検証委員会を設置して検証を行っていくこと、の二点を公表いたしました。このほど、同検証委員会より報告書の提出がありましたので、今後のKEKの対応と合わせてご報告いたします。

1.経緯

今回問題となったデータ移行作業は、平成23年6月から平成24年1月にかけて、「B計算機」(平成24年2月運用停止)のテープ記憶装置から「新中央計算機」に移行すべく実施した。移行の際、新旧計算機の契約上の関係からKEK内の「共通計算機」を経由する方法を選択した。

その作業の途上、ファイル選定作業の誤りにより、対象とした1820TB※2、330万件のデータのうち、容量にして29%、ファイル数にして62%がコピーされなかった。データ復旧を行ったが、生データ※31010TBのうち5%、及びBelle実験本来の目的ではないが実験遂行上派生した研究のうち一件に関連した物理データ※4の5.4TBのうち2.6%が失われる結果となった。

KEKは上記を踏まえ、民間の方を含む検証委員会(委員長:上原健一・国立大学法人筑波大学産学リエゾン共同研究センター教授)を昨年12月に設置した。検証委員会は、研究者で組織された調査委員会(委員長:山中卓・国立大学法人大阪大学大学院理学研究科教授)の報告書について、4回にわたり検証を実施し、その内容を妥当と判断するとともに、KEKによる今後の対応について提言を行った。

2.検証委員会による報告内容(要旨)

Belle実験が当初目的としてきた現象に関わる物理データは、復旧によりデータ消失はない。

Belle実験本来の目的ではないが、実験遂行上派生した研究のうち一件に関連した物理データの消失は、Belle実験のこれまでの成果や今後の成果に影響を及ぼすものではなく、具体的・現実的に損害が発生した事実は認められない。

データ消失は、個人レベルのヒューマンエラーと、組織レベルでの不十分なチェックに起因するものである。今後、人間はエラーを起こすことを前提とした、組織的、制度的な改善策が取られるべきである。具体的には、KEKの情報セキュリティーポリシーの確立、科学実験データ保存についての議論、適切なプロジェクト管理基準の検討、業務体制の点検を実施するべきである。(添付資料1)

3.KEKの対応

KEKは、検証委員会報告書を踏まえ以下のように対応します。(添付資料2)
1) 職員に対する指導
2) データ保存の諸規程、制度、設備の整備
3) 部内の連携とコミュニケーションの在り方の整備と充実
4) 類似事案に対応するワークフローの整備

Belle実験データの復旧と最終消失の状況については、付図をご参照ください。本事案によって関係者の皆様にご心配をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。

広報担当理事・広報室長 峠 暢一

添付資料

添付資料1.検証委員会報告書の概要
添付資料2.高エネルギー加速器研究機構による対応について
添付資料3.検証委員会報告書(全文)
添付資料4.参考(調査委員会報告書の概要)

検証委員会報告書に引用されている資料につきましては以下のwebサイトをご参照ください。

 [1] 第1回検証委員会資料3-1「Belleデータ損失調査委員会報告」
 [2] 第1回検証委員会資料3-2「Belleデータ損失調査委員会最終報告書」
 [3] 第1回検証委員会資料4-1「失われたデータと研究への影響」
 [4] 第1回検証委員会資料4-3「Belle実験グループボードからのレター」
 [5] 第1回検証委員会資料5-1「Belle実験データの一部損失に関するヒアリング(概要)」
       別表 Belle実験データの一部損失に関するヒアリング調査シートの取りまとめ
 [6] 第1回検証委員会資料5-2「機構執行部の所見」
 [7] 第2回検証委員会添付資料③「米国Cincinnati大学Prof. Kinoshitaからのレター」
 [8] Status Report of the DPHEP Study Group:"Towards a Global Effort for Sustainable Data Preservation in HighEnergy Physics"
 [9] 経済産業省「システム管理基準」(平成16年10月8日策定) [経済産業省のサイトへ]

※なお、「第1回検証委員会資料4-2」は、[ 2 ] 第1回検証委員会資料3-2「Belleデータ損失調査委員会最終報告書」に注釈を入れたファイルとなり、同じ内容のものであるため今回は掲載しておりません。

用語解説

※1 Belle実験
高エネルギー加速器研究機構のKEKB加速器を使って作り出したB中間子と反B中間子の崩壊の様子を、Belle検出器で精密に観測する実験であり、国際共同実験として、世界15の国と地域の59研究機関から約400人の研究者が参加して、平成11年6月から平成22年6月までデータ収集が行われていた。

※2 TB
データ量やコンピュータの記憶装置の大きさを表す単位のひとつで、テラバイト(terabyte)の略記である。1TBは約一兆バイトである。

※3 生データ
素粒子反応を測定する測定器装置から直接得られる一次データであり、Belle実験では、1010TBのデータが得られた。

※4 物理データ
生データをもとに物理的に興味ある反応だけを抽出し、生成された粒子の種類、運動量などをまとめたデータ。物理学の研究は通常このデータを用いて進められる。

関連サイト

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