岡田勝吾研究員がGPUテクノロジー・カンファレンスJapan 2016において最優秀ポスター賞を受賞しました

 


NVIDIA Awardを受賞したKEK計算科学センターの岡田勝吾研究員

高エネルギー加速器研究機構(KEK)共通基盤研究施設計算科学センターの岡田勝吾研究員が、10月5日に開催されたアジア最大のGPUコンピューティングに関する学術会議、GTC(GPUテクノロジー・カンファレンス)Japan 2016において、「GPUによる細胞レベルの放射線シミュレーションの高速化」というポスター発表を行い、最優秀ポスター賞であるNVIDIA Awardを受賞しました。

会議の名称にあるGPUとは、コンピュータゲームなどの3次元画像処理に特化したグラフィックス用のデバイスで、大量のデータを数千個のプロセッサで同時かつ並列に処理できることから、近年、人工知能や自動車の自動運転など高い計算能力を必要とする様々な分野での科学計算にも広く利用されています。GTC Japan2016には各研究機関、企業から、約3200名の研究者が参加してGPUに関する口頭発表およびポスター発表が行われ、岡田研究員は、査読を通過し厳選された23のポスター発表の中から最優秀の栄誉に輝きました。

KEK計算科学センターでは、素粒子実験における放射線シミュレーションのためにKEKやCERNなどの国際コラボレーションが開発した大規模シミュレーションソフトウェア「Geant4」を医学分野への応用に取り組んでいます。その一環として、細胞レベルの低線量での放射線現象を数値的に評価するために、フランス・ボルドー大学のボルドー・グラディニャン原子力研究所(CENBG: Centre d'Etudes Nucléaires de Bordeaux-Gradignan)と共同で「Geant4-DNA」というシミレーションソフトウェアを開発しています。

Geant4-DNAは、シミュレーションを何度も行うことによって精度の高い数値を求める計算手法であるモンテカルロ法を用いて、放射線の影響によるDNAの損傷を数値化して予測するものですが、シミュレーションで発生するすべての粒子と分子を処理するため、数日から週単位の長い計算時間がかかる点で課題があり、現在、GPUを用いた計算時間の高速化が進められています。

岡田研究員の研究では、Geant4-DNAの計算過程にあるプログラミング言語を書き換えてGPUを使用することで、計算速度が最大200倍にまで向上しました。これは、これまで4日かかっていたシミュレーションの計算時間を30分程度にまで短縮するものです。今回のGTC Japan 2016では、GPUを利用した大幅な計算速度の向上と、社会貢献につながる意義深い研究であることの二つの点から高い評価がなされ受賞につながりました。なお、副賞として最新のGPUが贈られたとのことです(写真)。

岡田研究員は、「今後はこの手法にDNAの放射線損傷のモデルを実装することで、細胞の生存率等を高速かつ高精度に予測できるようにしたい」と述べています。本研究の進展により、宇宙線による低線量被ばくの環境下にあるパイロットや宇宙飛行士などの健康への影響を数値化して評価することができると期待されます。

関連サイト
Geant4
Geant4-DNA(英文)
GTC Japan 2016
CENBG(英文)
Geant4 日本グループ
Geant4の医学応用
Geant4日本グループのTwitterアカウント


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