天文学者ハッブルは、地球からうんと遠く離れた天体が、どちらを見ても地球から猛スピードで遠ざかっている事を観測で明らかにしました。これは宇宙が一様に膨張していることの証拠です。このことは、時間を逆にたどっていくと、私たちの宇宙がその昔非常に小さかったことを示唆しています。また、得体の知れない雑音電波としてペンジャースとウイルソンを悩ませた、私たちの宇宙を満たしている弱い電波(宇宙マイクロ波背景輻射)は、宇宙の膨張とともに温度が下がり続けている黒体輻射(ビッグバンの残光)であることがわかりました。邪魔な雑音電波と思われたものが実は宇宙がビッグバンより始まったことを示す決定的な証拠となる世紀の大発見だったわけです。
今から 約137 億年ほど前、私たちの宇宙は大爆発とともに生まれたと考えられています。その誕生直後の宇宙は、熱く煮えたぎり、高いエネルギーの光で満たされていました。この光が雑音電波の正体だったわけです。現在、私たちは、このビッグバンの痕跡の中で生活しているのです。

宇宙の進化の歴史は、物質の進化の歴史であると同時に、力の進化の歴史でもあります。現在の宇宙論によれば、重力が他の力と同じように重要になる創成より10-43秒まで時間をさかのぼって考えることができます(これより前は、量子揺らぎによって、時間とか空間という概念そのものが怪しくなります)。創成より『わずか』1マイクロ秒間の世界は、基本粒子であるクォークとレプトンの世界でした。コライダーによる高エネルギー実験は、まさに、この最初の1マイクロ秒間の、クォーク・レプトンの世界に何が起こったのかを、実験室内に再現しているのだと考えることができます。例えば、現在計画中の大型高エネルギー加速器で到達可能なエネルギーは、宇宙年齢にして10兆分の1秒(10-13秒)に対応しています。温度はエネルギーに比例するので、これは、宇宙の温度にして1016度、つまり、1兆度のそのまた1万倍の温度に対応します。さらに宇宙創成直後に迫る10-38秒のときには、力は大統一されていたと考えられています。

さらに進んで、重力を含む全ての力の超対称大統一理論が確立されれば、宇宙創成のほとんど瞬間まで迫ることができるのです。

宇宙は『真空のゆらぎ』から生まれ、インフレーションと呼ばれる急激な膨張により、過冷却状態になったと考えられています。その時真空に蓄えられたエネルギーが急激に開放され、宇宙は熱い火の玉となりました。これがビッグバンです。この『真空のゆらぎ』がなぜ存在したのか、インフレーションを引き起こし、宇宙誕生の原動力となった力は何なのか、今の私たちには知る由もありません。

これらの疑問に答え、どのような宇宙、または真空の対称性が宇宙創成の瞬間に存在し、それが約137億年を経た現在の自然法則をいかに作り上げたのかを解明することこそが、高エネルギー加速器実験の究極の目標なのです。




宇宙創成の瞬間
新粒子発見、20世紀なかば
クォークとレプトン
秩序あるクォーク・レプトン
粒子と反粒子
反物質の世界
自然界の4つの力
力の大統一と素粒子理論
ニュートリノとニュートリノ振動
ヒッグス粒子と質量
素粒子(クォーク・レプトン)
陽子・中性子(ハドロン)
原子核
原子・分子
物質
生物
人間
地球
宇宙

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