現在の素粒子像「標準模型」
物質はクォークとレプトンからできています。クォークもレプトンも6種類みつかっており、それ以上はなさそうです(図1参照)。 それらの物質粒子の間に働く力(相互作用)には強い力、電磁力、弱い力および重力の4種類があります。これらの力を伝える媒介粒子として、8種のグルーオン(強い力)、光子(電磁力)、3種のウィークボゾンW+,W-,Z(弱い力)があります。粒子間に力が働くためには粒子がそれに対応したカラー(強い力)、電気(電磁力)、ウィーク電荷(弱い力)とよばれる「電荷」を持っているからです。クォークは強・電・弱の3つの力を感じるのはそれらの3つの「電荷」をみな持っているからで、レプトンはカラーを持たず強い相互作用をしません。

相互作用のかたちは、場の量子論(ゲージ場理論)にもとづいています。強い力は量子色力学(QCD)、電磁力と弱い力はワインバーグ・サラム理論で記述され、この2つの理論を合わせて「標準模型」とされています。この標準模型はすばらしい予言能力を持つ理論で、1電子ボルトの原子のふるまいから1千億電子ボルト(100 GeV)の高エネルギー現象までを厳密に計算することができるのです。量子力学と相対性理論の延長線上にある近代物理学の輝かしい成果と言ってよいでしょう。


素粒子の質量
表1.素粒子の質量
単位は百万電子ボルト(MeV)
粒子のなまえ 質量



アップ
ダウン
ストレンジ
チャーム
ボトム
トップ
3
6
120
1200
4200
174000



電子ニュートリノ
ミューニュートリノ
タウニュートリノ
電子
ミュー
タウ
〜0
〜0
〜0
0.5
106
1777
ところが、標準模型が原理として用いているゲージ場理論が成り立つには、すべての素粒子の質量が厳密にゼロでなくてはなりません。ところが表 1に示すように、クォークやレプトンは質量をもつことが実験からわかっています。 この矛盾は、現在の宇宙が「ヒッグズ場」の中に浸っていると仮定すると解くことができます。標準理論では、ビッグバン直後には、全ての素粒子が、何の抵抗を受けることもなく真空中を自由に運動できていたと考えます。つまり、全ての素粒子に質量がなかった時代です。しかし、ビッグバンから、10-13秒過ぎたころに、真空の相転移が起こり、真空がヒッグス粒子の場で満たされてしまったと考えられます。これはちょうど水蒸気が冷えて、液化して水になる状況に例えられます。宇宙の冷却とともに真空はヒッグス粒子の海になってしまったわけです。クォークやレプトンはヒッグス場と反応し、あたかも水の中を泳ぐ魚のごとく、ヒッグス場によるブレーキを受けることになり質量のある粒子と同じふるまいをします(図2)。光はヒッグス場とは反応しないので光速で飛び質量はゼロのままです。

図 2 . 現実はヒッグス場の海のなかにあり、ヒッグス場と反応する粒子は抵抗を受けて光速では飛べなくなる。これは質量を持つことと同等である。


ヒッグス粒子
ではヒッグス場は本当に存在するのだろうか?
電磁場が存在すれば光子があるように、ヒッグズ場が存在すればヒッグス粒子が最低1種類あるはずです。ヒッグス粒子の性質は理論でよく予言されているので、どのような方法で発見するかはわかっています。

これまでの実験でまだ発見されていないので、ヒッグス粒子は114 GeV より重いはずです。理論の予言もまた間接的実験結果も、ヒッグス粒子は 1000 GeV (1兆電子ボルト)より低い領域に存在すると強く示唆しています。とくに 200 GeV より低い事がかなりの程度の確率で示唆されています。このエネルギー領域には次世代の加速器LHC(スイスで建設中、2007年完成予定)やILC(計画中)で到達できるので、ここ10年以内にヒッグス粒子は発見される可能性が非常に高いのです(図3)。

図 3 . ヒッグス粒子の存在する範囲をヒッグス粒子の質量の範囲で表わした図。
現存の加速器や将来加速器で発見できる範囲も示してある。





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